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したたかに勝ち点3を重ねた横浜FC。山口監督が4-3-2-1を採用した理由

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[7.22 J2第25節 横浜FC 3-1 鳥取 ニッパ球]

 サッカー界には「勝っているチームは、いじるな」という格言がある。だが、現在の横浜FCに、この言葉は当てはまらない。実際に横浜FCは13節から18節にかけてクラブ記録となる6連勝を飾り、現在もアウェー8連勝というJ2記録を更新中である。にもかかわらず、13節以降、スタメン出場を続けている選手は、GKシュナイダー潤之介、DF阿部巧、FW大久保哲哉とわずか3人だけだ。

 前節の千葉戦に0-1で敗れたとはいえ、この鳥取戦でも、山口素弘監督は4-4-2ではなく、4-3-2-1という布陣を採用した。「今までもゲームの途中でやっているので、スムーズに入れるなと思った」と話した指揮官だが、前半途中にMF八角剛史をアンカーに、右SHにカイオを置く4-1-4-1に布陣を変更している。さらにMF高地系治の負傷後は、MF武岡優斗を投入し、4-4-2に戻した。それでも「(4-3-2-1は)悪くはなかったと思います。システムどうこうより、ミスが出たかなと。もったいないミスが出て、パスがズレたり、その辺だけだった」と分析する。

 実際に細かいミスが出たことで、横浜FCは前線までボールをつなぐことができず、ピンチを招いていた。布陣をこれまでのベースであった4-4-2から4-3-2-1に変更した理由については、「多くは話せないが、一つはいつもやっているやり方が、悪い意味でこなれた感があったので、刺激を与える意味で」と指揮官は明かした。

 同じ布陣で戦い、結果を出し続ければ、油断が生じてしまうのも無理はない。特に相手が下位に低迷しているチームであれば、その危険性は増大する。あえて自分たちにとって難しい状況をつくることで、この試合に対する集中力を高めたのだ。

 もう一つの理由は、今後を見据えたものだ。この試合、シュート数は8対16と鳥取に大きく差を広げられた。ボールを保持するスタイルの構築を目指すチームであれば、2点差をつけて勝利したとはいえ、内容についての反省の弁が出ても不思議ではない展開だった。しかし、指揮官が「悪くはなかった」と振り返っただけでなく、MF高地系治も「多少、悪い流れはありましたが、全員で凌いで修正できれば問題ない」と手応えを口にした。この『全員で凌ぐ』形の構築が、この日の課題の一つだったのだろう。それを裏付けたのが、GKシュナイダー潤之介のコメントだ。

「監督から『4-3-2-1のときは、サイドはフリーにして、下がってブロックを組んでいい』という指示があったので。それを忠実にこなしながら、最後にブロックを組んで体を張って守ることができました。攻撃の部分は残念でしたし、選手がもっと応えないといけませんが、守備に関しては監督のやりたいことが反映できたのかなと思います」

 今後、J2優勝を目指して戦っていく中で、1点のリードを守り切らなければいけない展開も出てくるだろう。そのときになって策がない、というのでは手遅れだ。「今日の立ち上がりからそういう戦い方をしたのは、今後へ向けた狙いというのもあったと思います」と、シュナイダーは言う。選手たちも、まだまだ続いていくリーグ戦に向けた準備と捉えて、戦っていたのだ。

 山口監督は、まずは勝ち点3を挙げることに注力しながらも、相手との戦力差を分析してメンバーを組み、同時に今後のリーグ戦を見据えた強化も、試合を通して図っている。もしかすると、この試合を分析した他クラブには『横浜FCは戦い方を変えたのか?』と、警戒心を与えることにもつながるかもしれない。

 したたかに勝ち点3を積み重ねた横浜FC。その指揮官は、したたかにリーグ優勝への準備を進めているのだ。

(取材・文 河合拓)

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