beacon

「2日続けて慶應の選手が日本一」!? 苦しみ悩んだ多摩のMF伊達煌将、チームを救う決勝点

このエントリーをはてなブックマークに追加

後半40+5分、FC多摩ジュニアユースMF伊達煌将(左端)が決勝ゴール

[8.24 日本クラブユース選手権(U-15)決勝 FC多摩JY 2-1 ソレッソ熊本 帯広の森陸上競技場]

「甲子園で慶應が勝った? これは縁起がいいぞ。アイツがやってくれるんじゃないか?」

 FC多摩ジュニアユースの平林清志監督は、日本クラブユース選手権(U-15)決勝を前に、そんな軽口を交わしていたと言う。決勝前日の23日、いわゆる“夏の甲子園”を慶應義塾高が制したゆえ、同じ慶應義塾の中等部に通っているMF伊達煌将(3年)に、「いけるぞ」とハッパをかけていたのだ。

 伊達は「怪我するまでは先発していた選手」(平林監督)だが、大会前に負傷離脱。復帰はしたものの、万全の状態には戻らない中でポジションを譲る形となり、「先発に戻すことも考えたが、勝っている流れも考えて」(平林監督)ベンチスタートのまま、大会を過ごすこととなっていた。

 指揮官が「決勝のどこかで使うつもりだった」と言う伊達をピッチに送り出したのは、0-1で迎えた後半37分。本来は「中盤の後ろでボールをさばくのが上手いアンカータイプ」(平林監督)の伊達だが、ここは「トップ下の位置までどんどん上がって前を狙っていけ」という言葉で送り出されてピッチに立った。

 投入直後に同点となり、その後も攻め続ける流れの中で、チャンスは巡ってきた。こぼれ球を拾ったDF土岐桂音(3年)が右サイドをドリブル突破する中で、伊達はニアサイドへと突っ込む。得意なプレーというわけでも、そこを狙えと指示されていたわけでもないと言うが、そこへ向かった。

 上がってきたスピードのあるクロスボールを、ニアのジャンプヘッドで合わせるのは技術的にも簡単ではないが、見事にミートしてボールはゴールへ。この一発が、日本一を引き寄せる決勝点となった。

「クロスからのシュート練習はチームでよくやるんですけど、自分は苦手で、いつも居残り組に回っていた。得意なプレーではなかったけど、それでもやっていて良かった。けがもあって、全国ではずっと出られてなくて、でも親からは『サッカーの神様はどこかで観ているぞ』と言われていた。決まったときは、『本当に観ててくれたんだ』と思った」

 見事なゴールを決めたときは真っ白になりつつ、応援スタンドへ向かって一目散。言葉にならぬ雄叫びで控え選手と保護者たちから湧き上がった歓声に応えた。

「慶應の選手が2日続けて日本一になりました」と笑った伊達は、ただ、この決勝点で満足するつもりはない。再開される関東リーグ、冬の全国大会では主力選手としてポジションを奪い返し、主力選手として戦うことを目指す。全国での1点を、リスタートへの1歩とする。

(取材・文 川端暁彦)
第38回日本クラブユースサッカー選手権(U-15)大会特集
川端暁彦
Text by 川端暁彦

TOP