beacon

大ケガを経験して“支える側”へ…ペップに憧れる分析担当、名古屋高DF立本子龍(3年)の場合

このエントリーをはてなブックマークに追加

右膝前十字靭帯を負傷し、分析を担当する東邦高DF立本子龍(3年)

 高校選手権愛知県予選の決勝(17日・パロ瑞穂)に進んだ名古屋高東邦高には、膝の大怪我で出場の目標を断たれ、チームを支える役目に回った選手がそれぞれ在籍している。物静かなサイドバックは分析スキルを生かして監督の右腕役となり、Jリーグのスカウトが注目した絶対的エースはチームの精神的支柱。彼らはどんな心境で試合を見つめているのか、その想いに迫った。(1/2)

「間違いなく、彼がチームのストロングポイントです」。準決勝の中京大中京戦の試合後、山田武久監督が手放しで称えたのはピッチに立っていない“背番号17”だった。「本当は選手として試合に出てほしいくらい。ただ、そのような選手が役割を徹底してくれているおかげで、チームが一つになってやれている」。試合前の記念撮影、そして試合中のベンチには、常にそんな17番のユニフォームが掲げられていた。

 右サイドバックを担っていたDF立本子龍(3年)の悲劇は10月半ば、愛知県1部リーグ東邦戦で「着地というか、反対の足を振り上げた時」に起きた。診断名は右膝前十字靭帯断裂。サッカー選手に多い怪我では最も重い部類に入るものだ。「最初はとにかくパニックになった。そのあと、試合に出られないと分かった時は、何も考えられないし、何も考えたくなかった」。

 ただ、自らが生きる道は自分の力で見い出した。「これまで毎年、相手の分析という面でアバウトだったので、もっと細かくやれれば……と思っていた。もともと自分の試合は映像を見直していたし、プロのサッカーは見るのが好き。分析という観点ではないけど好きなんです」。お気に入りのチームはジョゼップ・グアルディオラ監督が指揮を執るマンチェスター・シティ。世界屈指の分析チームを持つビッグクラブだ。

「最近は気が付いたらペップ、って感じですね」。照れ笑いを浮かべつつ憧れを語った立本は自身の指揮官のことを慮る。「チームを支えるためには、マネジャーのような役割もあるにはあるんですけど、選手権前になると監督は映像をまとめるのが大変になる。そこで力になれるんだったらこういうことなのかな……と思いました」。同校初の全国選手権を目指すため、そうしてチームの頭脳を担う覚悟を決めた。

 主な仕事は、対戦が想定されるチームの試合に赴き、学校所有のiPadで撮影すること。そして「相手選手の特徴と攻撃パターン、相手の守備の崩され方」を確認し、選手たちに伝えることだ。「ぶっちゃけ、プラスになっているかは不安。間違った情報を伝えるとマイナスになるし、選手がどう思っているかが不安になることもある」。ただ、山田監督は「映像を見ても、僕の考えとほぼ変わりない」と絶大な信頼を寄せている。

 準決勝の中京大中京戦では、そんな入念な分析が垣間見える一幕があった。試合序盤、相手にCKを与えてしまった場面では、コーナーフラッグ付近に2人の相手選手。だが、トリックプレーを初めから想定していた名古屋の選手たちはすぐさまマーカーを確定させ、3人目の動きにも備えた人員配置を行った。「あれは完全に丸裸でしたね」。ニヤリと笑った指揮官は、右腕の活躍を堂々と誇った。

「ここまで来たら全国以外は考えられない」。東邦との決勝戦に意気込む立本の心の内には、ある大きな目標がある。「選手として試合に出ることを諦めていないし、全国大会では数分でも良いから試合に出たい。いまもだいぶ軽いジョグはできるけど、膝がズレるのが怖いので、もっと筋肉でカバーしないといけない」。夢があればリハビリにも力が入るもの。自ら発掘した分析センスを駆使しつつ、患部のケアも続けながら、年末年始の大舞台を目指す。

(取材・文 竹内達也)
●【特設】高校選手権2018

TOP