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劇的勝利を引き寄せる積極采配。横浜FC・四方田修平監督が初陣で見せた「打ち合い上等」のメンタリティ

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開幕戦の勝利に笑顔を見せる横浜FCの新指揮官、四方田修平監督

[2.19 J2第1節 横浜FC 3-2 大宮 ニッパツ]

「『良かったな』と。ホッとしたのが正直な気持ちです」。

 タイムアップの瞬間の感想を問われた横浜FCの新指揮官・四方田修平監督は、シンプルな想いを口にする。23年もの時間を過ごした札幌を離れ、新天地へと次なる戦いの場を求めたその初陣。安堵の想いが湧き上がってきたのも十分に理解できる。

 ただ、この日の90分間から浮かび上がってくるのは『打ち合い上等』のメンタリティ。2022年の横浜FCは、どうやら“やり合って勝つ”チームになっていくのかもしれない。

「ゲーム内容としては、攻守ともに選手が勇気を持って、前からアグレッシブに戦ってくれたと思っています。結果的に後半の途中まで2-0という形になった局面と、そのあと少し流れが悪くなった時間の中で、あっけなく2失点してしまって、ズルズルと動きがなくなったり、組織的に戦えなくなってしまった部分と、最後に交代選手を含めて少し勢いを出せて、『もう1回勝ちに行くんだ』という姿勢が出せた、3つの局面に分かれていたと思います」。

 そう語った四方田監督の言葉通り、この日の開幕戦は横浜FCから見れば、“3つの局面”を明確に区分できるゲームだった。まず1つ目の局面は、試合開始から後半10分前後ぐらいまでのフェーズ。「積極的に前線の優位性を生かして攻められたことで、ダイナミックな攻撃もできましたし、たくさんのチャンスを作れたと思います」とMF齋藤功佑も振り返った時間帯だ。

「横浜FCのやり方もかなり特殊なので、あれだけオールコートでマンツーマンで付いてくる相手はなかなかいないですし、練習の中で想定してやってはいましたけれども、なかなか剥がし切れなかったです」と昨年までのチームメイト、大宮アルディージャのGK南雄太が口にしたように、横浜FCは徹底的なマンツーマンマークで、ボールを繋ぎたい大宮を規制する。これは四方田監督が昨年までコーチを務めていた、北海道コンサドーレ札幌と同様の守備戦術。ここに名将ミハイロ・ペトロヴィッチの影響が見え隠れする。

 そして、先制点は高い位置からのプレスが生み出す。大宮がGKからビルドアップする流れの中で、DFが犯した一瞬のコントロールミスにFW長谷川竜也が素早く食い付き、ボールを奪ったところからMF齋藤功佑のゴールに結び付いた。

 2点目は再起を期すストライカー、FW小川航基が挙げる。このゴールへの過程には、ダイレクトで裏にパスを送ったMF手塚康平、そのパスに走ってクロスを上げた齋藤というドイスボランチが絡んでいたが、注視すべきはその1つ前のパス。3バックの左を務めるDF中塩大貴が、サイドの深い位置まで上がって、手塚のダイレクトパスを引き出すボールを送っていたのだ。右CBの中村拓海と右WBのイサカ・ゼイン、左CBの中塩と左WBの高木友也は、揃って攻撃力を兼ね備えているプレーヤー。この人選にも指揮官の攻撃性が垣間見える。

 続けての失点で追い付かれたのは後半16分と19分。それぞれシンプルなアーリークロスと、ダイレクトパスを繋がれたサイドアタックからゴールを許している。「球際のセカンドボールのところで負けて裏返されたりですとか、マイボールのところでちょっと足が止まって、自分たちで相手のプレッシャーを受けて、そこを食い付かれてしまって、前進できなかったというところが大きな原因かなと思います」とは四方田監督だ。

 大宮が選手交代で前線にターゲットタイプの選手を送り込み、長いボールが増えたことで、横浜FCは全体のラインが後退すると、セカンドボールを回収され続け、後手を踏むシーンが頻発。同点に追い付かれた後も、2度の決定的なシーンを作られている。ゲーム自体の流れは間違いなくアウェイチームにあった。

「僕は結構慎重な方なので、2-0になっても、それで勝てるとは思っていませんでしたし、『何かあるかな』って思いながらベンチにいたんですけど、『ああ、その“何か”になってしまったな』と思いました(笑)。それでも、今年の横浜FCの目指すべき方向としては、2-2で終わらせるのではなくて、最後にもう1つギアを上げて、『3点目を獲りに行くんだ』というところを示さなくてはいけないというところで、指示を出したり、交代選手のカードを切りました」(四方田監督)。

 22分にMF安永玲央とFW伊藤翔を、33分にFWクレーベとFW山下諒也を、45分には最後のカードとして、MF中村俊輔もピッチへ送り込まれた。そしてドロー決着が濃厚となりつつあった45+2分に、山下がPKを獲得。クレーベが冷静に沈め、劇的な展開で開幕戦の勝利をもぎ取ることに成功した。

「したくないですけど、一応追い付かれた後というのは想定していました」。3-2というスコアはシミュレーションしていたかと会見で問われた四方田監督は、こう語っている。開幕戦。3年ぶりのJ2。相手より3歳近く平均年齢の若いメンバー構成。目の前にある条件の中で、あらゆる準備を怠らず、自らの引き出しを探りながら、最適解を導き出していくその采配力が窺えるような90分間だったことは、間違いない。

「僕はここまで監督として3シーズンやっているんですけど、実はシーズンの“初戦”は全部負けていたんですよ。今日は4季目にして初めて勝ったので、『おお、初めて勝った』というか(笑)、しかも『こんなハッピーエンドで良かったな』って。『こんな結末だったんだ』と思いましたけど、この勝利は忘れて、また来週に向けて頑張ります」。

 笑いながら意外な事実を明かした四方田監督だが、その柔和な雰囲気に騙されると、対戦相手はきっと痛い目を見ることになる。スタートのメンバー構成。積極的な交代策。テクニカルエリアでの熱い指示。漂う『打ち合い上等』の意識。この指揮官、やり合う意欲満々だ。



(取材・文 土屋雅史)

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