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「目の前の1試合」を勝つことだけが日本一へ通ず。“勝負強い”帝京長岡が延長で新潟明訓に競り勝って新潟制覇!

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延長へもつれ込む激闘を制した帝京長岡高は5大会ぶりとなる夏の全国へ!

[6.5 インターハイ新潟県予選決勝 帝京長岡高 1-0(延長) 新潟明訓高 新発田市五十公野公園陸上競技場]

 準決勝も、決勝も、延長戦までもつれ込みながら、どちらもゴールを奪って勝ち切るあたりに、今年のチームの勝負強さが滲む。掲げた目標を手繰り寄せるためには、目の前のことを1つずつ、丁寧に、それでいて確実に、積み上げていくことが何よりの近道だと、みんなわかっている。

「先を見据えずに、目の前のワンプレー、目の前の1試合を全員で勝つということだけを意識してやりたいです。勝って、勝って、勝って、最終的に日本一を獲れるのが一番いいと思うので、いろいろと考え過ぎずに、目の前のことだけをやっていきたいと思います」(帝京長岡・桑原航太)。

 久々に帰還する夏の全国で、見据えるのは悲願の日本一。令和4年度全国高校総体(インターハイ)「躍動の青い力 四国総体 2022」男子サッカー競技新潟県予選決勝が5日に行われ、帝京長岡高が延長戦の末に1-0で新潟明訓高を振り切って、5大会ぶり6回目の全国切符を勝ち獲っている。

「前線の選手が本当に自由に、レベル高くやっていますよね」とキャプテンのDF桑原航太(3年)が口にしたように、帝京長岡は開始早々から攻撃陣がフルスロットルで立ち上がる。前半6分には相手GKのキックミスを拾ったFW岡村空(3年)が、すかさずフィニッシュ。ここは懸命にゴールカバーへ戻った新潟明訓キャプテンのDF加藤大貴(3年)が間一髪で掻き出したが、12分にもDF柳澤颯人(2年)のフィードから、MF五十嵐丈一郎(3年)との連携で右サイドを抜け出したMF松山北斗(3年)が枠の右へ逸れるシュートを放つなど、ゴールの予感を漂わせてゲームに入る。

 押し込まれる展開を強いられた新潟明訓も、加藤とDF後藤太一(2年)のCBコンビを中心に粘り強く守りながら、虎視眈々と狙う一刺し。25分にはボランチのMF菅井琉乃介(2年)が左へ振り分け、MF中村凌也(3年)のシュートはゴール左へ外れるも、ようやくファーストシュートを。2トップのFW佐藤椋輔(3年)とFW高井乃海(3年)を生かす速い攻撃に活路を求めていく。

 25分は帝京長岡に決定機。右サイドをDF清川郁生(3年)が粘って運び、松山のクロスはファーで待っていたFW土門遥斗(3年)まで届くも、叩いたボレーは枠の上へ。27分にも岡村のパスからDF内山開翔(2年)のグラウンダークロスに、ダイレクトで合わせた五十嵐のシュートはわずかに枠の右へ。「思いのほか硬かったのもあるし、ゴールが入らなかったですね」とは谷口哲朗総監督。前半は0-0のままで35分間が終了した。

 後半も帝京長岡のラッシュは続く。2分には松山が縦に優しく流し、土門が枠内へ打ち込んだシュートは新潟明訓のGK中山光貴(3年)がファインセーブ。5分にも土門を基点に、MF山村朔冬(2年)の左クロスから松山のシュートも、凄まじい反応で中山が身体に当てたボールはクロスバーを弾き、再び松山が打ったシュートは菅井が決死のクリア。「最後の決定機を生かすのは、本当にまだまだというところですね」と語った谷口総監督も思わず天を仰ぐ。

 中山の躍動が止まらない。16分。右サイドを単騎で切り裂いた松山は、GKを見極めてループシュートを選択。枠へ向かったボールは、しかし左ポストに跳ね返ると、二次攻撃から土門を経由して、五十嵐のシュートが枠を襲うも、三たび中山がビッグセーブで仁王立ち。まさに守護神という表現がピッタリの好守連発。新潟明訓ゴールの強固な鍵は、二重、三重、いや、四重構造。揺るがぬ安定感が光る。

 35+2分。新潟明訓はカウンターのチャンス。左サイドを丁寧に運び、高井が打ち切ったシュートは、それまでも少ない守備機会を完璧な対応でやり過ごし、「ミスが1個でもあったら悔しいぐらいになっています」と言い切る帝京長岡のGK佐藤安悟(3年)が確実にキャッチ。70分間では決着付かず。勝敗の行方は前後半10分ずつの延長戦へと委ねられる。

 赤い応援席が跳ねたのは、延長前半2分。途中出場のMF友坂海空(2年)が絶妙のループパスを通すと、MF平井壱弥(2年)のゴールはオフサイドで取り消されたものの、新潟明訓へ再び宿った勇気。6分には帝京長岡の超決定機。左サイドを1人で剥がし切った松山の折り返しに、全速力のスプリントで突っ込んだMF廣井蘭人(3年)のシュートはゴール右へ。スコアは動かない。

 途中出場の男は、その時をずっと待っていた。延長後半3分。右サイドで獲得した帝京長岡のCK。岡村が蹴り込んだボールは、「セットプレーの時は基本的に中には行かないのに、自分でもよくわからないですけど、多分決めたいという気持ちが自分であったので、行きました」というDF森健太朗(3年)の頭へピタリと届く。黄緑の歓喜、沸騰。1-0。とうとう帝京長岡に先制点が記録された。

 今大会初失点を食らいながら、折れない新潟明訓。土壇場の8分。右サイドのロングスローから、こぼれ球をDF岡村拓宙(2年)がクロスに変え、菅井のヘディングは枠を捉える。だが、「ポジショニングを冷静にしていれば、ある程度のところは自分なら止められると思っていたので、運よく正面に来てという感じでした」と振り返る佐藤が、冷静なセーブで赤い希望を打ち砕き、詰めた加藤のシュートも森が身体で弾き出す。

「あのピンチはやられたと思いましたけど、やはり佐藤安悟が安定していましたね」と谷口総監督も名指しで称えた守護神、五十公野に降臨。わずかに勝利への執念で上回った帝京長岡が、新潟の頂点へ登り詰めた。

 準決勝の北越高戦も、後半終了間際に追い付かれながら延長で勝ち越し、この日の決勝もやはり延長をウノゼロでモノにして、新潟制覇を達成した帝京長岡。「手前味噌ですけど、こういうゲーム展開や内容で昨日も今日も勝ち切れるというのは成長しているのかなって。春先の失点を重ねていた段階から比べると、少しずつは逞しくなってくれているかなという感じはします」と谷口総監督も一定の評価を口にする。

「昨日も今日も延長で結構な緊迫感がありましたけど、良い声を全体で掛けられましたし、今までは終盤に弱いチームだったんですけど、最近は終盤で勝ち切れるチームになってきていると思います」と指揮官と同じような手応えを語るのは佐藤。攻めても攻めてもゴールが奪えず、一発に沈むような負けパターンからの脱却は、着々と、力強く進んでいるようだ。

「大会を通じてチームとして成長できたというのが一番嬉しいところです」という桑原は、全国での抱負を問われると「先を見据えずに、目の前の1試合を大事に勝ち切った結果がインターハイ出場に繋がったと思うので、インターハイも先を見過ぎず、目の前の1試合を全員で勝ち進みたいです」とこの日3度目の『目の前の1試合』を紡ぎ出せば、谷口総監督もダメを押す。「昨日もベンチはカッカしてたけど、選手は凄く落ち着いていて、終了間際に失点もしながら、延長もしっかり戦ってくれていたので、こちらが余計なことを言わないで、目の前の1試合をしっかり戦おうというのがいいんだろうなと思いますよね」。

 ここまで聞けば、彼らの目指す所は明確過ぎるぐらい、明確だ。目の前の1試合を、真摯に、全力で。その積み重ねた先にある日本一は、きっと気付けば後から付いてくるはずだ。それだけの過程と成果を引き寄せるだけの力が、今年の帝京長岡には間違いなく備わっている。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

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