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「オレたちを全国が待っている」。目的と目標を自覚する関東一がPK戦を制して、再び“無念の出場辞退”を味わった全国へ!

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関東一高は激闘のPK戦を制して堂々の全国切符獲得!

[6.18 インターハイ東京都予選準決勝 東海大高輪台高 0-0 PK2-3 関東一高]

 いつの間にか、このチームの勝敗は自分たちだけのものではなくなっていた。去年は去年、今年は今年とみんな割り切ってはいたものの、どうしても周囲からの注目が集まるのは否めない。ならば、それを集め切った上で、結果を出すほかに道はないと、彼らは腹を括ったのだ。

「子供たちに言ったのは『「全国に行きたいかどうか」ではなくて、「全国が自分たちを待っているかどうか」だ』と。やっぱり去年のこともありますし、ここ何年かのこともあるので、『オレたちを全国が待っているんじゃないか?』という話はしたんです」(関東一高・小野貴裕監督)。

 意識的なマインドの変化によって、粘り強く手繰り寄せた約束の切符。令和4年度全国高校総体(インターハイ)「躍動の青い力 四国総体 2022」男子サッカー競技東京都予選準決勝が18日に行われ、関東一高東海大高輪台高のゲームは0-0でPK戦へと突入。GK遠田凌(3年)が相手のキックを2本ストップした関東一が、悔しい準決勝出場辞退となった昨年度の高校選手権に続き、東京代表として全国大会出場権をもぎ取っている。

 全国の懸かった一戦は、前半からお互いにゴールの匂いを漂わせる。6分は関東一。左サイドを駆け上がったDF岡崎礼暉(1年)のクロスに、エースのFW本間凜(3年)が合わせたヘディングは枠の左へ。11分は東海大高輪台。右サイドでルーズボールを収めたMF佐藤将(2年)は、前に出ていたGKの位置を確認すると30mミドルにトライ。軌道はわずかに無人のゴールの左へ逸れたものの、スタンドもどよめく一撃を披露する。

 以降は「『守りながら攻めて、攻めながら守る』ということを合言葉にやっていました」とDF池田歩柊(3年)も明かした通り、攻守一体を貫く関東一にゲームリズム。12分にはCKの流れから、DF矢端虎聖(3年)が右クロスを上げると、MF渡邊倖大(1年)のヘディングはクロスバーにヒット。15分にもMF鹿岡翔和(3年)を起点に、岡崎の左グラウンダークロスをファーでMF西口昇吾(3年)が枠へ収めるも、ここは東海大高輪台GK山本桐真(1年)がファインセーブで応酬。際どい攻防が続く。

 40+2分には東海大高輪台にビッグチャンス。代わったばかりのMF笠原凌太(3年)の左CKから、最後はキャプテンを務めるMF柳本華弥(3年)のシュートがGKを破るも、「前半はノータイムと言われていたので、『ここは絶対に守り切りたい』という気持ちが現れたプレーだったと思います。ボールスピードが緩く見えて、冷静に対応できました」と振り返る池田が決死のクリア。前半はスコアレスで40分間を終えた。

 後半に入ると、展開は膠着状態に。13分は東海大高輪台。左サイドをMF加瀬舜悠(3年)が単騎でぶち抜き、笠原が放ったシュートは枠の上へ。24分は関東一。右サイドから途中出場のDF川口颯大(2年)がロングスローを投げ入れ、飛び込んだ本間のヘディングはゴール右へ。ただ、「相手の方が交代をうまく使っていたので、それはちょっと厄介でした」と小野監督が言及したように、切っていくカードがことごとくチームを活性化させた東海大高輪台に、試合の流れは傾いていく。

 0-0のままで突入した延長戦で、その傾向は顕著になる。延長前半5分には後半から登場したFW建内翔空(2年)がわずかに枠を越えるミドルを放てば、延長後半5分にも笠原が右へ振り分け、MF増田颯太(3年)のクロスにMF菅原巧太(2年)のヘディングはゴール左へ逸れるも、交代出場の3人で決定機まで。「後半の終わりぐらいからずっと攻められていたので、もうゼロで行こうということと、攻撃はもう割り切って、後ろから繋ぐのではなくて、前に蹴って相手の陣地でなるべくプレーしようと話していました」とは池田。耐える関東一。押し込む東海大高輪台。

 9分。笠原の左FKに、突っ込んだDF生駒匡悟(3年)が枠内へ飛ばしたヘディングは遠田が何とかキャッチ。100分間で決着付かず。どちらか一方だけに用意されている全国行きの切符は、PK戦で奪い合うことになった。

 実は両チームの守護神は、ともに中学時代に所属していたジェファFCの2学年違いの先輩後輩。因縁渦巻く11メートルのドラマは、先に“後輩”が魅せる。先攻の東海大高輪台が成功して迎えた、後攻の関東一1人目はGKの遠田。このキックを山本が完璧なセーブ。成長した姿を“先輩”に見せ付ける。

「自分が外してしまって『ヤバイな』という感覚はあったんですけど、1人目ということでまだ心のゆとりがありました」。その言葉を“先輩”は自らの実力で証明する。東海大高輪台2人目のキックを冷静に弾き出すと、3人目のキックはクロスバー直撃。だが、関東一4人目のキックも枠外へ逸れ、2-2のタイスコアで勝負は5人目の攻防へ。

 再び“先輩”が羽ばたく。「オレの方が3年だし、1年には絶対に負けねえぞ」。飛んだ遠田がビッグセーブ。形勢は反転する。関東一5人目は頼れるキャプテン。「矢端は絶対に決めてくれるだろうと思っていました」という本間の祈りは、通じる。

 揺れたゴールネット。駆け出す黄色いユニフォーム。「今年は勝てない苦しい時期があって、いろいろ言われてきて、それをまずはこの勝利で1つ乗り越えられたのかなと思って、自然と涙が出てきました」という遠田を筆頭に、3年生の大半が涙を見せた関東一が執念のPK戦勝利で、徳島へと乗り込む権利をもぎ取った。



 関東一は、苦しんでいた。「去年は選手権でベスト4という素晴らしい結果を先輩たちが残してくれて、今シーズンも自分たちは期待されて3年に上がったんですけど、招待大会もリーグ戦も本当に思うような結果が出なくて……」(遠田)「新チームになって全員が苦しい想いをして、いつもうまく行かなくて、苦し過ぎて……」(本間)。上がったハードルと、思うように付いてこない結果に、チームは自信を失いつつあった。

 準々決勝で国士舘高に4-0と快勝を収め、迎えたこの日の“全国決め”の一戦。指揮官は冒頭に記したような言葉で、選手たちに語り掛けた。「ちょっとカッコつけた言い方になっちゃったんですけど、全国に行きたい気持ちは高輪台もウチも五分五分ですし、これは準決勝の相手がどこであっても、“あのこと”があった直後の全国大会にウチが行くのは、凄く意味のあることかなと思ったので、『いろいろな人の想いや時間的なもので考えるなら、きっと全国は君たちを待っているんじゃないか?』という話はしました」(小野監督)。

「本当に監督の言葉というのは、自分たちをいつも凄く奮い立たせてくれるので、『もう試合をやる前から勝っていたな』という感じがありますね。自分たちが感じ続けてきたそのプレッシャーですら、押し返すほどの力が今日はあったと思います」(矢端)「ここまでの苦しさは全部今日のためだったと言ってもいいと思うので、自分たちがやってきたことが全部発揮されたというか、苦しい想いをしてきた中で扉が開けて、やっと第一段階を抜けたなと思いました」(本間)。彼らは感じ続けてきたプレッシャーに、自ら打ち克ったのだ。

「このチームの目指すところを考えると、全国は目的ではなく、目標だと思っているんです。我々の目的は1人1人の生徒をちゃんと次のステージに進ませてあげることと、成長させてあげることなんですけど、彼らはサッカーをやっている以上は、目標として『全国大会に行きたい』とか『どこと試合をやりたい』ということが具体的なものだと思うので、今の我々はその“目的”と“目標”をちゃんと子供たちが理解してくれているのかなと。押し付けの“目標”ではなくて、ちゃんと自分たちの中で“目的”に対してどういう通過点があるのかということをわかってくれていたらいいなって思うんですけどね」(小野監督)。

 “目的”の過程にある、第一段階として掲げた“目標”への到達。あの言いようのない悔しさを味わった全国の舞台が、今度は真夏の徳島で関東一の選手たちを待っている。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

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