[12.19 天皇杯決勝 浦和 2-1 大分 国立]

　あまりにも劇的過ぎる展開となった。その主役は今季限りで浦和レッズからの退団が発表されているDF槙野智章。チームに大きな置き土産を残して新たな道を進むことになった。

　11月16日、今季限りでの退団が発表された。契約満了が伝えられてから「3週間くらいは整理がつかないし、ほぼ毎日泣いていた」という。しかし、「泣いていても前に進めないし、一日一日を無駄にしたくなかった。何よりシーズンが残っていたし、僕がふさぎこんでしまうと、チームにも悪い空気が流れてしまうところがあった。チームメイトにそういう顔を見せられないし、チームに迷惑をかけない」と視線を前に向けた。

「自分がこのチームに最後やらないといけないことを整理してトレーニングを行ってきた。残さなければいけないのはタイトル含めてアジアへの切符。毎日の練習をとにかく100パーセントでやり、チームの雰囲気を自分が作り出し、練習が終わった後に誰よりもシュート練習をひたすらやってきた」

　迎えた天皇杯決勝。ベンチスタートとなった槙野に出番が訪れたのは1-0とリードして迎えた後半38分だった。あとは逃げ切るだけ。そのためにピッチへと送り込まれたが、終了間際の後半45分に大分に同点ゴールを献上してしまう。ここで、槙野の背中を押したのがGK西川周作だった。

「マキが持っていけ。マキがゴールを取りにいけ」

　残された時間はアディショナルタイムのみ。延長戦へともつれ込む可能性は十分あったが、終止符を打ったのは槙野の一撃だった。MF柴戸海が放ったシュートをヘディングで合わせてネットを揺らす。浦和ラストマッチでチームを天皇杯優勝へ、そして来季のACL出場へと導く、あまりにも劇的なゴールが生まれた。

　試合後、「携帯が鳴りやまないし、全員が“持っている”という話をする。運を引き寄せる力は、もしかしたら他の人よりもあるかもしれない」と話しつつ、「自分のやるべきこと、練習場に来て10年間変わりないように、最後まで練習場にいる、最後までボールを蹴っている姿をチームメイトに見せることは心掛けてきた。今日のゴールや勝利は、日頃からやってきた僕にとってのご褒美かなと思っている」と胸を張った。

　契約満了が伝えられてから涙を流した日もあった。しかし、前を向き、最後の最後まで浦和のために戦い抜いた。“持っている”だけでなく、チームのために努力を続けたからこそ得られた成果だった。

(取材・文　折戸岳彦)

---

★日程や順位表、得点ランキングをチェック!!
●2021シーズンJリーグ特集ページ
●第101回天皇杯特集ページ
●“初月無料”DAZNならJ1、J2、J3全試合をライブ配信!!