[11.6 選手権山梨県予選決勝 山梨学院高 1-1(PK5-3) 韮崎高 JITリサイクルスタジアム]

　またしても大役が回ってくる。昨年度も合わせれば、わずか1年間の“選手権”で4回目となる、決めれば勝利のPKキッカー。ただ、自らが置かれた状況を、冷静に見つめられる余裕があった。「必ず自分のところに来るので、何か凄いですよね。『ああ、やっぱり結局こうなるんだな』と今日も思いました」。

　山梨学院高を牽引し続けてきたキャプテン。MF谷口航大(3年=鹿島アントラーズジュニアユース出身)は5人目のPKキッカーとしてスポットに立つと、いつも通りの助走で右足を振り抜く……。

　韮崎高と対峙した決勝戦。「『競り合いに絶対負けない』という気持ちの部分が向こうは強くて、前に向かっていく力が強かったので、そこを受けてしまったことで、難しい展開になってしまったのかなと思います」。ボランチとして山梨学院の中盤を預かる谷口は、なかなかうまく回らない展開を実感していた。伝統の力。向かってくる勢い。スタンドの歓声。意識はしなくても、自然と受け身に回ってしまう。
　
　延長後半3分。セットプレーから、とうとう先制点を奪われてしまう。「点を獲られた時には『ヤバイな』と思いました」というキャプテンは、それでもすぐに自らのメンタルを立て直す。「自分がそういう気持ちを見せたらチームは終わってしまうので、自分が中心となって、チームを引っ張って、『必ず追い付くぞ』という声掛けができました」。負けたくない。絶対に追い付いてみせる。

　延長後半8分。FW茂木秀人イファイン(3年)が土壇場で同点弾を叩き込む。「あそこまで来たら、大事なのは技術というよりは気持ちの部分だと自分は思いますし、その気持ちの大きさでどっちが勝つか、負けるかが決まると思っているので、韮崎が1点獲った時に、僕たちが彼らの気持ちよりさらに上を行った『点を獲る』という強い気持ちが、ゴールに繋がったのかなと思います」。勝敗の行方はPK戦に委ねられる。

　韮崎1人目のキックをGK山田海人(3年)が気合のセーブ。そのあとは両チームとも全員がゴールを奪っていくと、山梨学院5人目のキッカーを任されていた谷口に、“決めれば勝利”という状況が回ってくる。

　昨年度の全国大会も、そうだった。準決勝の帝京長岡高(新潟)戦。決勝の青森山田高(青森)戦。いずれも最後に谷口が決めて、PK戦をモノにしてきた。さらに帝京三高と対峙した今大会の準々決勝のPK戦も、やはり勝利を手繰り寄せる最後のキッカーは谷口だったのだ。

　集中力を高める。重圧がないはずはない。だが、“4回目”にもリラックスしている自分に気付く。「この1年で4回目でしたけど、ウチには止めてくれるキーパーがいますから。これで1本も止められていなくて、5人目が自分だったらもうちょっと焦っていたと思うんですけど、安心して蹴れました」。コースはど真ん中。ゴールネットが揺れる。次の瞬間。キャプテンは、ベンチに入れなかった仲間が待つバックスタンドへと一目散に駆け出していった。

　長谷川大監督は、谷口の“星回り”をこう捉えていた。「谷口は去年優勝した時もPKを決めていますし、今日この日のあの瞬間に、またアイツが決めたというのは、やはり去年の経験が生きていることだと思うので、そういう部分を彼がこちらの思った通りに現わしてくれたなと思います」。偶然に見えるようなことも、決して偶然ではない。日本一の経験は間違いなく今年のチームに、そして谷口に息衝いている。

　この日の100分間も、谷口にとっては成長への要素以外の何物でもない。「自分たちはチャレンジャーだと思ってやっているんですけど、どうしても他のチームは『食ってやろう』という気持ちが大きくて、受ける側になってしまうことの難しさもこの県予選で学びましたし、逆に全国に行ったら自分たちのレベルはまだまだ足りないこともあって、チャレンジャーとして向かっていけると思うので、“受ける側”の難しい試合を感じられたのは良かったかなと思います」。

　苦しんで、苦しんで、引き寄せた“全国連覇”への挑戦権。それでも、目の前の1試合に全力を尽くすスタンスは変わらない。「うわついた部分があるとすぐに負けてしまうのが全国大会ですし、こういう難しい試合も経験したので、まずは1つ1つ課題を克服して、1つ1つ力を積み重ねて、連覇という大きな目標もあるんですけど、まずは全国大会の初戦という目の前のことから向き合っていこうと思います」。

　チームメイトに安心と信頼をもたらしてきた、前回王者を束ねるキャプテンの圧倒的な存在感。谷口がピッチにいる限り、山梨学院が簡単に崩れていくようなことは、まずありえない。

(取材・文　土屋雅史)

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