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35回目の全国に迫った百折不撓の戦士たちの奮戦。韮崎が確かに見せた100分間の“韮高魂”

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韮崎高の選手たちはバックスタンドの応援団に感謝を伝える

[11.6 選手権山梨県予選決勝 山梨学院高 1-1(PK5-3) 韮崎高 JITリサイクルスタジアム]

 35回目の全国は、もう手の届く所まで近付いていた。伝統の緑のユニフォームを纏った選手たちは、力の限り戦い抜いた。

「本当に韮高魂、百折不撓の精神で、戦ってくれて、身体を張って、走って、セカンドボールを拾って、ファイトして、素晴らしかったと思います」。彼らの“先輩”でもある小泉圭二監督は、この日の100分間を託した“後輩”たちの雄姿に、こう言葉を紡ぐ。延長後半に一旦はリードしながら、最後はPK戦の末に涙を呑んだ韮崎高。だが、県内屈指の歴史を積み重ねてきた伝統の力は、確かにこの日のピッチにも息衝いていた。

「トップの2枚にしっかり収めて、そこからの攻撃も良くできたとは思うので、思い通りのプランでサッカーができました。自分たちのサッカーはできたと思います」とキャプテンのMF佐藤寧峰(3年)は胸を張る。前回大会の全国王者・山梨学院高を向こうに回し、前半から何度もチャンスを創出する。

「子どもたちも本当に相手のストロングをしっかりと消す中で、もちろん良い形を作られてしまうんですけど、最後のところは本当にクリアできていましたし、弾き返せていましたし、攻撃のチャンスはもっと少ないかなと思ったんですけど、思った以上にボールがうまく運べたり、ゴール前までは結構良い形で入っていけましたね」と小泉監督。勝つ可能性も、負ける可能性も、十分にあった80分間はほぼ互角の内容。試合は延長戦へもつれ込む。

 延長後半3分。左SB渡辺優星(3年)が蹴り込んだFKがペナルティエリアで弾むと、ピッチに解き放たれたばかりのMF平井蒼吏(2年)が誰よりも速く反応し、ヘディングをゴールへ滑り込ませる。とうとう奪った先制点。緑に染まったスタンドが揺れる。13年ぶりの全国切符は、間違いなく彼らの手の中に収まりつつあった。

 だが、勝利の女神は微笑まなかった。土壇場で追い付かれると、勝敗の行方はPK戦へ。1人目の佐藤が蹴ったキックは相手GKに弾き出され、韮崎の勇敢な挑戦は幕を閉じる。「本当にチーム全体の雰囲気も良かったですし、全員がやれることをやってきたので、自分たちを信じようという話をしてPK戦に入ることができました。自分も外す気はしなかったんですけど、本当に良いキーパーだったと思います」。キャプテンはそう相手を称えた。

 悔しい。涙が止まらない。仲間の顔を見ると、3年分の感情があふれてくる。それでも、バックスタンドに足を向け、山梨学院の応援団に挨拶する。「自分たちの分も、もう1回全国優勝してください!ありがとうございました!」。佐藤の大きな掛け声で、選手たちは深々と頭を下げた。

「インターハイでも延長のアディショナルタイムに点を獲られて負けて、最後の部分で勝ち切らせてあげられなかったというのは、選手たちに全てを伝えられなかった私の責任だなと。本当に申し訳なく思っています」と敗戦の責任を背負った指揮官は、こう言葉を続ける。

「今年の3年生は全大会で準優勝という、本当に悔しい結果だったんですけど、常に気持ちを入れて戦ってくれた選手たちはやっぱり素晴らしいと思います。僕は彼らを4月から見てきて、サッカーに取り組む姿勢とか、向き合う時間とか、そういったものには素晴らしいものがあるので、これからも韮高の文武両道を貫いて、今まで築いてきた歴史のように何とか全国へ行けるようにやっていきたいですし、私ももちろん監督として彼らを全国に連れていきたいなと思っています」。

 チームを抜群のリーダーシップでまとめてきた佐藤は韮崎の出身。「小さい頃から『韮高に入って全国の舞台に立ちたい』と思っていて、夢のような存在でした」というこの韮崎高校でキャプテンを務め、最高の舞台で戦えたことには確かな充実感も覚えていた。

 最近は特に感じていたことがあるという。「いろいろな人の温かさを感じられたので、本当に韮高に入って良かったです。知らない方からも『頑張ってね』とか『全国に行ってね』とか言っていただけたことは、本当に自分たちの力になりましたし、OBの方々の声援も本当に凄かったので、改めて『韮高は本当に良い学校だな』と思いました」。

「この3年間は、嬉しかったことよりもツラいことの方が多かったかもしれないですけど、本当に仲間にも恵まれて。先生方にも恵まれた、最高の3年間でした。伝統の緑のユニフォームを着れたことが本当に幸せですし、キャプテンマークを巻くと、昔から代々受け継がれてきたものを感じるので、責任を持ってやろうとはいつも思っていました。こんな良いチームでキャプテンをできたことは、山梨の中でも一番の素晴らしい経験だと思うので、それも最高でした」。もう、その表情に涙はなかった。

 試合が終わって1時間近くが経過しても、誰も帰らない。チームメイトと、家族と、応援に来てくれた友人と、この日のことを、この日までのことを、思い思いに語り合っている。「自分たちの武器は一体感」と佐藤が言い切る理由がよくわかるような光景。ようやく彼らに笑顔が戻ってくる。

 もちろん心残りがないと言ったら嘘になる。もっとこの最高の仲間とサッカーをしたかった。でも、楽しかった。この日の100分間も、積み重ねてきた3年間も。

「本当に最後の最後まで韮高らしく戦えたので、悔いはないかなと思います」(佐藤)。

 伝統と歴史を背負い、堂々と戦い抜いた百折不撓の戦士たちに、大きな拍手を。



(取材・文 土屋雅史)

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