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「相手の攻撃の芽はすべて摘む」。青森山田MF宇野禅斗がその能力を証明した“2分間”の煌めき

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シンプル・イズ・ベスト。青森山田高の超高校級ボランチ、MF宇野禅斗(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.2 選手権3回戦 阪南大高 1-3 青森山田高 駒沢]

 百戦錬磨の指揮官から与えられた指示は、至ってシンプルだった。

「『一番シンプルな所をやってくれ』と。『相手に勝つための特別なプレーなんて何1つない』と。相手を引き付け過ぎずに、簡単にプレーしていくこと。そして、相手の攻撃の芽をすべて摘むこと。それは今日のゲームの中でもよくやってくれたと思います」(青森山田高・黒田剛監督)。

 シンプルであるがゆえに、究極のメッセージ。それをほぼ完璧なパフォーマンスで遂行する男。三冠を狙う青森山田高(青森)が誇る超高性能ボランチ。MF宇野禅斗(3年=青森山田中出身)が刈り取った跡には、文字通り相手が膨らませかけたチャンスの芽は、ほとんど残っていない。

 2分間にその凄味が凝縮されていた。阪南大高(大阪)を相手に、2点をリードした後半12分。中盤でのルーズボールの“芽”をいち早く察すると、いったんは相手が収めたボールを獰猛に奪取。その宇野のカットを起点に、FW渡邊星来(3年)が送った丁寧なスルーパスを名須川が冷静にゴール。試合を決める3点目を、アシストの“1つ前”のプレーで演出してみせる。

 直後の13分。中央でアングルを変えながらボールを引き出し、寄せてきたマーカーの股下をダイレクトで華麗に抜きながら、すかさず左足で正確なフィードを送る。走った名須川のシュートはやや力なくGKにキャッチされたが、攻撃面でもハイレベルなテクニックを発揮。改めて超高校級の能力を、わずか2分間で披露した。

 次の“舞台”には借りがある。準々決勝。東山高(京都)。まったく同じステージ、まったく同じ相手と対戦した、福井でのインターハイ。大量5点をリードした後半の終盤に、簡単なプレー選択が求められる局面で後ろを向いた宇野は、そのままボールをかっさらわれて失点を許す。

 そこまでの3試合はいずれも完封で勝ち上がってきた青森山田にとっては、これが大会初失点。直後に交代を命じられた宇野は、ベンチ前で黒田監督としばし話し込んでいた。

「5点差があったから、ああいう不用意な持ち方をしたんだろうけど、なんかちょっとチャレンジしたかったのか、そういうところがやっぱりアイツの甘いところかなと」。指揮官の厳しい言葉を待つまでもなく、本人が一番そのワンプレーを悔いていた。

「あのプレーは軽率な考えがプレーに出てしまったという自分の未熟さだと思っているので、しっかり受け止めて、次の準決勝ではチームを統率する選手という自覚を持って、プレーしないといけないかなと思います」。

 果たして“次の準決勝”、強豪の静岡学園高(静岡)戦ではテクニックに秀でた相手を向こうに回し、宇野はノーミスと言っていい高次元のプレーを見せ付け、チームも黒田監督をして「100点満点のゲーム」と言い切った、被シュートゼロでの4-0という完勝を収める。

 それでも試合後には「自分としてはまだまだ足りないなと感じるんですけど、その中でも日々課題を持って、その次の試合に取り組めているなと感じているので、満足することなく、次の試合もしっかり反省点を持って、取り組んでいきたいと思います」ときっぱり。この男の辞書に、満足という言葉は記されていない。

 そんな因縁の東山と対峙するリターンマッチ。4か月前の鮮明な記憶を携えた宇野が、この“再会”に意気込んでいることは容易に想像できる。ただ、個人的な感情がプレーに持ち込まれる可能性は一切ない。自分がやることは、いつだって決まっている。

 一番シンプルなことをやる。そして、相手の攻撃の芽はすべて摘む。宇野禅斗は、自分が作り上げてきた道を、今まで通り突き進む。

(取材・文 土屋雅史)

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