beacon

下した結論は「これだと俺たちらしくない」…延長戦の末に滝川二退けた芦屋学園、悲願の初優勝へあと1勝

このエントリーをはてなブックマークに追加

芦屋学園高が延長戦の末に滝川二高を下した

[11.3 選手権兵庫県予選準決勝 芦屋学園高 3-2 滝川第二高 神戸ユニバー記念競技場]

 3日、第101回全国高校サッカー選手権兵庫県予選準決勝が行われ、芦屋学園高滝川二高に3-2で勝利。7年ぶりの決勝進出を果たすと共に、悲願の初優勝へあと1勝と迫った。

 芦屋学園を率いる許泰萬監督はこの準決勝を前に一つのジレンマと戦っていた。準決勝を前に滝川二をしっかりと分析した上で、どう戦うかの絵を描き、それをトレーニングに落とし込む準備も進めていた。相手のビルドアップからの攻めを戦術的な噛み合わせで壊しに行ける手応えもあったものの、こうも思うようになっていた。

「何かが違う……。滝二をリスペクトし過ぎているんじゃないか?」

 下した結論は、「これだと俺たちらしくない」。考えたのは、「自分たちの持ち味を出して芦学らしく戦うこと」。相手対策に自信はあったが、そこにフォーカスし過ぎる余り、善戦しながら敗れた過去の準決勝の経験も脳裏に蘇ってきた。そこで決めたのは「力のある選手たちが揃っている」という自分の教え子を信じて戦いに臨むこと。指揮官にとって、「それが今日のテーマだった」。

 受けて構えるのではなく、「チャレンジャーとしてまず向かっていく」(許監督)姿勢は序盤のゴールという形になって現れる。開始6分にFW高岡快斗(3年)のクロスからMF倉光諒(3年)がヘディングで先制点を奪うと、18分にもDF柏木雄太(3年)のロングスローからの混戦をMF岩井大将(3年)が押し込んでゴールも生まれ、監督も選手たちも「予想していなかった」という2点のリードを早くも奪い取ることとなった。

 ただ、許監督が「この形で入ると守備はハマらないだろうなと思っていたら、やっぱりハマらなかった」と豪快に笑って振り返ったとおり、守備の狙いは噛み合っていなかった。DF岸留生(3年)、MF神谷友騰(3年)が中心となる滝川二のテクニカルなビルドアップにいなされるシーンも目立ち、20分にこぼれ球をDF亀井大和(3年)に押し込まれて1点差に迫られると、ここからは苦しい流れに。前半アディショナルタイムには、滝川二MF丸尾太一(3年)のFKから亀井にこの日2点目となるヘディングでの見事なゴールを許し、最悪の時間帯に同点ゴールを浴びてハーフタイムを迎えることとなった。

 ただ、許監督が「本当にたくましくなってくれていた」と目を細めるのはここからだった。

 ハーフタイムでは「『これで下がったらアカン』。『0-0になっただけや』と話していた」とDF吉田開(3年)が言い、「逆境に強いのが芦学なんで」とDF世羅大和(3年)が振り返ったように、10分間のインターバルで気持ちをリセット。「感情に支配されないようにメンタルトレーナーの指導の下で取り組んできた」(許監督)成果も出しつつピッチに戻ると、後半は粘り合いのような戦いへと持ち込んでいく。

 戦術面でも、ハーフタイムから中盤へ投入されたDF西脇輝(3年)が「本当に僕らの期待した通りのプレーをしてくれた」と指揮官も絶賛するパフォーマンスで中盤を締め直し、4-1-4-1に切り替えたシステムを機能させる。乱打戦から一転して我慢比べのような内容になり、体力的にも「めっちゃ苦しい状態」(世羅)となっていったが、チーム内の意思統一はしっかりとできていた。

 そんな試合が動いたのは、2-2のまま迎えた延長前半8分のこと。アシストとなったのは、この試合を通じて猛威を奮っていた柏木のロングスロー。「流れてくるんじゃないかなと思って待っていた」とあえてファーにポジションを取っていた世羅のところへ誰も触れなかったボールが流れてくると、「『やっぱ来たあ!』と思って、あとは押し出す感じで」見事にゴールネットへと決め切った。

「もう鳥肌がブワーッと出てました」と笑う世羅だったが、「インターハイの予選でも3-1から(三田学園高に)ひっくり返されたので、もうやられるわけにはいかなかった」と守備を引き締め直す。滝川二も当然ながら猛反撃に出たが、ここから許したシュートは交代出場のFW横田圭祐(1年)の1本のみで、兵庫県を代表してきた名門の鬼気迫る攻撃を見事に完封。嵐のようなゲームを制した芦屋学園が、報徳学園高の待つ6日の決勝へと駒を進めた。

(取材・文 川端暁彦)
▼関連リンク
●【特設】高校選手権2022

TOP