beacon

西が丘の激闘は実践学園が粘り勝ち!PK戦の末に東海大高輪台を振り切って5年ぶりの決勝進出!

このエントリーをはてなブックマークに追加

実践学園高はPK戦を制して5年ぶりのファイナルへ!

[11.5 高校選手権東京都予選Aブロック準決勝 実践学園高 1-1 PK5-4 東海大高輪台高 味の素フィールド西が丘]

 戦っているのはピッチの11人だけではない。スタンドを見れば苦しい時間をともにしてきたチームメイトたちが、手拍子で気持ちを送ってくれている。あと1メートル。あと1センチ。最後に身体を動かしてくれるのは、自分たちを信じてくれる仲間の信頼だ。

「本当に大きなプレッシャーと責任を背負った中でのプレーだったので、足を攣る選手も多かったのかなと。ただ、このスタンドの力のおかげで、自分たちがやってきたことを最後まで信じてできましたし、監督も『勝負の女神は細部に宿る』と言っていたので、本当に最後はそこに救われて、PK戦で勝てたのかなと思います」(実践学園高・百瀬健)。

 スタンドの力も結集した『心で勝負』の粘り勝ち。5日、第101回全国高校サッカー選手権東京予選Aブロック準決勝、5年ぶりの西が丘を戦う実践学園高と、悲願の冬の全国初出場を狙う東海大高輪台高の激突は、前半にDF早稲田淳平(2年)の得点で東海大高輪台が先制したものの、後半にMF古澤友麻(2年)のゴールで追い付いた実践学園が、最後はPK戦で競り勝ち、全国出場まであと1勝に迫っている。

「今年はボールを落ち着かせて、しっかりと幅を使うサッカーをやってきたつもりなんですけど、選手も硬かったのか、前へ前へ急いでしまった部分もありましたね」とは実践学園を率いる深町公一監督。慎重に立ち上がったゲームは、なかなか双方がチャンスらしいチャンスを作り切れない。

 前半4分は実践学園の右CK。レフティのDF山城翔也(2年)が蹴り込んだ右CKに、CBの鈴木嘉人(2年)が合わせたヘディングはゴール左へ。14分は東海大高輪台。1トップ下に入ったMF佐藤将(2年)のパスから、キャプテンマークを巻くMF柳本華弥(3年)の枠内ミドルは実践学園のGK宮崎幹広(2年)がキャッチ。以降は拮抗した探り合いの時間が続く。

 実践学園は右のMF牧山翔汰(3年)、左のMF松田昊輝(2年)とサイドハーフが仕掛け、2トップのFW瀧正也(3年)とFW小嵐理翔(2年)を走らせるアタックで勝負。一方の東海大高輪台は石井と柳本のドイスボランチが組み立てに関わりつつ、こちらも右にMF遠藤康太(3年)、左にMF加瀬舜悠(3年)を配した両翼がチャンスメイクに奔走。にらみ合う両者。出したい手数。

 そんな保たれた均衡を破ったのは、やはりセットプレー。38分。左サイドで東海大高輪台が獲得したCK。キッカーのMF石井海翔(3年)が丁寧に入れたボールを、早稲田が高い打点からヘディングで打ち下ろすと、GKを破った軌道はカバーに入ったDFも弾き切れず、ゴールネットへ到達する。「あんなの今シーズンで1試合もなかったんですけどね」と川島純一監督も笑った、最高の時間帯での先制点。東海大高輪台が1点をリードする形で、最初の40分間は終了した。

 後半も大きな構図は変わらない中で、両ベンチが積極的に攻撃的なカードを切り合う。実践学園がMF関根宏斗(2年)とMF鈴木陸生(2年)をピッチへ送り込めば、東海大高輪台はMF橋口巧(2年)とMF菅野湊斗(3年)を投入。それぞれ次の1点への意欲を打ち出すと、スコアが動いたのは24分だった。

 スローインの流れから、ペナルティエリアのすぐ外でこぼれ球を収めた松田が縦パスを浮かせて送り込むと、「もうあれはゴールを見ていなかったですね。ボールが来たので『打つしかないな』と思いました」と振り返る古澤は左足一閃。GKの頭上を越えたボールはゴールネットへ到達する。「感覚で打ったので、あまり覚えていないです」という6番は、これが今シーズンの公式戦初ゴール。意外な伏兵の一撃で、実践学園がスコアを振り出しに引き戻す。

「いつも言っていることですけど、ハーフタイムには『このままじゃ終わらないぞ』と話したら、その通りになりましたね。あの失点のところはちょっと穴が開いちゃいましたけど、内側を通されて、良いシュートでした」と川島監督も語った東海大高輪台は、決して悪くないリズムの中での失点にも、柳本を中心にすぐさまメンタルを立て直す。1-1のままで所定の80分間は終了。勝敗の行方は10分ハーフの延長戦へと持ち越される。

 エクストラタイムはお互いに惜しいチャンスが。延長前半10+1分は実践学園。山城を起点に、古澤が鈴木とのワンツーから狙ったミドルは、DFをかすめてゴール左へ。延長後半1分も実践学園。途中出場のMF吉川大地(3年)、牧山とボールを回し、古澤のミドルはゴール右へ外れるも、「足が何回も攣ったり治ったりの繰り返しだったんですけど、ベンチの百瀬先輩たちがピッチに出ようぐらいの勢いで応援してくれていて、こんなところで足を攣って交代なんてできないなと思って、気持ちで走り切りました」という古澤の際立つ積極的な姿勢。

 4分は東海大高輪台に決定機。敵陣で前を向いた柳本が縦に入れ、菅原がヒールで残すと、GKと1対1になった柳本は中へのパスを選択し、ここは実践学園のDF冨井俊翔(1年)が懸命にクリア。5分も東海大高輪台。菅野のパスを引き出し、左からカットインしたFW古川拓海(3年)の巻いたシュートは枠の上へ。100分間でも決着は付かず。ファイナルへの切符はPK戦で奪い合うことになる。

 百瀬は勝利を確信していたという。「PK戦のキッカーを選ぶ時に、自分中心に選んだんですけど、みんな自信を持って『自分が行く』とどんどん続いてくれたので、『コイツらなら絶対やってくれるな』と思いました」。一方の東海大高輪台を束ねる川島監督も「自信は持っていたんですけど、お互いにキックが上手でしたね」とPK戦を振り返る。

 勝敗を分けたのは2人目だった。「キッカーの助走だったり、目の位置、体重移動である程度予測して飛びました。本当にこの1週間はPK戦のことを考えて練習していたので、練習の成果が出たことは凄く嬉しかったですね」と笑顔を見せた、実践学園の守護神を託されている宮崎が東海大高輪台のキックをストップ。後攻の実践学園は5人全員が成功させる。

「ほんのちょっとの差だったんですかね」という川島監督の言葉には首肯しかねる。おそらく『ほんのちょっとの差』もなかった激闘は、PK戦を粘り強く制した実践学園が5年ぶりの東京制覇へ王手を懸ける結果となった。

 試合後。川島監督の話が印象的だった。「ここに来るまでの全部の試合で、駒沢や清瀬の会場で高輪台の選手が会場運営をしてこの大会を作ってきて、今日は生徒と先生方と保護者の皆さんが来てくれて、やっぱり選手権というのはいろいろな人の作った、愛情のある大きな大会で、その上にみんな乗せてもらっていることを感じられたのは、ここまで来た君たちしかいないんじゃないのと。それを忘れないで、いろいろな場所でこの想いを返していかないといけないし、残りの学校生活もちゃんと行動と発言と表情と雰囲気を出していこうと、選手たちには言いました。自分たちが実際に裏方をやってみて感じたことがあって、今日はピッチの上に立たせてもらって、最高の経験ができたんじゃないですかね」。

「今日は全校応援をしてくれて、西が丘が会場なので、『選手の顔が良く見えるから、そこを是非見てください』と先生方には全員にお話させてもらったんです。だから、本当にサッカーをあまり知らなかった生徒も、今日の試合を見て、このサッカーの素晴らしさを少しでも感じ取ってくれていたらありがたいなと思いますね」。

 サッカーの素晴らしさを西が丘のスタンドへ詰め掛けた多くの人へ改めて教えてくれた、実践学園と東海大高輪台の奮戦に大きな拍手を送りたい。



(取材・文 土屋雅史)
▼関連リンク
●【特設】高校選手権2022

TOP