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「自由という名の信頼」を与えた指揮官ともぎ取った戴冠。スタイルを貫く成立学園は国士舘に競り勝って17年ぶりの全国へ!

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成立学園高は17年ぶりの全国切符を掴む!

[11.12 高校選手権東京都予選Bブロック決勝 成立学園高 2-1 国士舘高 駒沢陸上競技場]

 自分たちには積み上げてきたものがある。もちろん結果は大事だけれど、それと同じぐらいか、あるいはそれ以上に、築いてきたスタイルを打ち出すことにはこだわってきた。そうやって勝つことが何よりも“成立らしさ”だと信じて、このチームは前に進み続けてきたから。

「前回の試合があまりにも成立らしいサッカーができなかったので、まず決勝戦はリラックスして自分たちのサッカーをやり通そうということをテーマにやってきたことで、今日の選手はのびのびできたんじゃないかなって。自分たちのサッカーをやってくれたことが何より良かったなって思います」(成立学園高・山本健二監督)。

 スタイルを貫いた先で手にした久々の戴冠。12日、第101回全国高校サッカー選手権東京都予選Bブロック決勝で、成立学園高国士舘高が駒沢陸上競技場で対峙。前半2分にFW柏田凌佑(3年)のゴールで先制した成立学園は、後半にロングスローから国士舘のFW手塚令恩(3年)のヘディングで追い付かれるも、MF横地亮太(2年)が勝ち越し弾を奪って、2-1と勝利。第84回大会以来、実に17年ぶりの東京制覇を成し遂げた。

 試合は開始2分で動く。絶対的な司令塔のMF陣田成琉(3年)が右へ振り分け、上がってきたサイドバックのDF大川拓海(3年)は中央へ。こぼれたボールをエリア内で拾った横地が丁寧に落とすと、柏田が左足で振り切ったシュートは、DFをかすめながら左スミのゴールネットへ転がり込む。「攻撃のバリエーションは柏田を使った方が良くなるので、それは始めから計算できていました」と指揮官も語ったように、スタメン抜擢に応えたアタッカーの先制弾。成立学園があっという間にリードを奪う。

「早い時間帯の失点だったので痛かったですね」と上野晃慈監督も口にした国士舘は、追い掛ける展開にもすぐさま反撃。12分にルーズボールを拾った手塚のミドルは枠を越えるも、チームのファーストシュートを記録すると、16分にはキャプテンを託されているDF山本辰樹(3年)がチームの大きな武器のロングスローを投げ入れ、ニアで合わせたDF宮本秀(3年)のヘディングはゴール右へ。17分には決定機。ドリブルで仕掛けたMF原田悠史(2年)の右クロスに、手塚がフリーで合わせたヘディングも枠の上へ。続けてチャンスを作り出すも、同点には至らない。

 この時間帯を経ると、今度は成立学園のターン。18分に陣田のパスから、中央を得意のドリブルで切り裂いたMF武田悠吾(3年)のシュートは枠を外れ、20分に左サイドをスピードで切り裂いたMF渡辺弦(3年)のフィニッシュは、国士舘のGK西城壮真(3年)にキャッチされたものの、両サイドハーフが魅せたそれぞれのキャラクター。36分にもビッグチャンス。DF佐藤由空(3年)のフィードに抜け出した武田が、鋭いドリブルで2人を剥がしてそのまま打ち切ったシュートはクロスバーにヒット。「あそこで2点目を決め切りたかったですね」とは山本監督。前半は1-0で40分間が終了する。

 すると、後半は開始早々に白い歓喜が爆発する。3分。国士舘が左サイドで得たスローイン。山本が投げ込んだボールは十分な飛距離でエリア内へ届くと、ニアに潜った手塚のヘディングはフワリとした軌道を描きながら、ゴールネットへ吸い込まれる。「自分たちのストロングで良い時間帯に追い付けたのは良かったですね」(上野監督)。1-1。スコアは振り出しに引き戻された。

国士舘高はFW手塚令恩(21番)のゴールで同点に追い付く!


 以降は追い付いた国士舘の勢いが増していく。ドイスボランチを組むMF木原涼太(3年)とMF島田龍(1年)の配球から、右の原田、左のMF濱田大和(3年)の推進力を生かしつつ、タッチラインを割れば山本のロングスローも常に装備。「一番セットプレーでやられたくなかったので、そこでやられたというのは非常にメンタル的に来たなという部分がありました」とは山本監督。ゲームの流れは反転しかけていた。

 そんな苦しむゼブラ軍団を救ったのは、「試合に出ていない3年生の分もしっかり頑張ってやらないといけないなという気持ちは凄くあります」と口にしたスタメン唯一の2年生。19分。右サイドでのスローインの流れから、投入されたばかりのFW菅野芳帆(3年)が優しく流したパスに、3列目から飛び出した横地は、GKとの1対1も冷静に右スミのゴールネットへボールを送り届ける。

「先輩はみんな上手くて、自分が飛び出せばみんなパスを出してくれるので、それを信じて裏抜けしました」という横地の貴重な、貴重な、勝ち越しゴール。相手の勢いに飲み込まれかけていた成立学園が、再び1点のアドバンテージを強奪した。



「自分が決めて、流れを取り戻すことができて良かったと思います」と横地が振り返った通り、成立学園は生き返る。1点を返そうと必死に攻め続ける国士舘の攻撃も、右から大川、佐藤、DF藤井利之(3年)、DF清水冬真(3年)で組んだ4バックに、守護神のGK鈴木健太郎(3年)も加えた守備陣が、1つ1つ丁寧に凌いでいく。

 そして、3分のアディショナルタイムも経過し、優勝を告げるタイムアップのホイッスルが駒沢の上空に鳴り響く。

「去年は西が丘で負けたので、先輩たちの分まで借りを返したかったですし、ここで絶対に全国出場を獲れるように頑張りたいと思っていたので、それが叶って、嬉し過ぎて泣いちゃいました。本当に良かったです」(佐藤)「自分がやってきた3年間、ずっと全国に出られなくて悔しい想いもしましたし、先輩たちの悔しい顔も見てきたので、やっとその想いを叶えられたかなと思います」(MF八木玲)「『やったよ!17年ぶりだよ!』って。もう本当に良かったなって。17年ぶりの全国ということで、少しホッとしていますし、嬉しい気持ちでいっぱいです」(山本監督)。大願成就。成立学園が実に17年ぶりの全国切符を、逞しく手繰り寄せる結果となった。

 前回の全国大会出場以降、成立学園は宮内聡・前総監督(現ちふれASエルフェン埼玉代表取締役会長)、五十嵐和也・前監督、太田昌宏コーチ、森岡幸太コーチと長年一緒にタッグを組んでいるコーチングスタッフが代わる代わる監督を務めてきた中で、今シーズンは山本監督が12年ぶりにチームの指揮を執ることになった。

「結構面白い人ですね。モチベーションを上げてくれる監督なので、選手たちも気合が入りますし、今日も和やかな雰囲気で送り出してくれて、試合にもリラックスして入れました」(八木)「プレー面は結構選手が自分たちで作りながらという形で、自由にやらせてくれますし、ハーフタイムとかは足りないところに声を掛けてくれたりするので、自由なヤツが多い今年のチームには合っていると思います」(陣田)「お茶目なところもあって、時々天然過ぎる時もあるんですけど(笑)、勝負強い監督ですし、伝え切れていないと思ったことは1つ1つ伝えてくれますし、本当に信頼できる人です」(佐藤)。選手たちはこぞって笑顔で、その人柄を教えてくれる。

 優勝を決め、バックスタンドの応援団に優勝を報告したあと、山本監督は選手たちの輪の中に招き入れられる。「『ああ、コイツらに胴上げされるんだ』と思って、『落とすなよ、落とすなよ』とは言いましたけど(笑)、本当に嬉しかったです。いろいろ選手の中からも『こういう練習をしてほしい』とか『ああやってほしい』という話もあって、『そんなんだったら勝手にしろよ』というぐらいの言い合いもしたので、そういう中で『胴上げするから来て』と言われたのは非常に嬉しかったですね」。

 指揮官の小柄な身体が、3度宙に舞う。その前後にはしきりに選手たちから頭を叩かれていたが、「あれは成立ではアリですね(笑)。監督も距離感を近くしてくれる監督なので、それも良い雰囲気になっていると思います」と陣田が笑えば、「あれは全然OKです。フレンドリーな監督なので、それもチームに良い影響を与えてくれていると思いますし、ケンさんを全国に連れて行きたかったので、その夢が叶って胴上げできてたことも嬉しかったです」と佐藤もやはり笑顔。そこには彼らが築き上げてきた信頼関係が色濃く滲む。

 就任したばかりの4月。優勝を飾ることになる関東大会予選の大会中に、山本監督はこんな言葉を残している。「そういえば、今回の大会も選手が勝ちたいと言っているから、オレは『どうかなあ』と言ったら、『ケンさん、何でそんなつもりでやるんですか?』って言われたんです。『今は勝てなくてもいいでしょ。順序立てて、選手権に向けて頑張っていけばいいんじゃない?』『いや、違います』と怒られました(笑)」。

「そんな感じなので、こっちがガーガー言うよりは、のびのびと彼らにやらせてあげたいなって。そのために自分が監督になっているんじゃないかなと思っているので、その中で成立らしさをもう1回これから作っていきたいですね」。そして、監督を叱ったチームはその人の見立て通りに着実な成長を重ね、見事に選手権を獲ってみせた。

 『自由』という名の信頼を与えた“ケンさん”と、その信頼に『自由』をもって応えた選手たち。東京きってのパスサッカーを貫き続けてきたゼブラ軍団、成立学園が17年の時を経て、再び全国の晴れ舞台へ堂々と飛び出していく。

中央で優勝カップを掲げる“ケンさん”こと成立学園高の山本健二監督


(取材・文 土屋雅史)
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