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12年ぶりの選手権。優勝6回、特別な歴史を持つ名門は「新しい国見」としてインパクトを

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優勝6回の伝統校・国見高。12年ぶりの選手権で「新しい国見」も見せる

「新しい国見がどういうインパクトを残せるか。(多くの方々が)イメージしていた国見から、『新しい国見』なんだと。そこに興味を持ってもらえるようにするには、今の選手・スタッフが頑張っていかないといけない」。18年から指揮を執る木藤健太監督は言う。国見高(長崎)は今回の選手権で伝統の力、それ以上に「新しいの国見」の力を見せる。

 第101回全国高校サッカー選手権は29日、1回戦15試合が行われる。12年ぶり24回目出場の国見は、北海高(北海道)と初戦。戦後最多タイの優勝6回、00、01年度の選手権連覇、00年度の3冠(選手権、インターハイ、国体)など特別な歴史を持つ伝統校が、選手権に戻ってくる。

 木藤監督は国見OB。福岡、山形でプレーした元Jリーガーだ。今回、選手権出場を決め、亡き小嶺忠敏監督を中心に築いてきた歴史の凄さを改めて実感しているという。近年の高校サッカー界をリードしている存在と言えば青森山田高(青森)だが、それでも選手権の優勝回数は3回だ。このような数字を見ることで、自身も憧れて入学し、3年間を過ごした国見の歴史を再確認。「改めて、小嶺先生が作り上げた国見高校というのはいかに大きい存在だったのか実感しています」。同時に地元の人々をはじめ、多くのファン・関係者がどれほど国見の復活を心待ちにしていたのかも感じ取った。

 国見町(現雲仙市国見町)の現在の人口は1万人弱。木藤監督の恩師でもある小嶺監督は、その小さな町から「国見と言えば高校サッカー」と知られるほどのチームを作り上げた。当時と変わらず、今もサッカーに全力で打ち込める環境。ただし、10年以上全国舞台から遠ざかる中で、チームは少しずつ変化した。丸刈りを廃止し、サッカースタイルも全国の高校サッカーファンが知る「かつての国見」とは姿が異なる。それでも、チームは以前と変わらぬ躍動感のあるプレーや礼儀などの「国見らしさ」、そして「新しい国見」の姿を全力で見せ、勝利を求めていく意気込みだ。

 指揮官が12月初旬に語っていたのは、「今の国見でも国見らしさがあるな、という選手たちが躍動するプレーであるとか、生き生きしたプレーであるとか、オフ・ザ・ピッチのところも含めて。その上で新しい国見高校というのを見て、応援して頂けるようなチームに最後仕上げていければ」ということ。そして、指揮官自身がそうだったように、小中学生が国見に憧れてもらえるようなサッカーを展開することを目指す。

「見入るような試合をしていきたいなと思っている。見ていて単純に面白いとか、こういうチームでやりたいとか、子どもたちが『国見高校でサッカーをやりたい』と。僕自身がそうだったんですよね。小さい時に国見高校見て、この(青と黄色の)ユニフォームを着たいとか、日本一になりたいとか、そういう存在、チームになっていきたい」。その新たな一歩が今回の選手権だ。

 低迷期に小嶺栄二元監督(19年に他界)が足がかりを作り、それを受け継ぐ形で木藤監督はスタッフ、選手たちとともに復活を目指してきた。今年の3年生は、木藤監督が指揮官に就任して初めて本格的にスカウティングした世代なのだという。かつての国見はロングボール主体の戦いだったが、木藤監督は就任当初からボールを大事にするポゼッションスタイルにチャレンジ。その上で選手たちの特長が出る形を模索してきた。壁を突破するまで悔しい敗戦を経験してきたも確か。だが、その都度ブラッシュアップしながらチーム力を高め、「新しい国見」の姿で全国切符を勝ち取った。

 注目校は予選突破からの1か月半、様々なメディアに取り上げられた。プレッシャーがゼロということはないだろう。それでも、選手権ではリスクを怖れることなく、10番MF北村一真(3年)やMF濱田渉帆(3年)、MF川添空良(3年)を中心に相手を見ながらボールを繋いで前進させ、多彩な崩しでゴールへ。選手権の独特な空気感の中で「新しい国見」のサッカーを展開し、自分たちの成長にも繋げる。

 2人の主将のうちの一人である右SB村田一翔(3年)は、「自分たちが良いプレーできる時は楽しんでプレーできている時なので、楽しんで、周りの人たちも釘付けというか、そういう感じのサッカーをして見せたいです」と誓う。

 もう一人の主将であるCB上田陽南太(3年)は木藤監督について、「サッカーはもちろん、普段から礼儀のことも凄く厳しく指導して下さる。その中でも優しく僕たちのことを考えてくれて。たまに一緒に練習に入って見本でパスとかする時とか『プロだな』と。コーチングとかプレースピードとか速いです」と教えてくれた。県予選で優勝した際は恩師を胴上げ。選手たちは全国大会でも優勝し、笑顔で終えることを本気で目指している。

 国見は初出場した86年度大会で準優勝。木藤監督が率いての国見は今回が“選手権初出場”だ。出場権を獲得した直後、木藤監督の頭に過ったのは喜びよりも「これからだ」という思い。選手も、スタッフも結果にはこだわっている。

「自分もただ出るだけとは思っていなくて。国見として選手権に帰って行くんですけれども、そこで『おぉ』と思われるようなサッカーを見せたいと思いますし、多分子どもたちも思っているんじゃないかなと。色々なところで話しているのを聞くと、『出るだけじゃダメだぞ』と話していますし、アイツらは小嶺(忠敏)先生のことは知らないでしょうけれども、歴史は知っていると思うし、そういうところは繋がっているかなと思います」(木藤監督)。難敵・北海との初戦から簡単な戦いにはならないことは理解している。だが、自分たちに自信を持って「新しい国見」のサッカーを表現し、結果も勝ち取る。 

OBで元Jリーガーの木藤健太監督に率いられた名門校が「新しい国見」を見せる

(取材・文 吉田太郎)
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