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カナリア軍団の2年生守護神は試合中のPKキッカーも!帝京GK大橋藍はゴールを守り、ゴールも決める!

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帝京高のGK大橋藍(2年=FC東京U-15深川出身、緑の1番)は試合中のPKを見事成功!

[10.28 選手権東京Aブロック準々決勝 東久留米総合高 1-3 帝京高 駒沢補助競技場]

 2-1と1点をリードして迎えた後半14分に、チームはPKを獲得。点差を広げる絶好のチャンスが訪れる。すると、ペナルティスポットに立ったのは1人だけチームメイトと違う緑色のユニフォームを纏った背番号1。なんとGKがこの大事な局面で、キッカーとして登場したのだ。

「PKになって、ベンチを見たら『行け!』みたいな感じだったので、『はい!』って(笑)。でも、全然嫌な気持ちはなくて、『たぶん「蹴れ」って言われるだろうな』と思っていたので、蹴る準備はしっかりできていました」という1番のGKが力強く蹴ったキックは、ゴール右スミへ向かっていく……


 第102回全国高校サッカー選手権東京都予選Aブロック準々決勝。実に14年ぶりの全国を狙う帝京高と、こちらは4年ぶりの東京制覇を目指す東久留米総合高が激突した注目の一戦は、開始早々の得点で幕を開ける。

 前半2分。右サイドで東久留米総合が手にしたスローイン。「ケガをしていた時に広背筋を鍛えていたら、投げられるようになりました」というDF八田拓海(3年)がロングスローを投げ入れ、GKが弾いたボールにいち早く反応したMF藤宮拓郎(3年)がダイレクトで合わせたボレーは、緩やかな軌道を描いてゴールへと吸い込まれる。ここ最近でチームが手にした“八田のロングスロー”という武器から、見事な先制点。東久留米総合が1点をリードする。

 以降も東久留米総合の勢いは続く。3回戦の関東一高戦でも躍動したMF横倉和弥(3年)とMF水谷俊太(3年)で組むドイスボランチの配球から、前線でFW佐藤佑哉(3年)やMF城地真翔(3年)がボールを収め、右のMF関稀巳(3年)、左のMF小柳駿大(2年)の両ウイングバックも積極的に攻撃参加。最終ラインも右からDF久保寺壱晟(3年)、DF宮下耀太(3年)、八田で組んだ3バックも安定感を打ち出し、最後尾にはGK中谷悠人(2年)がどっしりと構える格好で、時計の針を進めていく。

 だが、「最初のワンプレー目で自分のミスで失点してしまったので、流れも相手の方に傾いてしまいましたけど、そのあとは意外とチャンスもあったので、守っていればまず1点は返せるかなと思っていました」とGK大橋藍(2年=FC東京U-15深川出身)も話した帝京の一刺しはセットプレーから。32分。右からキャプテンのDF竹内大地(3年)が蹴り込んだCKに、MF山崎湘太(3年)が合わせたヘディングはゴールネットを捕獲。1-1。試合は振り出しに戻る。

 こうなると勢いは帝京に。後半8分には今治内定のDF梅木怜(3年)が絶妙のサイドチェンジを右に蹴り込み、DF永野太一(1年)が残したボールを、カットインしながらMF樋口晴磨(3年)が打ち切った軌道は、ゴール左スミへ突き刺さって逆転に成功。さらに14分にも今治内定のFW横山夢樹(3年)のパスから、抜け出した樋口がペナルティエリア内でGKともつれて転倒。主審はPKの判定を下す。

 これが冒頭の場面。最後方から緑色のユニフォームを着た大橋が上がってくると、そのままペナルティスポットに立ったのだ。「相手のキーパーのリズムに飲み込まれると、僕もキーパーをやっている分、大変なことはわかっているので、自分の間合いでテンポよくやりました」。右スミを狙ったキックは、同じ方向に飛んだ相手GKの指先をかすめて、ゴールネットへ到達する。

 この選手権の大舞台で、GKが試合中のPKを決めてしまうという非常に珍しいシーンではあったが、実は大橋が公式戦でPKキッカーを務めるのは、これが初めてではない。「プリンスリーグでも矢板中央戦の時に蹴って決めていたので、PKは自信があるというか、冷静に蹴れたと思いますし、キーパーが蹴るというのもなかなかないと思うので、そういう意味でもチームに得点で貢献できて良かったです」。

 9月23日に開催されたプリンスリーグ関東1部第13節。矢板中央高(栃木)戦の記録を見ると、確かに得点者の欄には“大橋藍”という名前が躍っている。大橋の“今季2ゴール目”でリードを2点に広げた帝京は、そのまま3-1で勝利。西が丘の準決勝へと勝ち上がる結果となった。



PKを成功させた大橋は応援団と歓喜の抱擁!


 今シーズンの帝京は、昨年度のインターハイで全国準優勝に貢献し、大会優秀選手にも選出されたGK川瀬隼慎(3年)という実力者も抱えており、今大会も3回戦の東京農大一高戦ではその川瀬がスタメンでピッチに立っている。

 チームを率いる日比威監督は「大橋も川瀬も同じレベルなので、優秀なキーパーが2人いるなんて贅沢な悩みです。川瀬も去年のインハイの経験値がありますけど、その川瀬を差し置いて大橋が出ているのは凄いことだと思いますし、キーパーも切磋琢磨しながらやってくれていますね」と2人について言及。ハイレベルな競争がトレーニングから繰り広げられているようだ。

 大橋も“先輩”への想いを隠さない。「去年は川瀬くんがずっと試合に出ていて、その背中を見てきましたし、今は練習でもお互いに指摘し合ったりしながら、切磋琢磨してやっているので、川瀬くんには本当に感謝しています。自分たちはここまでも相手によって交代してきたので、自分が出る時は川瀬くんがしっかりサポートしてくれますし、自分が出る時は川瀬くんを全力でサポートするので、お互い良い関係性が築けていると思います。メッチャ仲は良いです!」。

 次の舞台は準決勝の西が丘で、相手は國學院久我山。昨年度とまったく同じシチュエーションが巡ってきた。「去年はベンチで見ていました。西が丘は人が多いですし、“囲まれている”イメージがあるので、緊張感はあると思います」と話した大橋は、さらに力強く言葉を続ける。

「でも、自分は逆にそういう環境を楽しめるというか、今日もPKを蹴る前は楽しかったので、準決勝も気持ちよく、笑顔でやりたいと思いますね。久我山とは因縁がありますし、やっぱり同じ準決勝で2回も負けられないと思うので、チーム全員で頑張っていきたいと思いますし、今年の自分たちはインターハイ予選も初戦で負けてしまって悔しい思いをしているので、次の準決勝で勝って、決勝も勝って、全国に行きたいです」。

 『PKキッカーの秘密』を教えてくれたのは、キャプテンの竹内だ。「実はもともとキッカーは自分で、あまり外したことはなかったんですけど、練習試合で1本外しちゃって、そこから(横山)夢樹に変わったんです。でも、夢樹がプリンスの健大(高崎高)戦の時に外したら、日比先生から『もうキーパーが蹴れ』という指示がありました。本当は自分が蹴りたいですけど、決めてくれるならいいかなって。藍のPKは結構まあまあ上手いです。ちょっと癪ですけどね(笑)」

 最後に準決勝もPKを蹴るかどうかを大橋に尋ねると、笑顔でこういう答えが返ってきた。「ああ、PKは……、『蹴れ』と言われたら全力で蹴ります!」。

 ゴールを守り、ゴールも決められるカナリア軍団の2年生守護神。西が丘のピッチで“攻守”に躍動するであろう大橋のプレーは、とにかく一瞬たりとも見逃せない。



(取材・文 土屋雅史)
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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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