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[MOM4496]國學院久我山GK大村太郎(3年)_ファミリー感を愛するムードメーカーの守護神が「知らない子たち」も魅了する2本のPKストップ!

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國學院久我山高GK大村太郎(3年=三菱養和SC巣鴨ジュニアユース出身)はPKストップに渾身のガッツポーズ!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.4 選手権東京都予選Aブロック準決勝 國學院久我山高 1-1 PK4-1 帝京高 味の素フィールド西が丘]

 それこそ1人だけでゴールの前に立っているわけではない。自分の後ろには、たくさんの応援してくれる人たちが付いている。想いは十分すぎるぐらい受け取った。あとは、オレが止めるだけだ。

「スタンドにも応援団の人たちがいっぱいいて、『絶対に止めないといけない』という想いがありましたし、僕たちは全国でももっともっと上を目指していくチームなので、『こんなところで負けちゃいけない』という想いでゴールに立って、止められたので良かったです」。

 國學院久我山高の遅れてきた新守護神。GK大村太郎(3年=三菱養和SC巣鴨ジュニアユース出身)が披露した2本の完璧なPKストップが、東京連覇を狙うチームを力強く決勝へと導いた。

 決して楽な展開だったわけではない。帝京高と対峙した準決勝。攻撃力のあるカナリア軍団を相手にボールを動かされ、國學院久我山は守備を強いられる時間が続く。「ハイボールも強気で行くというところと1対1の、その2つは意識して試合に入りましたし、そこだけは本当に徹底しようと思っていました」という大村がファインセーブを披露したのも一度や二度ではなく、主導権は常に握られていた。

 後半の終盤に先制したものの追い付かれ、突入したPK戦。大村の心は不思議と落ち着いていた。「中学生の時も1回あったかなかったかぐらいだったので、PK戦に慣れていたわけではないですけど、100分みんなで戦って、最後にたまたまPK戦になったので、キーパーに来た“ご褒美”的な感じでしたね」。むしろ、楽しみですらあったかもしれない。

 先行は國學院久我山。1人目のDF下塩入俊佑(3年)はきっちり成功させたものの、蹴り終わった瞬間に足が攣って転倒。その場から動けなくなってしまい、帝京1人目のキッカーが蹴るまでにかなり時間が掛かることになったが、守護神はここでも落ち着いていた。「俊祐はああいうキャラなので(笑)、『本当にやり切ってくれてありがとう』という想いで、1回そこは集中力を切ってしまって、もう1回相手が蹴る瞬間には止めようという気持ちでした」。

 改めてセットされた相手の1人目。「正直相手の体の向きとか、ボールの置く位置とかはほぼ見ていなくて、『自分の決めた方向に来た時だけは絶対に止める』という気持ちで飛びました」。自分の右側に蹴られたボールを、右手で鮮やかに弾き出す。

 國學院久我山の2人目も成功し、迎えた帝京の2人目。「2人が決めてくれていたので、そこは自分も安心して、リラックスして、ゴールに立てましたし、ちょっと言葉にするのは難しいんですけど、蹴る瞬間に『こっちだ!』という感覚が来たんです。本当に読みがきれいに当たったんですよね」。今度は自分の左側に飛んできたボールを、再び右手で大きく掻き出す。

 守護神に2本も止めてもらったら、負けるわけにはいかない。3人目まで全員成功した國學院久我山は、4人目もきっちり沈めて勝負あり。大村のスペシャルな躍動が、チームに最高の歓喜をもたらした。



 もともと今シーズンの國學院久我山は、2年生のGK太田陽彩がレギュラーを掴んでいたが、その太田が9月に負傷したことで大村に出場機会が回ってきた。

「陽彩がずっと出ていた時も、常に自分も出られる準備はしていましたし、そういう立場でプレーすることが今までの3年間では多かったので、そこは試合に出たいという気持ちを出しすぎず、冷静にチームのために何ができるかということを考えて、チームに貢献してきた結果、たまたま陽彩がケガをして出番が回ってきたので、それでも今まで通りチームのためにできることが何かを考えて、やり続けているという感じですね」。

 キャプテンを務めるDF普久原陽平(3年)は大村の真摯にサッカーへ取り組む姿勢を、入学直後から見守り続けてきたという。「3年間ずっと一緒でしたけど、陽彩に正守護神を取られても、腐らずにずっと頑張ってきてくれたので、こういうチャンスが回ってきた時に今日みたいなセーブをしてくれますし、応援練習の時も先頭に立ってやってくれるようなタイプなので、凄く頼りになりますね。『アイツならやってくれる』と思っていましたし、ああいうセーブをしてくれると、チーム全員が嬉しくなるようなヤツなんです」。試合に出始めたのは最近でも、チームメイトからの信頼は絶大だ。

 興味深いシーンがあった。帝京1人目のPKをきっちり止めた大村は、派手なガッツポーズを繰り出した直後、人差し指を突き出してゴール裏へとアピールする。その視線の先にいたのは、3年間をともに戦ってきたチームメイトと、試合中から声援を送ってくれていた小学生ぐらいの子どもたちだ。

「知っている子たちではなかったですけど、『もう自分のことを応援してくれているんだったら仲間だ』と思って、もう全員で止めるという気持ちで、『仲間になってくれ』という想いでした。あの子たちも仲間になってくれていましたね(笑)。あとは、ゴール裏に今はケガをしている馬場翔太入野瑛太もいたので、それも力になりました」。つまりは“知らない子たち”も魅了するぐらい、そのプレーが光っていたということだろう。

 普久原も言及していたように、チームきってのムードメーカー。その役割は自分でも意識しているが、ベースになっているのは中学生時代を過ごした三菱養和での経験だ。

「僕の好きな言葉に『養和ファミリー』という言葉があって、高校でユースには上がれなかったんですけど、久我山でもう1回みんなで“ファミリー”を作ってやろうということは意識していて、全員が1つになって、本当に家族レベルまでコミュニケーションを取ってやることは絶対に試合にプラスになることだと思うので、それは心がけています」。こんな選手が活躍すれば、それはチームに勢いが出ないはずがない。

 東京連覇まではあと1勝。大村は改めて来週の一戦へと気を引き締める。「今は勝ったばかりで、チーム全体も良い雰囲気なんですけど、まだ全国の切符を獲っていないという状況は準決勝をやる前と変わっていないので、集中してこの1週間でまた気持ちを高めて、決勝に臨めればなと。絶対に優勝して、全国に行って、去年の成績を超えたいと思います」。

 雌伏の時を経て、3年間の最後の最後でようやく晴れ舞台に登場してきた、スタンドをも味方に付けられるような、ポジティブなエネルギーを発している國學院久我山の新守護神。決勝でも大村のパフォーマンスからは目が離せない。



(取材・文 土屋雅史)
●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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