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ボールを持たれても、押し込まれても、最後には「逞しく勝つ」!國學院久我山は帝京をPK戦で振り切って東京連覇に王手!:東京A

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國學院久我山高はPK戦を逞しく制して東京連覇に王手!

[11.4 選手権東京都予選Aブロック準決勝 國學院久我山高 1-1 PK4-1 帝京高 味の素フィールド西が丘]

 決して望んだような試合内容ではなかったかもしれない。相手の力量を認めて、守備の時間を長く強いられることも甘んじて受け入れた。それも、これも、すべては勝利という結果を手繰り寄せるための覚悟。そして、彼らはその勝負を逞しく制したのだ。

「自分たちはそこまでスーパーな選手が何人もいるチームではないと思うんですけど、最後に勝ち切る力はどこかに持っているんじゃないかなと思います。自分たちもそれが何かはハッキリとはわからないですけど、『勝ち切れるんじゃないか』みたいな、変な自信はあります」(國學院久我山高・普久原陽平)。

『逞しい久我山』が見せた、執念の粘り勝ち。第102回全国高校サッカー選手権東京都予選Aブロック準決勝は、去年とまったく同じ対戦カードが、これまた同じ西が丘を舞台に実現。2年連続となる東京制覇を目指す國學院久我山高と、14年ぶりの冬の全国を狙う帝京高が激突したビッグマッチは、PK戦の末に國學院久我山が勝利を収め、連覇へ王手を懸けている。

「ポゼッションも含めて、内容的には帝京の方が良かったですよね」と日比威監督も話したように、序盤から攻勢に出たのは帝京。前半3分にはMF樋口晴磨(3年)のパスから、今治内定のFW横山夢樹(3年)が左足で放ったシュートはゴール右へ外れるも、早くもフィニッシュを取り切ると、4分にも樋口が鋭いドリブルでエリア内へ侵入。ここは果敢に飛び出した國學院久我山のGK大村太郎(3年)がファインセーブで凌ぐも、まずはカナリア軍団がゴールの香りを漂わせる。

 ただ、國學院久我山も攻められる展開は想定内。「今日はもうどこかでカウンターの一発というゲーム展開だと。相手が強いんだから、ディフェンスも逆に『ボールを取った時の方がチャンスだ』ぐらいに思って、攻められていることに対して慌てる必要はないと」(李済華監督)。27分には右サイドを仕掛けたFW小宮将生(3年)が枠の左へ外したミドルがこの日の初シュートだったが、ボールを持たれる展開にも焦れずに時計の針を進めていく。

 33分には帝京に決定機。相手のビルドアップのミスから、ボールをかっさらった横山がそのままドリブルで運び、右に流れながら放ったシュートはクロスバーの上へ。「こういう展開になるのも頭のどこかにあったので、『しょうがないな』と割り切って、守備をやり切りました」と話したのは國學院久我山のキャプテンを務めるDF普久原陽平(3年)。それでも前半はスコアレスで、40分間が経過した。

 後半になっても大きな流れは変わらない。帝京はDF田所莉旺(2年)と今治内定のDF梅木怜(3年)の両センターバックから丁寧にビルドアップしながら、MF藤田隆之介(3年)とMF土本瑶留(3年)のドイスボランチが、横にも縦にも配球。前線ではFW森田晃(2年)がしっかり基点を作り、窺うチャンス。一方の國學院久我山はこちらも普久原とDFスコット颯真ニコラス(3年)のセンターバックを中心に守備で耐えつつ、右からFW菅井友喜(3年)、FW前島魁人(2年)、FW佐々木登羽(3年)を配した3トップのカウンターに活路を求める。

 後半18分には國學院久我山らしいアタック。スムーズにパスを繋ぎながらMF洪潤紀(3年)、菅井と回ったボールを、反転しながら前島が打ったシュートは帝京のGK大橋藍(2年)にキャッチされるも好トライ。24分には帝京に決定機。投入されたばかりのFW山下悠斗(3年)を起点に、MF山崎湘太(3年)は優しく裏へ。抜け出した森田のシュートは、しかしゴール右へと逸れていく。

 均衡を破ったのは意外な伏兵。31分。相手のフィードをカットした普久原は「自分でも『道が見えたな』というぐらいスペースを見つけられました」と、突如として目の前に開けた“花道”を明確に認識しながら縦パスをグサリ。前島が落としたボールをMF近藤侑璃(2年)が丁寧なスルーパスに変えると、そのまま走り込んだ普久原は華麗な切り返しでマーカーを外し、冷静なシュートをゴールへ流し込む。「侑璃から凄く良いボールが返ってきたので、良い感じに流し込めましたね。ああいうゴールは初めてなので、自分でもビックリしました(笑)」というセンターバックのゴラッソ。苦しんできた國學院久我山が1点のアドバンテージを鮮やかに奪う。

 ただ、昨年も『準決勝の西が丘』で國學院久我山に敗れ、リベンジに燃える1年を過ごしてきた帝京も意地を見せる。35分。相手のFKをキャッチした大橋は素早く前へスロー。山下が左サイドをグングン持ち運び、横山からのリターンを経て、左サイド深くまで侵入しながら中央へ折り返したボールを、森田は左足でゴールネットへと送り届ける。弾けるカナリアの歓喜。思わず天を仰ぐ痛恨のオレンジ。



「一番怖いのがFKからの逆襲で、センターバックが上がっちゃったので、4人は残っていたんだけど、守備的ではない子がいたので、アレは痛恨のミスでしたね」(李監督)。帝京は死なず。1-1。もつれ込んだ延長戦でも決着は付かず、ファイナルへの進出権はPK戦へと委ねられることになる。

 『11メートルの主役』を張ったのは、「100分みんなで戦って、最後にたまたまPK戦になったので、キーパーに来た“ご褒美”的な感じでしたね」と笑った國學院久我山の背番号1。

 運命のPK戦。先行の國學院久我山1人目はきっちり成功。後攻の帝京1人目。左スミを狙ったキックは「正直相手の体の向きとか、ボールの置く位置とかはほぼ見ていなくて、『自分の決めた方向に来た時だけは絶対に止める』という気持ちで飛びました」という大村が、完璧なセーブで弾き出す。

 國學院久我山2人目も冷静に成功。帝京2人目。今度は右スミを狙ったキックは「ちょっと言葉にするのは難しいんですけど、蹴る瞬間に『こっちだ!』という感覚が来たんです」という大村が、またも完璧なセーブでストップしてしまう。

 3人目は双方が確実に決め切り、國學院久我山4人目は近藤。沈めれば勝利というキックを14番は左スミへ蹴り込むと、大橋も手には触れたものの、ボールはゴールネットへ到達する。

「去年から彼らはずっとPK練習をやるんだよね。私はサッと帰るんだけど、ずっとPK練習をやっていたんです。だから、カッコよく言えば、ウチの子たちの“自主性”の勝利。言われたことではなくて、自分たちで考えてできるということは、管理能力が私より高いということでしょう」と李監督も笑った國學院久我山が、劣勢の100分間をきっちり耐え切り、最後はPK戦をモノにして決勝へと勝ち上がる結果となった。



「残念なゲームでしたね。内容で見れば絶対に帝京のゲームでしたから。それだけに余計悔しいかもしれない」という日比監督の言葉は決して強がりではないだろう。試合を通してみれば、大半の時間でボールを握っていたのが帝京だったことは間違いない。普久原も「今日は持たれるシーンも、押し込まれるシーンも多かったです」と認めている。

 李監督の言葉が印象深い。「今日はディフェンスが良くやった。攻撃のミスは少しあったけど、普久原がワンチャンスで点を獲ったしね。相手との力量を考えた時には、最後の1失点を除いたらパーフェクト。そういうゲームもあるじゃないですか。相手が強かったことも含めて、彼らのプレースタイルも含めて、ハッキリ言って予想通り。ある意味では慌てなかったですね」。

 つまりは帝京の実力を潔く認め、しっかりと守備に軸足を置きながら、“一刺し”するタイミングを狙い続ける戦い方を選択したということ。あるいは『久我山らしい』サッカーではなかったかもしれないが、裏を返せば今年のチームはそういう勝ち方もできるという自信の表れとも言えるだろうか。

 キャプテンを任されている普久原も「本来自分たちが一番求めているものではないですけど、勝ちは勝ちなので、凄く嬉しいなと思います」と口にしながら、「最後まであんなに身体を張るのは、ちょっといつもの久我山とは違いますよね。違いますけど、最後に勝ち切ることが大事なんじゃないかなと思います」と言葉を続ける。

 李監督が掲げ続けている『美しく勝つ』は、もちろん彼らの絶対的な指標だ。だが、そこに『逞しく勝つ』が加わってしまっては、このチームを凌駕することはかなりの難題になってくる。冒頭でも普久原が話していた「それが何かはハッキリとはわからないけど、『勝ち切れるんじゃないか』みたいな、変な自信」を纏い始めた國學院久我山は、来週もこの日と同じ西が丘のピッチで、堂々と東京連覇に挑む。



(取材・文 土屋雅史)
●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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