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目標はプロ。福知山成美のナイジェリア人留学生2人が前回全国2位の東山相手に特長を発揮

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福知山成美高のGKウボング・リチャード(右)とFWローレンス・デイビット

 第102回全国高校サッカー選手権大会・京都大会の準決勝。昨年度の全国準優勝チームの東山高に挑んだ福知山成美高のメンバーに、二人の留学生がいる。GKウボング・リチャード(2年)とFWローレンス・デイビット(2年)は昨年にナイジェリアから来日して、同校の国際コースに通っている。日本人や他国からの留学生と共に勉強に励み、部活ではサッカー部に所属。二人とも今年からAチームでレギュラーに定着して、チームの主軸として活躍している。

 この試合では、それぞれが持ち味を発揮した。守備で光ったのはリチャードだ。序盤から東山が攻撃を仕掛ける中でピンチが訪れるが、30分にロングスローからエリア内でフリーとなった相手FWに放たれたシュートは至近距離にも関わらず素早い反応でセーブすると、前半アディショナルタイムにクロスを合わせた相手FWがヘッドで左上の隅を狙ったシュートも跳躍力とリーチの長さを生かして防いでみせた。

 攻撃を牽引したのはデイビット。最前線にポジションを取り、スピードを生かしたドリブルやスペースへの抜け出しでゴールに迫る。後半8分に足元でパスを受けると、相手DFを背負った状況から鋭いターンと加速の速さでマークを振り切ってシュートまで持ち込んだ。

 また、二人だけで決定機を作った場面もあった。リチャードがキック力を生かして自陣後方からロングフィードを放つと、敵陣で相手の最終ラインの背後でボールを受けたリチャードがエリア内まで持ち込んでGKと1対1のシーンを生み出している。それらのチャンスを相手GKの好守もあり決められなかったことは悔やまれるが、この日のチーム事情を考えれば、よく攻撃を牽引したといえるだろう。

 じつはこの大一番に福知山成美は、チームの要となるFW山田瑛人(3年)を欠いていた。キャプテンのMF山口耀正(3年)が「攻撃はデイビットが注目されがちだけど、このチームは瑛人がいてこそ」と話し、選手に厳しい今川宜久監督も「あいつには信頼を寄せている」と評価して背番号10を任せているエースは、二日前に行われた準々決勝・山城高戦で空中戦を競り合った後に上半身から落下。鎖骨を骨折して欠場を余儀なくされた。

 本来なら相手のプレッシャーを受けながらもタメを作れる山田瑛が前線の起点となり、デイビットのスピードを生かすコンビがチームのストロングポイントなのだが、エースを欠いたことでデイビットの一本鎗だけになってしまった。それでも、高い身体能力を生かして脅威となってたが、もし山田瑛がいれば二人の関係性で攻撃を仕掛けられて、相手守備陣のマークも分散させることができたはずだ。

 試合は前後半を通じて、両チームにゴールが生まれなかった。今川監督は「いつもより守備的な戦い方に変えなければならなかったが、選手たちはよくやってくれた」と強敵相手に80分間の中では失点を許さなかったチームを褒めたたえていた。PK戦は「毎日、練習後に1人1回だけという本番と同じ状況でPKを練習してきた」(DF海老原雅音(3年)」という東山に軍配が上がった。

 東山GK牧純哉(3年)が1本目から3本目まですべてのキックを止めたのに対して、リチャードは一度もボールに触れず、デイビットもシュートを牧に読まれて最後のキッカーとなってしまうなど、試合後は二人とも肩を落としていた。この悔しさを糧として、最終学年となる来年へ挑むことになる。

 二人が目指すには、Jリーグでプロ選手として活躍することだ。同校からは2022年にオリオラ・サンデーがJ2徳島でプロのキャリアをスタートさせている。リチャードは同郷の先輩から『プロになりたければ、サッカーも大事だけど、日本語を覚えること』というアドバイスをもらったという。「ニホンゴ、むつかしくてタイヘンね。でも、ガンバッテおぼえてる」と話しており、今回の取材も全て日本語で対応してくれた。試合中は「ファーサイド、ジュンビして!」、「ライン、もうちょっとあげよう!」など日本語で指示を出してる。夏のインタはーハイ予選ではゴール前で痛んだ相手選手を見て「レフリー!(選手が)たおれてます。ゲームとめてください」と審判にアピールする場面もあった。

 日本にも馴染んでいる様子で「好きな日本食は?」と聞いてみたら「イチバンはカレー!ニバンメはオムライス!めちゃうまいね!」。また「シン(辛)ラーメンもスキダヨ!」と話した後に「でも、ニホンの食べ物じゃないね(笑)」とボケる場面もあった。

 デイビットも「プロサッカー選手に、ホンマになりたいです」と関西弁で目標を話しており、「だからデイビットは、もっともっとトレーニングするね」と言葉を続けている。好きな選手を聞いたところ「リオネル・メッシ!あとは三笘、マジでうまい!」と声を張り上げる姿は、日本の高校生と変わらなかった。

 荒削りではあるが、高いポテンシャルと伸びしろを持つ有望株だ。最終学年となる来季は、更なる飛躍が期待される。

(取材・文 雨堤俊祐)
●第102回全国高校サッカー選手権特集

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