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[MOM4533]前橋育英MF平林尊琉(1年)_名門で定位置を掴む1年生アタッカーが好アシストで県制覇に貢献!

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好アシストで優勝に貢献した前橋育英高MF平林尊琉(1年=JFAアカデミー福島U-15 WEST出身)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.12 選手権群馬県予選決勝 前橋育英高 2-0 健大高崎高 アースケア敷島サッカー場]

 この男にボールが入ると、その周囲には何かが起きそうな空気が充満する。ドリブル、パス、そして、アシストにゴール。すべてをハイレベルにこなしてしまうのだから、それは1年生で名門のレギュラーを託されてしまうのも納得だ。

「1年生ながら試合に出させてもらって、スタンドで応援してくれている3年生たちのためにも優勝したいと思っていたので、優勝できたことは嬉しいことですし、自分の将来の夢に向けても良い経験になるのかなと思います」。

 上州のタイガー軍団の攻撃を牽引する16歳。前橋育英高のライジングスター。MF平林尊琉(1年=JFAアカデミー福島U-15 WEST出身)の右足が、全国出場へと繋がる扉をしなやかにこじ開けた。

 健大高崎高と対峙した群馬ファイナル。準々決勝の常磐高戦ではハットトリックを達成し、この日も左サイドハーフのスタメンに指名された平林は、すぐに前の試合の相手とこの日の相手の“プレスの違い”に気付いたという。

「準決勝の桐生第一とは違って、健大はプレスが『待ってくるプレス』じゃなくて、『取りに来るプレス』だったので、『この間とは変わったな』とは感じながら、『このプレスをかわしたらフリーになって、チャンスになるな』と思いましたし、どうやってかわすかを真剣に考えて、味方の“奥”を使ったり、キルアさん(斉藤希明)さんがオーバーで来たりするタイミングを狙いながらやっていました」。

 その時は前半14分にやってきた。左サイドをDF斉藤希明(3年)が持ち運ぶのを見て、少し内側へポジションを取っていた平林は、FWオノノジュ慶吏(2年)からパスを受けると、ルックアップして中央の状況を確認する。

「(大岡)航未と、その奥にもヤマユウさん(山崎勇誠)がいて、中が2対2の状況だったので、相手の一番ニアにいる選手の頭さえ越えれば、あとはどっちかが詰めてくれると思いましたし、理想としてはそこに合わせやすいようなフワッとしたボールを蹴ろうと考えていました」。

 平林が右足から繰り出したクロスは、狙い通りにニアのDFの頭上を越え、走り込んできたFW大岡航未(1年)にピタリ。「平林からクロスが来るだろうなと思ったので、そこに入って、あとは触るだけでした」と大岡も振り返った、鮮やかな先制点が前橋育英に記録される。

 全国切符の懸かった大事な試合で、輝いた1年生コンビ。平林の「航未とは国体でもずっと一緒にやっていたので、そこの連携で練習した形で点が獲れたというのは嬉しいですし、1年生同士で結果を残せたのは良かったと思います」という言葉も頼もしい。

 以降も決してペースを引き寄せられたわけではなかっただけに、この1点はとにかく大きかった。健大高崎に攻め込まれる時間帯もありながら、後半にMF斎藤陽太(3年)のPKで追加点を挙げた前橋育英は2-0で勝利。「将来の夢は海外でも活躍できる選手になることなんですけど、その夢に向かってという意味でも、県で優勝したり、全国の舞台に立てる選手にならなきゃいけないなと思っていたので、優勝できたのは嬉しいです」と笑った23番の躍動が、全国切符獲得の一翼を担ったことは間違いない。



 平林は6月にプレミアリーグのメンバーに登録されると、初めてベンチ入りを果たした昌平高戦でいきなりプレミアデビュー。次戦の大宮アルディージャU18戦ではスタメンに抜擢され、ゴールまで奪ってしまう。

「昌平も強いチームだと思うんですけど、そこである程度は自分のプレーも出せて、『ああ、プレミアでもやれるんだ』と思ったのと、その次の節のアルディージャ戦で点を決められたので、そこで吹っ切れて『ああ、できるな』と思いました」。そこからはリーグ戦全試合に出場し、不動の左サイドハーフとして存在感を高めてきた。

 それでも、そこで奢るようなメンタルはそもそも持ち合わせていない。「自分でも1年生のうちにここまでうまく行くとは思っていなかったですけど、今はこの段階まで良い形で来ているからこそ、もっと力を伸ばそうと思って、真剣に練習に取り組んでいます」。さらなる成長を自身に課し続けている。

 前橋育英への進学を決意したのは、ある“先輩”の存在が大きかったという。「去年のインターハイの決勝を徳島へ見に行った時に、身長も小柄な大久保帆人さん(現・日本大)が細かいところをどんどんドリブルで行くのを見て、僕はああいうガツガツした感じの選手がメッチャ好きなんですけど、『こういう選手も使ってもらえるんだな』と思って、自分もタイプとしては似ているので、『こういうサッカーをしたいな』と思って、育英に来ました」。

 聞けば納得。確かに大久保を彷彿とさせるようなドリブルは随所で発揮されている。去年の夏にタイガー軍団が獲得した日本一は、後輩たちの進路にも小さくない影響を与えていたというわけだ。

 手繰り寄せた冬の全国の舞台。インターハイもピッチで経験してきただけに、平林が今回の選手権で成し遂げたいことは、とにかく明確だ。「インターハイは(3回戦の)尚志戦で勝てる試合だったのに負けてしまって、もっと上に行けたら、自分ももっと成長できたと思っているので、今回の全国大会の舞台は1試合1試合を凄く大事にして、どんどん勝ち上がっていきたいです。それで自分の名前が広まればそれはいいことですし、自分は来年も再来年も選手権に出られますけど、まずは今回の全国での優勝を目標に頑張りたいと思います」。

 左サイドを風のように切り裂く、前橋育英に颯爽と現れた1年生アタッカー。もはやさらなるブレイクも時間の問題。『尊琉=たける』と読むこの名前、覚えておいた方が良さそうだ。



(取材・文 土屋雅史)
●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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