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[MOM4536]京都橘MF松本海音(3年)_「ピッチに立てない選手の分まで」走り、後半終了直前に決勝点

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京都橘高MF松本海音(3年)が決勝点。右手首には“77”と“80”の数字

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.12 選手権京都府予選決勝 東山高 1-2 京都橘高 サンガS]

 全国への扉を切り開いたのは、この男の右足だった。後半アディショナルタイム突入直前の39分、京都橘高はロングスローの流れから右サイド深くを突くと、折り返しのセカンドボールを味方が回収して、最後はMF松本海音(3年)が右足を振りぬく。「シュートコースは見えていたので、ふかさないことを考えました」という思いをこめた一撃は、エリア内の敵味方の間を抜けてネットを揺らした。

 この日はボランチで先発して、パスの配給やセットプレーのキッカーとして攻撃に絡んだ。「やったらできるはずだけど、やりきれていなかった」弱さを払拭するために毎日の練習から取り組み、自主練習では「もう一度、基礎からやった」とトラップやキックなどを繰り返した。

 去年の3年生を見ていて感じたものを、今年は自分たちが下の学年に伝えたい。「誇れる先輩になりたいと思った」ことを、行動で示そうとしてきた今シーズンだった。また、守備でもボール奪取などで活躍。そして、後半途中からは西川が右サイドへ移ったことで、彼のいた前線にスライドした。決勝点の場面も得点を狙ってゴール前へ入っていこうとも考えたが「マイナス気味の折り返しになりそうだったので、前へ突っ込まずに待ち構えた」ことが、ミドルシュートを打てる状況につながっている。

 さらに、支えになったのはピッチに立てない仲間の存在だ。同じ3年生の福永裕也道倉悠聖は本来は本来ならレギュラーとなるべき存在だが、怪我により今大会はサポートや応援に回っている。二人のような負傷者やメンバーに入れなかった選手たちの思いを知るからこそ「ピッチに立てない選手の分まで…という思いはどこよりも強いし、そういうものを体現できる試合をしたい」と覚悟を持ってプレーしている。

 決勝戦、松本の右手首に巻かれたテーピングには、福永と道倉の練習着などに使われている“77”と“80”の数字がマジックで書かれていた。「しんどいときに、これを見たらがんばれると思って」。運動量や好守の切り替え、球際の戦いなどをこなし続けた試合終盤は疲労もあったが、最後まで足を止めずにプレーし続けたからこそ、決勝点の場面にたどり着くことができた。

 海音(カノン)という名前は、海のように広い心、海の音色のような朗らかさを持って欲しいという両親の想いがこめられているそうだ。昨年の決勝では先発起用されたが「何もできずに」ハーフタイムで交代した。その悔しさも持って挑んだ大一番でチームを全国へ導けたことを「ほんまに幸せです」とつぶやいていたが、自らのゴールが京都橘に関わる多く人たちにも、晴れ渡る海のような歓喜を届けた。

(取材・文 雨堤俊祐)
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