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[MOM4585]帝京長岡FW谷中習人(3年)_総監督の予想を超えた逆転劇…主役は県予選までスタンドで応援の点取り屋

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帝京長岡高のFW谷中習人が同点、逆転の2発(写真協力=高校サッカー年鑑)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.29 選手権1回戦 帝京長岡高 3-2 長崎総科大附高 柏の葉]

 11月に行われた新潟県予選までは応援リーダーを努めていた男が、帝京長岡高(新潟)を窮地から救った。

 1-2と2度目のリードを許した直後の後半21分にピッチに投入されたのは、「ほとんどAチームの試合には出たことない選手」だと谷口哲朗総監督が挙げる背番号22、FW谷中習人(3年)だった。「正直、プレー自体はそんなに貢献度は高くなくても、点を取るっていうことに関してはチームの中でも指折り」と谷口総監督が期待を持つ谷中が、交代から6分後のファーストシュートで起用に応える。

 1点リードしながらも長崎総合科学大附高(長崎)が果敢にしいていたハイラインは、「自分は裏抜けの形がすごい得意なので、そういったところでは絶対ゴールを決める自信はあった」という谷中にとって長所を出す格好の場だった。MF橋本燦(3年)のスルーパスに谷中がオフサイドラインギリギリで飛び出し、背後にできた広大なスペースを独走すると、左足でゴールネットを揺らした。

 2-2で両校が3点目を奪いにいく展開の中で、アディショナルタイムの提示は「2分」。アディショナルタイムが1分以上経過していたところで、DF松岡涼空(3年)がサイドチェンジで左サイドのMF原壮志(3年)へ。原はクロスを上げきると、ボールは長崎総合科学大附守備陣をすり抜ける。「ボールが流れてきそうなところにポジションを感覚でとっていた」谷中は、胸トラップで処理したボールをボレーシュートでたたくと、再びゴールネットを揺らす。残り数十秒というところで、帝京長岡がこの試合はじめてのリードを奪った。

 殊勲の2ゴールを挙げた谷中だが、「ほとんどAチームの試合には出たことない選手」(谷口総監督)。Aチームが参加するプリンスリーグ北信越1部、同2部ではなく、新潟県1部リーグでのプレーが続いていたと谷中は明かす。選手権予選では応援にまわり、チームが2年ぶりに選手権への切符をつかんだことに喜ぶ一方で、自らを奮い立たせた。

「(新潟県予選で)優勝できて本当に嬉しかったんですけど、そこのメンバーに自分が組み込めてないっていう現実はしっかりと受けなきゃいけないと思って、そこからまた自分のできることをサッカー以外のところにも取り組んでいきました。いつ試合に出てもいいようにっていう気持ちで、チームのために声をかけることだったり、とにかくチームのためにっていう気持ちで練習をしてきました」

 本大会に臨む30人のリストに名を連ねたときは「涙が出るほどうれしかったです」と谷中。憧れの選手権での出場、そしてゴールは苦楽をともにした仲間と分かち合いたかった。

「本当に今までBチームでの活動が多かった自分なんですけど、つらいときでも一緒に上向いてAチームを目指して試合に出るって気持ちでやってきたメンバーがスタンドにいたので、気持ちと体が勝手に動いて、スタンドで一緒に喜ぶ喜ぼうと思って体が動いちゃいました」

 交代のカードで勝利を手繰り寄せた帝京長岡。谷中の起用に踏み切ったのはコーチ陣の決断だという。「(谷中を)一番手に使った川上(健)コーチの采配にちょっとビックリしたところもある」という谷口総監督だったが、勝利の立役者たちに目を細めていた。

(取材・文 奥山典幸)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
奥山典幸
Text by 奥山典幸

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