beacon

[MOM4313]帝京長岡GK小林脩晃(2年)_中学時代に全国MVPも経験した実力者。「PK大好き守護神」の躍動が引き寄せた全国切符!

このエントリーをはてなブックマークに追加

PK戦の主役をさらった帝京長岡高GK小林脩晃(2年=FC東京U-15むさし出身)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.4 インターハイ新潟県決勝 帝京長岡高 0-0 PK4-3 日本文理高 新発田市五十公野公園陸上競技場]

 状況はよりシビアになったけれど、やるべきことが変わったわけではない。もともと「自分が止めて勝つ」という青写真を描いていたのだ。その可能性が高くなっただけ。ヒーローになる自信は、もちろんあった。

「自分がPKを止めて勝ちたい気持ちが強くあったので、本当に良かったというか、『よっしゃあ!』という感じがありました。自分には今までもたくさん経験してきたことがあるので、今回の試合もそこまで緊張することなく、良い緊張感で臨めたと思います」。

 帝京長岡高のゴールマウスを託された、頼れる1番は『PK大好き守護神』。GK小林脩晃(2年=FC東京U-15むさし出身)が果たした大仕事が、チームを力強く全国大会へと導いた。

 焦れるような試合展開だった。日本文理高と対峙したインターハイ予選決勝。帝京長岡は押し込む時間も長く、何度も決定的なチャンスを作り出したが、なかなかゴールを仕留めきれない。

「本当に終始チャンスが多くて、凄く惜しい場面も何度も何度もあったと思うんですけど、それでも後ろのやることは変わらないですし、『しっかりとゼロで我慢強く』ということは味方に伝えていました」という小林は、DF高萩優太(3年)とDF坪田悠一郎(3年)のセンターバックコンビとともに、少ないチャンスに懸ける相手のアタックをアラートに警戒し続ける。守備陣は無失点に抑えたものの、攻撃陣も得点は奪えず、延長も含めた90分間は0-0で終了。全国出場の権利はPK戦で争われることになる。

 もともとPKには良いイメージを持っていた。2年前の日本クラブユース選手権U-15大会。FC東京U-15むさしの一員として参加したこの大会で、小林はともにPK戦へともつれ込んだ準決勝と決勝で相手のキックをストップし、日本一獲得に大きく貢献すると、大会MVPも受賞。「あの時のチームメイトはみんな個が上手くて、PKも本当に上手かったので、1本止めればというところもありましたから」と謙遜するものの、大舞台での経験はしっかり積んできた。

 実は日本文理は準々決勝で新潟西高と、20-19という壮絶なPK戦を繰り広げていた。「その映像もしっかり見た中で、自分の中で分析もして、参考にしつつ挑んだんですけど、最初の方は難しかったですね」。意気込んで挑んだこの日のPK戦。1人目のキックは自身の右に飛んだが、中央に叩き込まれ、2人目のキックは方向こそ読み切るも、伸ばした指先はわずかに及ばない。

 日本文理の3人目は枠を外したが、4人目は逆を突かれて止め切れず。すると、帝京長岡4人目のキックもクロスバーを越えてしまう。それでも小林のメンタルは、PK戦に臨む前のそれと何1つ変わっていなかった。「味方が外してしまって振り出しに戻ったので、複雑で難しい心境ではあったんですけど、そこは変わらず『自分が止めて勝つ』という強い想いをもって挑みました」。

 日本文理の5人目。「相手が目線で駆け引きをしてきたんですけど、PKは凄く自信があったので、しっかりと自分が決めた方に自信を持って飛んだら、うまくそっちに来てくれたので、丁寧に手で壁を作って、最後までボールを見て止めた感じです」。方向も、タイミングも、読み通り。飛んできたボールを丁寧に、確実に、小林は弾き出す。

 帝京長岡5人目のキッカーは、FC東京U-15むさしの先輩に当たるFW河角昇磨(3年)。小林は河角の元へ駆け寄って、ハイタッチと抱擁を交わす。「同じチームで一緒にずっとやってきたこともあって、最後は『頼みます』と“先輩”に託しにいきました」。

小林が5人目のキックに向かう河角を抱擁で勇気付ける


 後輩から想いを託された先輩のキックが、確実にゴールネットを揺らす。「GKの小林はPKが大好きなヤツなので(笑)、1本ぐらいは止めてくれるんだろうなと思っていました」と笑ったのは谷口哲朗総監督。ピンクの守護神が得意のPKストップで、チームに全国大会出場という最高の歓喜をもたらした。

殊勲の小林が“キーパー仲間”たちに祝福される


 小林には目指すべき2人の“先輩”がいる。1人はFC東京U-18でプレーするGK小林将天(3年)で、もう1人は静岡学園高の守護神を任されているGK中村圭佑(3年)。ともにチームのキャプテンを務め、年代別代表にも継続的に招集されている彼らは、FC東京U-15むさし時代に切磋琢磨してきた1つ年上の先輩だ。

「2人とも存在が大き過ぎる先輩ですね。近くにいてくれたことでいろいろ吸収できたことは本当に良かったと思いますし、自分も先輩に負けないぐらい頑張って、ゆくゆくは2人みたいに高校選抜や代表にも選ばれるようになりたいですし、本当に良い刺激をもらっています」。

 とりわけ静岡学園もインターハイ出場を決めたことで、中村とはピッチ上で再会する可能性も出てきた。「高校に入ってからも遠征でちょくちょくは会っていますけど、偉大な先輩ですね。一緒にやっていた時はあんなに近かったのに、今は遠い感じもしますけど、もし試合をした時には周りの良さを引き出しながら、しっかり戦っていきたいと思います」。また1つこの夏に向けての楽しみが増えたというわけだ。

 さらに、小林には刺激を受けている2人の“同級生”もいる。FC東京U-18でレギュラーを務め、U-17日本代表候補にも選出されているMF佐藤龍之介(2年)とFW山口太陽(2年)は、中学生時代の3年間を一緒に過ごした大事な戦友だ。

「太陽以上に凄いフォワードはなかなかいないと思いますし、龍之介以上に凄いボランチというのも同年代でなかなかいないですし、彼らを見られたことで、誰と対戦しても彼らよりは怖くないという想いになれるというか、その2人から受けた刺激も今の自分自身の糧にしていますね。もちろんSNSでも活躍は見ていますし、『いいなあ』と思う気持ちや、尊敬する気持ちはありつつも、『負けてられないな』という向上心を凄くかき立てられています」。

 “先輩”や“同級生”も含め、今まで自分に関わってきてくれた多くの人への感謝を形にする意味でも、全国大会は格好の恩返しの舞台だと言えるかもしれない。小林の目線も、少しずつそこに向かいつつある。

「まずは自分のステップアップとしていろいろ経験したいですし、学校を背負って戦っているということも忘れずに、あとは地元で応援してくれる友達もいますし、今日も両親が応援しに来てくれていたので、自分の後ろにはそういう人たちの想いがあるということをしっかり受け止めて、全国でも戦っていきたいなと思います」。

 想いを背負える帝京長岡の2年生守護神。その戦う舞台が全国に変わっても、静かに、だが、とびきりの熱量を携えた小林の闘志あふれるプレーは、必ずチームを救ってくれるに違いない。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

TOP