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「ともに全力で」掴み取った全国舞台は大きな勲章。初戦敗退の今治東が感じた現在と進むべき未来

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今治東中等教育学校は奮戦及ばず。(写真協力=高校サッカー年鑑)

[12.29 選手権1回戦 堀越高 2-0 今治東中等教育学校 駒沢]

「高3の子たちもほとんど引退せずに、最後までやってきたことを後輩たちがちゃんと受け取ったのかなと。夏過ぎぐらいから若いヤツらが上級生の想いを受け継いで、感じて、上級生と下級生の力が1つとなったことは良かったのかなと思います。『ともに全力で』というテーマは、ウチの今年のチームにとっては、まさにそのままの通りの1年間だったと思うので、また頑張ります」。

 谷謙吾監督はきっぱりとこう言い切った。みんなで一丸となって『ともに全力で』進んできた2023年の今治東中等教育学校(愛媛)は、最後に冬の全国の舞台を経験するまでに、大きな成長を遂げてきたのだ。


 1つ目の“アクシデント”は開始早々に訪れる。堀越高(東京A)と激突した、2年ぶりとなる選手権の初戦。ほとんどファーストプレーで相手と接触したMF安部日々輝(2年)が左足を傷めてしまい、わずか5分でMF田坂晃雅(3年)との交代を余儀なくされる。

「個人的に交代のところは、ある程度控えの子たちで『この子が動けなくなったら』という対応はできていたと思うんですけど、安部は攻守で効く選手で、特に守備の部分が良かったので、ウチとしては痛かったですね」(谷監督)。この時間帯でのボランチの交代が、想定外だったことは言うまでもない。

 それでも、今治東は積極的なフィニッシュを作り出す。10分には左サイドからFW高瀨一光(2年)が中央へ侵入し、こぼれ球を上がってきた右ウイングバックのDF河上進次郎(3年)が枠内シュートまで。23分にも中盤でボールを拾ったFW河上塔二郎(3年)のスルーパスから、FW大荒陽平(3年)が抜け出してフィニッシュ。ここはGKのセーブに阻まれたものの、狙い通りのショートカウンターを繰り出し、エースの脅威を堀越に突き付ける。

 2つ目の“アクシデント”は後半開始早々にやってきた。5分。相手GKのシンプルなフィードが裏に抜け、背走したDF西河大陸(2年)が相手FWともつれて転倒すると、笛を吹いた主審が提示したのはレッドカード。ややアンラッキーな形で、今治東は10人での戦いを強いられる。

「もともとウチのチームはスタートが4バックなので、4-4-1にすれば何とか持ち堪えるかなとは思っていましたけど、同数でやってもなかなか堀越の技術力や速さには対応しづらかったですからね」とは谷監督。3-4-3気味の布陣から、最終ラインに右から河上進次郎、DF樋口智大(3年)、DF越智彪乃介(2年)、DF岡田瑛斗(2年)が並ぶ4-4-1にシフトしたものの、相手のサイドアタックへの対応で少しずつ後手に回る。

 2つのクロスから失点を喫し、ファイナルスコアは0-2。「アクシデントが立ち上がりのケガと退場と。ああいう状態になると、ウチの選手層のことを考えたらいろいろプランも変わってきてしまうので、ウチとしてはあの状況の試合の流れから考えたら、精一杯かなと思います」と谷監督も口にした今治東の全国挑戦は、無念の初戦敗退という結果となった。


 今年の3年生は、入学直後からコロナ禍に見舞われていた世代だ。谷監督の言葉が印象深い。「ウチの子たちは田舎の子なので、いろいろなところで若い学年から積み重ねていかないと、なかなか間に合わない部分もあるんですね。その中で、たとえば遠征がなかったり、フェスティバルがなかったりというところで、今の高3の子たちはちょっと鍛える時間が少なくて、かわいそうだったかなと思います」。

 それでもキャプテンのDF三好康介(3年)や下級生時から出場機会を掴んでいたGK井門泰誠(3年)、大荒を中心に地道なトレーニングを重ね、昨年から大半のレギュラーが入れ替わった今年のチームも、着実に成長。「選手たちもこの短いスパンで、ここに出てくるところまでよく頑張ったかなと思うので、僕としては『想像以上に間に合わせてくれたな』と思いました」と指揮官も選手たちの奮闘を称えていた。

 この日のスタメンには6人の1,2年生が名前を連ね、途中出場でも3人の下級生が全国のピッチを踏みしめた。悔しい80分間を受けて、谷監督には来年以降のチームの展望が、おぼろげながら見えてきたようだ。

「若い子たちが自信を付けて、来年、再来年と続けて全国に出てこれると、もうちょっと違った結果が見えてくるかなとは、試合をしながら思いました。今の高1、高2がある程度こういう経験値の中でできれば、この状況よりも好転していくのかなというのは、ある程度見えるような頑張りではありましたね」。

「よくここまで来たと思いますよ。でも、このレベルで勝っていくためにはいろいろなものが身に付いてこないといけないし、いろいろな強さも付いてこないといけないし、そう簡単には全国でイニシアチブを取ってやれることはないんだなと。今日はアクシデントや計算外が多かったので、ある程度は仕方なかったですけど、これを経験に、彼らの力にしてもらいたいです」。

 ピッチで、ベンチで、そしてスタンドで戦い切った31人の3年生の努力は、次の歴史を創るための大きな礎。『ともに全力で』掴み取った全国舞台での経験は、間違いなく大きな勲章。2023年を力強く駆け抜けた今治東に、大きな拍手を送りたい。

(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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