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世界の高岡封じも綿密PK戦もプラン通り…「ホテルでも勉強している」進学校・名古屋が初出場で愛知県勢8年ぶり初戦突破

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勝利を喜ぶ名古屋高の選手たち

[12.29 選手権1回戦 名古屋 1-1(PK4-2) 日章学園 オリプリ]

 創部65年で史上初の全国選手権出場を果たした名古屋高が、強力な攻撃陣を揃える日章学園高をPK戦の末に破り、歴史的な初勝利を収めた。愛知県勢としても8年ぶりの初戦突破。山田武久監督は「一つの重責は全うしたのかなと思う。ここからどこまで伸ばせるかは私自身も非常に楽しみに感じています」と喜びを語った。

「7年連続の初戦敗退ということで我々がそこに一矢報えないかという思いでゲームプランもしっかり練って、コーチとしっかり話をしながら、相手の分析も踏まえて、プラン通りに選手がやってくれたと思う」(山田監督)

 指揮官の言葉どおり、綿密な試合運びが光った勝利だった。前半7分に先制点を献上したのは計算外だったが、その後はスムーズに守備戦術を調整。立ち上がりはハイプレス気味に入ったものの、次第にミドルゾーンのブロックで相手のビルドアップを阻むようになり、ほとんど前線にボールを入れさせない守備が効いていた。

「前から行くのか、リトリートするのかというところもかなり綿密に話をしてきて、立ち上がりは前から行った。その反面、スペースができてしまうので、走らせない守備というところでミーティングでも徹底して話していた。来る前にもそのトレーニングをしてきた」(山田監督)

 また世界的タレントでもある相手キーマン対策も万全だった。今秋のU-17W杯で4ゴールを挙げた日章学園高エースのFW高岡伶颯(2年)に対し、常に複数人で対応。前半17分にクロスから決定的なヘディングシュートを放たれたものの、その後はDF足立遼馬(3年、DF井上款斗(2年)のCBコンビが常に立ちはだかり、ボランチのMF田中響貴主将(3年)、MF川瀬陸(2年)と協力しながら仕事をさせなかった。

「彼はスピードがかなりあるので1対1のスピードではとてもじゃないけど勝てない。2対1を常に作り続けて、前から挟み込んで2枚で取ろうというプラン。田中キャプテンが前にも行って、後ろにも行って、攻守によく走ったんじゃないかと思う」。そう振り返った指揮官は「U-17日本代表に対し、うちのディフェンスがそれ以上の成果でやってくれた」と選手たちを称えた。

 またビハインドを取り返した前半23分の同点ゴールは1年間かけて磨き上げてきた名古屋の武器だった。DF月岡陸斗(3年)の飛距離のあるロングスローに足立が合わせた形について、山田監督は「(月岡のロングスローは)ファーポストまで飛んでいたので、相手もどこまで飛ぶかを想定していなかったと思う」「(足立は)ヘディングでもほぼ負けていなかった」と賛辞を惜しまなかった。

 後半は相手が3-4-3にシステムを変えてきたが、こちらもプランどおりに対応した。「3バックを2トップで追って、サイドはちょっと潰れる形になったけど、そのぶんゴール前を割らせないように」(山田監督)。

 FW小川怜起(3年)とFW仲井蓮人(3年)の2トップ、MF原康介(3年)とMF田邉圭佑(3年)の献身性を活かしつつ、最終盤の守勢にも「押し込まれたけど想定どおり。最後に体を張ってゴールを割らせないということを徹底的にトレーニングしてきたので、それが形になったんじゃないか」(山田監督)と崩れなかった。

 PK戦にもしっかりと備えていた。「本当に練習を重ねてきて、自信を持って蹴り込むように、本数もそうだけど、あとは間合い。相手のGKと自分とということで自分のペースに持っていけるような時間の取り方も、いろんな先輩の教えもあって研究しながらやってきた」(山田監督)。キッカーは4人全員が冷静に決め、GK小林航大(3年)が2本をストップ。山田監督は「相手の情報は全くなかったので彼を信じるしかなかった。読みどおりに2発を止めてくれたのは本当にすごい」と目を見張った。

 こうした歴史的初白星の背景には、夏の敗戦後に決断した戦術変更があった。例年の名古屋はアグレッシブにパスをつないで前進するポゼッション志向が色濃かったが、今回の選手権に向けては武器のセットプレーを活かした堅守速攻スタイルに路線変更。舵を切ったきっかけは選手からの提案だったという。

「このチームは能力も高いし、去年から出ている子たちも多かったので、本当に行けるかなと思っていた矢先、新人戦でも県の1回戦で負け、インターハイもベスト16で負け、このまま行くと選手権も同じような形で負けると、我々もそうだけど、選手たちも負けたくないという思いが強くなって、勝ちにこだわろうというところでスタッフも選手も一致団結してこの形になった。選手のミーティングがインターハイ後に行われて、どんな負け方が嫌かを聞いたら、ポゼッションしていても負けていくのが嫌だという話になった。裏抜けや相手をひっくり返すことをやっていこうという案が選手から出た」(山田監督)

 3年生は例年よりも少ない9人を除き、夏で高校サッカーを引退したが、残った選手が覚悟を持って新たなトライに取り組んできた。その姿勢に1〜2年生も刺激を受け、成長を続けてきた。指揮官は「下級生の成長が本当に著しく、そこが県を突破したり、今日も勝てたり、下級生のレベルアップが大きい」とその頑張りを誇った。

 その一方、残った3年生にとって初戦突破は“嬉しい悲鳴”ともなった。9人のうち3人は国立大志望で、他の3人も私立大受験のため大学入学共通テストを受験予定。1月14・15日の本番に向けて受験勉強を続けながら、高校サッカー生活最後の大会を戦う形となっている。

 それでも指揮官はサラリと話す。「名古屋大学を目指している子、筑波大学を目指している子にとっては共通テストが近づいていて、ホテルでも彼らは勉強をしている。ただそもそも文武両道の学校なので、そこはブレずにいきたいなと思います」。両立は覚悟の上。強敵撃破で鮮烈なデビュー戦を飾った初出場校は“らしく”進撃を続けるつもりだ。

(取材・文 竹内達也)

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竹内達也
Text by 竹内達也

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