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[MOM4586]堀越FW伊藤蒼太(3年)_繰り出した「スペシウム光線」は感謝の証。キレキレ系ドリブラーがダイビングヘッドで全国初ゴール!

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堀越高MF伊藤蒼太(3年=東京ヴェルディジュニアユース出身、右)は中村健太と「スペシウム光線」を繰り出す!(写真協力=高校サッカー年鑑)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.29 選手権1回戦 堀越高 2-0 今治東中等教育学校 駒沢]

 ようやく掴んだ全国大会のスタメン。絶対に結果を出してやると誓って、ピッチへと飛び出した。今までお世話になった方々のために。3年間をともにしてきた仲間のために。そして、激しいポジション争いを繰り広げている、1つ年下のライバルのために。

「選手権が始まる前にも、小学校の時のチームの監督だったり、いろいろな人から応援のメッセージをもらっていて、そういう人たちに『結果で恩返ししたいな』ということはずっと思っていたことなので、こういう大舞台で点が獲れたことは凄く嬉しいです」。

 2年ぶりに冬の全国へ帰ってきた堀越高(東京A)の左サイドを任されたアタッカー。FW伊藤蒼太(3年=東京ヴェルディジュニアユース出身)が挙げたゴールには、支えてくれる多くの人への感謝の想いが詰まっていた。


 東京を勝ち抜いた今大会の予選では、決して思うような出場機会を得られてきたわけではない。チームが大一番と位置付けて臨んだ準々決勝の駒澤大高戦。伊藤はベンチからピッチで躍動するチームの勝利を見守った。

 準決勝こそスタメンに返り咲いたものの、決勝では再びベンチスタートに。途中出場で少なくないチャンスを演出するも、5人目で登場したPK戦では、決めれば勝利というキックをGKに止められてしまう。直後に相手のキック失敗で全国切符こそ勝ち獲ったものの、伊藤の中に割り切れない想いがあったことは想像に難くない。

 左ウイングの定位置を争うのは、2年生のFW小泉翔汰。もちろんライバルではあるが、試合に出る時の嬉しさも、試合に出られない時の悔しさも知っているからこそ、ある意味で同志のような感覚も抱いている。

「小泉とはどっちが出ても良いプレーができるということはお互いにわかっていることで、自分がスタメンを外れれば悔しい思いは当然ありますけど、全力で小泉をサポートしたいと思っていますし、良い関係ができているなと自分では思っています。自分が出たら小泉の分まで結果を残したいですし、自分がもし出られなくても、小泉が結果を残してくれたら嬉しいんですよね」。

 迎えた全国大会の初戦。今治東中等教育学校(愛媛)との一戦で、スタメンリストに名前を書き込まれた伊藤は、1つ年下のライバルの気持ちも背負って、綺麗な緑の芝生へと歩みを進めていく。


「前半は相手が5枚でブロックを敷いてきていたので、なかなか自分たちもゴールに迫るシーンを作れなくて、どうなるのかなと思っていました」。試合が始まると、5バック気味の布陣を組んだ相手を前に、サイドのスペースも埋められていたため、伊藤もなかなか得意のドリブル突破を繰り出せない。

 だが、後半開始早々に退場者を出した相手が10人になると、ようやく持ち味を発揮できるような状況が整い始める。「前半はウイングバックの選手を抜いても、センターバックの選手のカバーがすぐ来ていたんですけど、後半は自分の思うとおりにボールが持てたのかなと思います」。チームも、自身も、攻撃のリズムを掴んでいく。

 1点をリードして迎えた後半24分。右サイドをFW中村健太(3年)が突破すると、逆サイドを走っていた伊藤は、中央の状況を冷静に見極めていた。「健太が縦突破した時に、ヘディングの強い高谷(遼太)が相手のディフェンダーの注意をそこで引いてくれて、僕はフリーになったので、ボールが来ることを信じて入り込みました」。

 中村の上げたクロスは、ニアで潰れたFW高谷遼太(3年)を越えて、自分の目の前に飛んできた。丁寧に、確実に。ダイビングヘッドで合わせたボールは、GKの手を弾いて、ゴールネットへと突き刺さる。

 もうゴールパフォーマンスは決めていた。「関東大会やインターハイではスタメンで使ってもらって、その時は結構点も獲れていたのでやっていたパフォーマンスなんですけど、後期はなかなか得点も獲れずに、できていなかったパフォーマンスなので、ここで出せて良かったなと思います」。

「アレはウルトラマンのスペシウム光線です。関東大会の時も僕があのパフォーマンスをやっていた時に、健太と高谷が横に来て、そういうパフォーマンスをやったんですけど、今日は健太のアシストだったので、まあ僕に乗っかっても許します(笑)」。パフォーマンスは今まで支えてきてくれた人たちへの感謝の証。中村と並んで発した“スペシウム光線”に込めた想いは、きっとみんなの心に届いたことだろう。


「やっぱり予選もなかなか出られない中で、焦れずに自分のやるべきことをやってこられたというのは、本当に自分の力になったなと思っています」。その1つの結晶として、全国での勝利を引き寄せるゴールは記録した。だが、まだまだ大会は続く。まだまだこの仲間との冒険を続けたい。

「初芝橋本はセットプレーが強いと聞いていて、そういう相手とやる時は、先制点が大事だと思いますし、自分がその先制点を獲りたい気持ちも強くあるので、次も点を決められるようにやっていきたいです。もう行けるところまでは全力でやっていきたいと思っています」。

 堀越の左サイドで躍動するナンバー11。73人の部員を代表して試合に出る意味を誰よりもよく知る伊藤は、きっとここからやってくる試合でも、その軽やかなプレーと“スペシウム光線”で、チームの行く先を明るく照らしてくれるはずだ。



(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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