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キャプテンと13番の重圧を背負い続けた1年間。神村学園FW西丸道人はすべての経験を誇りに、仙台の地からさらに大きく羽ばたく!

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神村学園高を牽引してきたキャプテン、FW西丸道人(3年=神村学園中出身)

[1.4 選手権準々決勝 神村学園高 3-4 近江高 浦和駒場]

 重圧を一手に引き受ける覚悟なんて、とっくに決まっていた。自分以外に背負えるヤツはいないんだと、自分自身に言い聞かせて、この1年間はとにかく突っ走ってきた。望んだ結果には辿り着けなかったかもしれないけれど、貫いてきたものは間違いじゃなかったと、今なら胸を張って言い切れる。

「最初はやっぱりキツかったですし、『自分にはできないな』というふうに考えて、何度かキャプテンを変わりたいという気持ちもありましたけど、やっぱりチームが勝った時には『みんなの先頭に立てているんだな』と感じることができて、幸せな時間も多く味わいましたし、今日は負けましたけど、こんなに良い選手たちがいるチームの中で、こうやって最後までやり切れたことは本当に誇りに思いますし、僕に託してくれたチームメイトには本当に感謝しかないですね」。

 大迫塁から託されたキャプテンと、福田師王から引き継いだ13番の後継者。2023年の神村学園高(鹿児島)を逞しく牽引してきた、胆大心小のストライカー。仙台内定FW西丸道人(3年=神村学園中出身)は少しだけの後悔と、纏ってきた大きな誇りを携えて、杜の都からさらなる飛躍を期す。


 高校最後の選手権。勝ち進んでいくチームとは対照的に、自身の結果が付いてこない。「最後の大会ということもあるので、チームのために自分が頑張る姿を体現するところは力強くやってきました」と話す西丸は、常に攻守に献身的なプレーを続けていたが、それがなかなかゴールという明確な形で結実しなかった。

 去年も経験した国立競技場への帰還を懸けて、準々決勝で対峙した相手は近江高(滋賀)。強豪をなぎ倒してきた勢いのあるチームを前に、神村学園は前半12分に先制点を献上。1点を追い掛ける展開を強いられたが、この窮地にようやく13番のストライカーが、一番仕事をするべき場所で輝きを放つ。

 18分。高い位置で持ち前のフィジカルを生かしてボールを収めた西丸は、素早く右へ展開。そのままエリア内へ走り込むと、DF有馬康汰(3年)から絶妙のクロスが入ってくる。「康汰が顔を上げた瞬間にスペースがあって、動き直してゴール前に入ったら良いボールが来たので、もう当てるだけでした」。

 頭で合わせたボールは、鮮やかにゴールネットへ弾み込む。とうとう生まれた今大会初得点。「ゴールが出ないことにちょっと焦りを感じていたので、嬉しい気持ちはありましたけど、まだ同点ゴールだったので、この勢いのまま、2点、3点行こうという気持ちが強かったです」。笑顔を浮かべたのは一瞬。すぐさまチームメイトを強い口調で鼓舞する。


 試合は激闘の様相を呈していく。いったんは神村学園が逆転したものの、近江もすかさず同点弾をゲット。神村学園がまたも突き放せば、近江も粘り強く追い付いてみせる。

「自分としてはフィジカル的な部分で前半から圧倒できていたので、パスさえ来れば相手の身体を抑えて1対1で行けるんじゃないかという自信があって、残る判断をしました」という西丸は、チームメイトを信じて前線でボールを待ち続ける。

 だが、サッカーの女神は近江に微笑みかける。後半アディショナルタイムも4分台に差し掛かったころ、サイドアタックから4点目となる勝ち越しゴール。それから程なくしてタイムアップのホイッスルが鳴り響くと、“13番のキャプテン”はグラウンドに突っ伏したまま、しばらく動けない。

「一番は悔しい気持ちが大きいですね。自分としてもチームを勝たせられなかったですし、去年負けてから1年間の目標にしてきた国立のステージに辿り着くことができなかったことにも、自分への力不足と不甲斐なさを感じて、悔しい思いでいっぱいでした」。ようやく立ち上がり、整列を終えると、応援団の元へと歩き出す。両目を赤くさせた西丸は、このチームでのチャレンジが終わってしまったことを少しずつ実感しながら、ロッカールームへと消えていった。



 抱え続けたエースでキャプテンという重圧は、並大抵のものではなかった。シーズン序盤の西丸は、プレミアリーグでも開幕から7試合連続得点という驚異的な数字を残し、チームも好調をキープ。インターハイの全国切符も手にするなど、悪くない時間を過ごしていく。

 ただ、旭川に乗り込んだインターハイはまさかの初戦敗退。以降のリーグ戦でもU-17日本代表の活動でDF吉永夢希(3年)とMF名和田我空(2年)が欠場する試合も多く、前半戦の好調ぶりと合わせてよりマークが厳しくなった西丸も、そのスタイルの対策を進められたチームも、結果の出ない時期を長く強いられる。

「かなりキツかったですし、人生の中でも一番と言っていいぐらい挫折を感じた時期でもありました。本当に初めてサッカーをやめたくなるような感じだったので、自分としても『ここからどうなっちゃうんだろう……』と思っていましたね」。

 ただ、キャプテンは現実から逃げなかった。リーグ戦では7試合も未勝利が続き、残留争いへと巻き込まれることに。自身もその間は1ゴールも奪えなかったが、それでもとにかくやるべきことをやり続けた。何とか勝てば残留という状況まで漕ぎつけた、11月末のアウェイゲーム。履正社高相手に西丸は、実に9試合ぶりの得点を記録し、チームの勝利に結果で貢献する。

「ここはチームを救わないといけない気持ちがあったので、それが自分のゴールでしっかり形になって良かったですし、みんなで勝利の喜びを分かち合えて良かったです」。束の間とはいえ、大きなプレッシャーから解放されたような、試合後の表情が印象的だった。


 想像以上の重責を担ってきたことで、確かな自身の成長も感じているという。「簡単な役割ではなかったですけど、その分期待してもらっていたということだと思いますし、もちろん結果で恩返ししたかったですけど、今改めて『キャプテンは自分しかいなかったんじゃないかな』と感じることができたので、そこには誇りを持っています。本当に苦しい時期もありましたけど、個人の成長にフォーカスすると、良い経験だったと思います」。

 1月からはベガルタ仙台の一員となり、プロサッカー選手の日常が幕を開ける。厳しい世界なのは百も承知。それでも、この神村学園で学んだものを生かして、もっと広い大空へと力強く羽ばたいてみせる。

「将来はA代表に入って、その中心選手としてやっていきたいと思っていますけど、それも簡単じゃないことはわかっていますし、まずはJリーグで活躍して、徐々にステップアップしていきたいと思っているので、ベガルタの選手としてしっかり結果を残していきたいと思います」。

 背負い続けた重圧は、すべて未来への糧になる。勇気と献身を兼ね備えた胆大心小のストライカー。西丸道人がゴールという結果で切り拓いていく、ここからのサッカーキャリアに幸多からんことを。



(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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