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走り合い上等!湖国が誇る疾風怒濤の10番。近江DF金山耀太が最終盤でも踏み込み続けた縦突破のアクセル

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近江高の10番でキャプテン、DF金山耀太(3年=シーガル広島ジュニアユース出身)

[1.4 選手権準々決勝 神村学園高 3-4 近江高 浦和駒場]

 もうすっかり楽しくなっていた。攻撃のたびに沸き上がるスタジアムの雰囲気も、強豪とやり合えている試合展開も、走り切れている自分のパフォーマンスも、とにかく楽しすぎる。ボールよ、来い。オレにパスを出せ。そうすれば、いくらでもサイドをぶっちぎってやるから。

「その前に何度かサイドバックと前向きで1対1をした時に、縦に行った感覚として『スピードでは負けないな』というイメージがあったので、あそこはだいぶサイドバックと距離がありましたけど、『絶対勝てる!』と思って仕掛けました」。

 それはほとんどラストプレーだった。3-3で迎えた後半40+3分。左サイドでボールを受けると、近江高(滋賀)の10番を託されているDF金山耀太(3年=シーガル広島ジュニアユース出身)はそれまで以上のスピードで、縦にアクセルを踏み込む……


 掲げ続けてきた目標の国立競技場まで、あと1勝に迫ったクォーターファイナル。優勝候補の一角を占める神村学園高(鹿児島)との一戦は、前半12分にMF鵜戸瑛士(3年)のゴールで先制した近江が好リズムで立ち上がったものの、そこから2点を返されて逆転を許す。

 迎えたハーフタイム。情熱の指揮官、前田高孝監督から“喝”が入る。「『セカンドを拾われ過ぎだぞ』と。それに荒砂(洋仁)がケガで交代してしまったので、『そういう人の分まで気持ちを背負ってやらないといけないんじゃないか』という話をしてもらって、後半に入りました」。金山はその10分間のことを、こう振り返る。

 今大会の自分のパフォーマンスには、まるで納得がいっていなかった。「2回戦と3回戦では自分の良さを出せなくて、チームの足を引っ張っていて、迷惑をかけていた部分がありましたね」。持ち味の攻撃面で良さを出し切れない。それはこの日の前半もそうだ。10番の心は、依然としてくすぶっていた。

 後半に入ると13分に追い付いたものの、その2分後にはまたもや失点を喫し、スコアは2-3に。ただ、前田監督が振るった1つの采配で試合の潮目が変わる。金山を3バックの左センターバックから、左のウイングバックへとスライドさせ、システムも3-4-2-1から3-3-2-2気味にシフト。改めてチームに攻撃的な姿勢を注入し直す。

 近江が攻めるたびに、スタンドが盛り上がる。ホットエリアは左サイド。「本当にこのスタジアムの雰囲気が楽しかったですね」と振り返る10番は、ひたすら縦突破を繰り返す。26分。ここも金山が左サイドをぶっちぎり、中央へクロス。この決定機は相手の好守に阻まれたが、その流れで獲得したCKから同点ゴールが生まれる。

「最初から神村さんをゼロで抑えるのが難しいことはわかっていたので、1点獲られたら2点獲るし、2点獲られたら3点獲るし、3点獲られたら4点獲るし、『最初からやるで』『殴り合うで』と言って入っていたので、選手らも想定していたと思います」(前田監督)。殴り合い上等。3-3。湖国の海賊が全国8強の舞台で躍動する。

 もう走り負ける気はしない。「走りのトレーニングは本当にキツかったですけど、こういう舞台で最後まで走るためにやっているんだと、それぞれが思いながらやってきました」と話す金山の感覚は研ぎ澄まされていく。

 それはほとんどラストプレーだった。後半40+3分。左サイドでボールを受けると、金山はそれまで以上のスピードで、縦にアクセルを踏み込む。一瞬でマーカーを引きちぎって上げ切ったクロスから、最後は鵜戸のシュートがゴールネットへ突き刺さる。

「最後のゴールも自分が突破してからのクロスだったので、こうやってこの舞台で自分の良さを少しずつ出せたのは嬉しかったですし、僕も凄く楽しませてもらいました」。10番のキャプテンがようやく持ち味を存分に発揮し、チームは凄まじい打ち合いを制して、逞しく全国4強を手繰り寄せた。


 今大会で競り勝ってきたのは、インターハイ4強の日大藤沢高、インターハイ王者の明秀日立高、そして、前年度選手権ベスト4の神村学園。難敵ばかりをなぎ倒してきたが、近江の選手たちは臆することなく対峙し、堂々とここまで勝ち上がってきた。

「たぶん世間からしたらジャイアントキリングだとか、番狂わせだとか思われるんですけど、今年の自分たちはちゃんとやるべきことをやってきた自負がありますし、プリンスリーグ関西で積み上げてきたものがあって、『絶対に相手に劣ることはない』と思ってやってきたので、そこで勝ち切れて良かったなと思います」。

 金山が言葉に力を込める。今シーズンの近江はガンバ大阪ユースやセレッソ大阪U-18といったJユース勢に加え、興國高や東山高のような強豪校を抑え、プリンスリーグ関西1部で2位に入っている。ハイレベルな日常は、気付けば自分たちが思っていた以上に、成長を促してくれていたというわけだ。

 準決勝の舞台は国立競技場。ここで戦うために、3年間努力を重ねてきた。「本当に先を見ずに、この一戦、この一戦とやってきたので、まだイメージできないというか、実感が湧いていないですけど、今この時間から次に向けて良いイメージを持ちながら、良い準備をしていきたいかなと思っています」。

 きっと準備は万端だ。打ち合い上等。殴り合い上等。どこまででも走り続けてやる。近江の10番を託された、無尽蔵のスタミナと抜群のスピードを兼ね備えたキャプテン。金山という名の疾風は、そこが聖地の左サイドであっても、圧倒的な突破力で切り裂いていくに違いない。



(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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