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引き分けを指示した佐々木監督、「選手につらい思いをさせた」

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[7.31 ロンドン五輪F組 日本0-0南アフリカ カーディフ]

 試合後の記者会見、日本女子代表(なでしこジャパン)の佐々木則夫監督は席につくなり、「つるし上げられそうで」と苦笑いしながら言った。28日のスウェーデン戦(0-0)後には“2位狙い”を否定した指揮官だったが、結果は目論見どおりのスコアレスドロー。F組2位で準々決勝に駒を進めた。

「次への準備をまず考えた」。重視したのは対戦相手ではなく、試合会場だった。F組を首位で通過した場合、8月3日の準々決勝の相手は直前の親善試合で0-2の完敗を喫したフランスが濃厚となっていたが、「とにかく相手はどこでもよかった」と言う。1位通過の場合、準々決勝の会場は英国北部のグラスゴー。しかし、2位通過ならこの日と同じ英国南部のカーディフでできる。

「移動があると、グラスゴーまで丸1日かかる。一度、ヒースロー(空港)に行く必要があり、約8時間かかる。次の準備として何がいいか。それはここ(カーディフ)に残ることだった」

 試合開始から引き分けを狙っていたわけではないと、佐々木監督は強調する。「普通にやりながら後半途中の経過次第でドローも狙おうとスタートした」。しかし、前半を0-0のまま折り返し、スウェーデン対カナダの試合ではスウェーデンが2-1でリードしていた。もしもカナダが追いついて引き分けに終わった場合、もし日本が点を取って勝つと、日本はスウェーデンを抜いて首位になる。

 後半13分、FW岩渕真奈に代えてMF川澄奈穂美を投入した際には「向こうが2-1なのでどうなるか分からない。申し訳ないけど、カットインしての素晴らしいシュートはやめてくれ」と指示を出したという。そして、実際にカナダは後半38分に追いついた。向こうは2-2。日本は点を取れば首位、失点すれば3位になる。このまま0-0で終わらせる。ここでベンチから「引き分けで終われ」という明確な指示が飛んだ。

「(スウェーデン対カナダが)2-2になった瞬間は『全員でポゼッションしてくれ』と指示を出した」。すでに後半32分にはMF宮間あやに代わってMF阪口夢穂がピッチに入っていたが、「宮間は次もあるし、疲労を考慮した。阪口と田中中心でボールを動かしてほしいと」。後半ロスタイムにはFW丸山桂里奈に代えてFW大儀見優季を投入。「くさびを受けるところでボールを取られてカウンターを受けるとまずい。それに、何かあって点を取られたときに点を取り返す役目があると大儀見には伝えた」。終盤は完全なる0-0狙い。選手たちは黙々とベンチの指示に従った。

「引き分け狙いという選手にはつらい思いをさせたかもしれない。過去にない指示どおりにやってくれた」。そう選手をかばう佐々木監督はファンへの謝罪の言葉も口にした。「テレビで応援してくれる人たち、試合を見ている少年少女にサッカーのスペクタクルさを見せるという意味では、申し訳なかった。それは僕の責任。選手に指示してやらせたのは僕」と神妙に語った。

 グループリーグでの1勝を放棄してまで手にした2位通過。「次にスペクタクルないい試合を見せる。選手にいいパフォーマンスを出させることでお返ししたい。ここ(カーディフ)での準々決勝に何が何でも勝たせて、ベスト4に行く。それに尽きる」。すべては金メダルを取るために――。準々決勝での敗退は絶対に許されない。

(取材・文 西山紘平)

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