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骨折乗り越え磨いたキック、左右両足FK弾に田中陽「自分でもビックリ」

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[8.26 U-20女子W杯A組 日本4-0スイス 国立]

 国立に駆けつけた1万6914人の観衆の度肝を抜いた。U-20日本女子代表(ヤングなでしこ)のMF田中陽子が左右両足で直接FKを決める2ゴール。1試合で左右両足によるFK弾は初めてと言い、「自分でもビックリしました」と白い歯をこぼした。

 前半30分、正面左寄りの位置からのFK。ポイントには田中陽とFW横山久美が立った。ベンチの吉田弘監督からは「横山が蹴れ」という声が飛んだが、「指示は聞こえなかった」と自ら蹴った。「最初は左足で蹴ろうと思ったけど、右で蹴れば入りそうだなと思って逆に回った。緊張せず、力を入れずに狙いどおりに蹴れた」。右足から放たれたキックは壁の上を越え、ゴール左上隅に吸い込まれた。後半2分には正面右寄りで自らFKを獲得。今度は左足だ。「壁を越えれば、あのGKの位置なら入ると思った」。鮮やかにゴール右上隅へ突き刺し、2-0とリードを広げた。

 左右両足を難なく使いこなす田中陽だが、これほど高い精度を誇るまでになるには、たゆまぬ努力があった。中学3年の15歳だった08年秋、飛び級でU-17女子W杯に出場。「ドリブルからのシュートがコロコロで、しょぼくて。そこさえよければ入るのにというシュートもあった。『コロコロシュート』とよく言われていたし、下手くそだった」と苦笑いしながら振り返る。「世界で初めて戦って、何が通用しないか、そこで分かって練習した」。足元のテクニックだけでなく、キックやシュートに必死に取り組み、2年後に開催されたU-17女子W杯ではミドルシュートを含め4ゴールを記録した。

 高校1年だった09年春には左足第5中足骨を疲労骨折。「左足で踏ん張るのが難しくなって、そこから右足を軸に(左足のキックを)練習した。質を少しでも高めようと、とにかく蹴った」。左右両足の精度が高くなったのは“ケガの功名”でもあったが、その根本にあるのは負けん気の強さだ。「自分の性格的に一つだけではイヤ。いろいろできた方が楽しいし、プレーを楽しくするために練習した」。単純にキックの練習だけをしていればいいわけではない。左右どちらでも蹴るには重心や体幹など体全体のバランスも大事になる。「体の使い方はキックにとって大切。毎日毎日キックの練習をしながら筋トレでも意識してやっている」と、今なお努力は続いている。

 プレースキックへのこだわりは、JFAアカデミー福島時代に福島・Jヴィレッジで行われていた日本代表合宿を見学したことがきっかけだった。「(中村)俊輔選手のキックを見てビックリして。それを真似して練習していた」という。

「こんな大観衆の前で初めてプレーした。しかも国立で。声援が後押ししてくれたし、楽しくプレーできた」。そう笑顔で振り返った田中陽。初のベスト4進出を懸けた30日の準決勝では韓国と対戦する。10年のU-17女子W杯決勝でPK戦の末、敗れた因縁の相手。「挑戦者として臨みたい。国立での日韓戦は特別だし、絶対に勝ちたい。どういう形でもいいから勝ちたい」と、力強く誓っていた。

(取材・文 西山紘平)

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