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勝てばW杯、負ければ解散の一発勝負にも自信…U-20日本代表が遂行した“予測”と“信頼”の後半勝負プラン

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勝利を手にしたU-20日本代表

「俺はすごーく冷静だった。ウォーミングアップしている選手の表情を観ていたら、自然と自信を持てたんだよね」

 U-20日本代表・冨樫剛一監督は、そう言って笑顔を浮かべた。AFC U20アジアカップ準々決勝。世界切符を懸けての一大決戦で、負ければチーム解散となるゲームだったにもかかわらず、「全然ドキドキしなかった」と言う。

 試合前、選手たちに強調したのは「心」である。

「技術や戦術では僕たちが上回っていると思っていたけれど、『心』で上回れないとそんな優位は簡単になくなってしまう。だから、ものすごく『心』の部分は強調した」(冨樫監督)

 その上で「先に失点さえしなければ、90分で絶対に勝てると思っていた」という指揮官のプランを平たく言えば、「後半勝負」ということになる。これは「相手は後半に落ちてくる」という過去のデータから導き出した予測と、「自分たちは交代選手で上げていける」という選手たちへの信頼から導き出したゲームプランだった。

 加えて、もう一つ慎重に試合へ入る要素が加わってきた。「雨」である。朝から降り続いた雨は、ただでさえ厳しいピッチコンディションをさらに悪化させていた。水たまりもできており、セーフティーにやることを徹底する必要があった。ピッチの「水たまりマップ」を作って、狙いどころか危険な場所を事前に共有していた。

 ただ、実際にやってみた上で「意外にいけます」というリアクションもあり、最終的にはピッチ上の選手たちの肌感覚を尊重。1次予選で水浸しのピッチに大苦戦するという経験を経ている選手が多かったこともあって柔軟に対応。さらに「後半に攻め入る陣地のほうが水が溜まっていなかった」(DF田中隼人=柏レイソル)ことも、後半勝負を加速させる要素となった。

 そして実際に後半勝負の狙いが実り、FW坂本一彩(ファジアーノ岡山)の先制点、そして交代出場のFW熊田直紀(FC東京)の追加点が生まれ、一気に日本へ流れが傾いていく。

 2-0のスコアは逆に試合運びが難しいとも言われるが、日本の選手たちに迷いはない。「ここはブロック敷こう」「行かないでいい」とピッチ内で声を掛け合い、2-0のスコアで逃げ切る方向で意思統一。ブレなく試合を運んでいった。

「1点目を決めたあとは点をとられないようにしつつ、なおかつ守勢に回り過ぎないことを意識した。2点目が決まったので、しっかりブロックを敷いて無失点で終わることにした」(MF松木玖生=FC東京)

 削られた選手に「ちょっと倒れておいて」と声がかかって時間を使ってリズムを整えるなど、老練さすら感じさせる試合運びを見せると、ベンチも大型DF高井幸大(川崎フロンターレ)の投入など、そんな流れを後押しする用兵でサポート。GK木村凌也(日大)も難しいピッチ状態で濡れたボールを冷静にさばいて隙を作らず、そのまま試合終了。プラン通りに試合を進めた完勝だった。

「本当に選手たちの成長を感じた。クールにやってくれた」

 そう笑顔を見せた指揮官は、「でもここが彼らの目指すところではないので」とも強調する。掲げている目標は「アジアチャンピオンとしてU-20W杯へ行き、そこでも一番になること」(田中)だ。

 あと2試合、「目標はここ(世界大会出場権)じゃない。全員が優勝を目指してやっている」(松木)。

(取材・文 川端暁彦)
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