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アジア杯“史上初の女性”で注目集まる山下良美主審、歴史的一歩は未来のために「次につながっていくことが私たちの望み」

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海外メディアの取材にも次々に応じていた山下良美主審

 アジアサッカー連盟(AFC)は12日開幕のアジアカップに向けて、大会審判員のトレーニングセッションを毎朝開催している。大会を通じてレフェリング基準を統一するため、各審判員は10分間の模擬試合をさばき、大会側のフィードバックを受ける。10日にはその模様が報道陣に公開され、史上初の女性主審としてアジア杯に参加する山下良美主審のセットが笛を吹いていた。

 この日のセッションを担当したのは山下主審の他、坊薗真琴副審、手代木直美副審のトリオ。昨年夏の女子W杯でも試合を担当し、世界有数の女性審判員チームとして評価されている中、今大会でも唯一の女性セットとなる。また本大会と同様にVARも採用され、VARを木村博之氏、AVARを飯田淳平氏が担当。近年の国際大会では珍しく、全員日本人のチームで大会に備えている。

 セッションでは地元チームが模擬試合を行い、事前に取り決められた事例を次々に実演。ギリギリのオフサイドや決定的な得点機会阻止だけでなく、ボールとは関係ないところで選手同士がもつれ合う場面や、突然最終ラインの選手が足を止めた状態でのオフサイド判定など、トップレベルの試合ではなかなか起こらない事例も演じられた。

 それでもアジア杯を控える審判員は、こうした予想外の事例にも準備している様子。終了後、報道陣の囲み取材に応じた山下主審は「ここに来るまでのセミナーでも何度も準備しているので、ここではそれを確かめる感じです」振り返ったが、動揺を見せずにVARともコミュニケーションを取り、冷静に対処していた。

 また終了後には大会側からフィードバックを受け、チームでディスカッションを実施。「あの時はこう動いたほうが良かったねという点であったり、コミュニケーションの方法もこれを確認したほうが良かったよねといったアドバイスを受けたり、それを審判員の中でも確認しながらより良いものにしようと話しています」(山下主審)。こうしたセッションを開幕までの間、何度も繰り返していくことで、大会への順応を進めているようだ。

 山下主審は一昨年末の史上初めて女性として男子W杯に参加した他、19年と昨年の女子W杯、21年の東京五輪などで数々の大会を経験してきた。歴史的一歩を刻むアジア杯でもその取り組みは「普段とは変わらない」という。

 もっともアジア杯ではチーム間のレベル差が大きく、さまざまな戦術を採用するチームがあり、個性も豊かな選手たちがいる。そのこともあってか、今大会ではそれぞれのチーム戦術などを審判員に伝える専門スタッフが配置されているそうだ。

 こうしたサポートも受けつつ、山下主審は「今回は大会の中でチームタクティクスを専門に話せる方がいらっしゃるので、そのお話も聞きながら、この大会でそれぞれのチームがどう戦うか、どんな選手がいるか、それに対してレフェリーがどう対応したほうがいいかを考えながら大会に臨めると思います」と前向きな展望を語った。

 そんな山下主審にとって今大会は、女性レフェリーの未来をモチベーションに戦う大会となる。

「女性としてレフェリー(主審)をできる可能性があるのはこの大会では私だけで、何ができるかを見せられるのは私たちだけ。次につなげていくためにも精一杯やりたいと思っています。次につながっていくことが私たちの望みなので、それが叶うように頑張りたいなと。アジアでも女性のFIFAレフェリーがまだいない国もあります。日本はもちろん、アジアでも、世界でも、こういった機会が広がっていくように、女性のレフェリーが増えていくようにというのを望んでいます」

 ハイパフォーマンスを発揮するためには、チームの存在が欠かせない。今大会にはこの日のセッションを担当した5人の審判員の他にも、荒木友輔主審、三原純副審、聳城巧副審も日本から参加。一つの国で8人の審判員を輩出しているのはもちろん最多で、5thレフェリーが配置される試合でも、同国セットで担当することが可能な唯一の国となっている。

「すごく心強いですし、リラックスしてできます。その中でも強い力が出てくるし、自信もつくのでいいなと思います」。そう率直な喜びを語った山下主審は、VARを支えるリプレイオペレーターの存在にも目を向ける。「レフェリーもそうですが、オペレーターも日本でやっている方が来てくれているので、もしみんなでセットでできたら嬉しいですね」。森保ジャパンが3大会ぶりのアジア王者奪還を目指す中、日本の審判員チームも最高級のパフォーマンスを発揮してくれるはずだ。

(取材・文 竹内達也)

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竹内達也
Text by 竹内達也

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