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先発復帰で「叩きのめす」体現したDF冨安健洋、森保Jを蘇らせた“行っていいよ”指令

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DF冨安健洋(アーセナル)

[1.24 アジア杯グループD第3節 日本 3-1 インドネシア アルトゥママ]

 鉄壁のDFリーダーとして、そしてピッチ上の指揮官として、新たな背番号22が日本代表に本来の姿を蘇らせた。足首の負傷でアジア杯に出遅れたDF冨安健洋(アーセナル)は、グループリーグ最終節で初の先発出場。相手に前を向くことすら許さない頑強な守備はもちろん、絶え間ない指示でもチームを統率し、堂々の試合運びで決勝トーナメントに導いた。

 5日前のイラク戦(●1-2)に敗れ、大一番の様相を呈したグループリーグ最終節。敗戦を機にミーティングを繰り返してきたチームの意思は明確だった。

「相手どうこうより自分たちにフォーカスすべきだなというのが2試合終わった後、チームの中であった。シンプルにやるべきことをやってないよね、だから結果も内容も伴っていないよねというところで、今日の試合も相手どうこうより自分たちにフォーカスして、自分たちが何ができるのか、何をしないといけないのかを表現する必要があった」(冨安)

 守備ラインをコンパクトに守ること、そのためには最終ラインを臆せず押し上げること、その大前提には1対1で個人のクオリティーを示す必要があること。イラク戦に敗れる前、日本代表を史上初の国際Aマッチ10連勝に導いた要素を一人一人が体現していた。

 その中心には、前日会見で「相手の勢いにのまれず、むしろ僕たちから仕掛けて叩きのめす気持ちでやりたい」と強い言葉で決意を語った冨安が君臨していた。

 この日のチームは立ち上がりから前線からのプレッシングが機能。過去2戦で目立っていた後ろ重心になるシーンがほとんど見られなかったが、試合後、インサイドハーフで先発したMF久保建英(ソシエダ)はその要因を冗談まじりに振り返った。

「今日なんかは冨安選手に行けって言われたら行かないといけないので、前の選手は疲れましたけど……(笑)」。4-2-3-1と4-1-4-1の両構えで布陣を準備していたハイプレスだったが、その手綱を握っていたのはピッチ最後尾からの指令だった。

「後ろが自信を持って前の選手に行っていいよと伝えないと、どうしてもチームとして勢いも出ないし、自信も出てこない。後ろの選手が『いいよ、行っていいよ』という声を見せないといけなかった。それをマチくん(DF町田浩樹)と一緒にしっかりやれたと思う」(冨安)

 そうした前傾姿勢を主導するからには、最終ラインに守備面での大きなリスクが伴うが、そこは冨安の見せ場。この日のインドネシアは背後へのロングボールを蹴り、クリアしたところをスピーディーに狙う形で起点を作ろうとしてきたが、それをただ阻むだけでなく、胸トラップやヘディングのパスでマイボールにし続けていた。

 そして後半立ち上がりには中盤でのボールロストが続き、攻守が入れ替わる難しい展開になったが、この流れを制したのも冨安だった。後半7分、素早いボール奪取から縦に配球してMF堂安律に預けることで、カウンターのチャンスを演出。これがFW上田綺世のゴールにつながり、追加点の起点となった。

「奪ったボールを下げないところはミーティングでも言われているところ。しっかりボールが来る前に認知していたし、そこで前につけられたことが良かったと思う」

 そう控えめに振り返った冨安は「守備と攻撃は間違いなくつながっていて、律は攻撃のクオリティーが見られがちだけど、絶対にサボらないし、守備でも正しい位置を取っている。だから攻撃でフリーになれる。それが得点につながってよかった」と堂安への賞賛のほうを雄弁に語ったが、自身の格の違いを見せつけるワンシーンだった。

 負傷明けということもあって3-0の後半37分に途中交代したが、自身の状態について「大丈夫です」と力を込めた冨安。交代後に喫したロングスロー起点の失点については「ボックス内での人への意識。いるだけじゃなくて、人数が何人いても失点につながる。そこはイラク戦の1失点目もそうだけど、ミーティングの中でも言っていく必要がある」と述べ、リーダーとしての頼もしさものぞかせた。

 第2次森保ジャパンが発足して以降、冨安がピッチに立っている間に失点したのは昨年9月のドイツ戦(○4-1)での1失点のみ。まさに最終ラインの軸として、鉄壁の守備を実現させている。それでもいまや、前線まで見渡してプレッシングを主導するピッチ上の指揮官、そしてピッチ外の議論を司るリーダーとしての役割までも果たしているように見える。

 そんな冨安だが、この日の戦いぶりは「ベースに戻ったという言い方のほうが正しい。先の2試合ではやるべきことをやっていなかったという言い方のほうが正しい」と位置付ける。そして前向きに言い切った。「ただ通過しただけじゃなく、次につながる1試合だったと思う」。アジアの頂点まで最大4試合。25歳のリーダーはさらなる高みを見据えている。

(取材・文 竹内達也)

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竹内達也
Text by 竹内達也

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