[10.29 J1第33節 川崎F 2-1 神戸 等々力]

　引き分ければ優勝の可能性はなくなっていた。勝ち点2差の首位を追いかける川崎フロンターレはヴィッセル神戸に2-1で勝利。後半39分にPKを決めたFW家長昭博は「プレッシャーしかなかった。本当に入ってよかった」と振り返った。

　前々節から条件次第では優勝の道が閉ざされていた。しかし、川崎Fは2試合を連勝で終え、首位の横浜F・マリノスはまさかの連敗。勝ち点差は「8」から「2」まで縮まった。それでも厳しい状況は変わらない。ただひとつ望みをつなぐ方法は勝つことだけ。今季最後のホーム戦で神戸を迎える。前半20分に先制も、後半6分に失点。1-1のまま試合は進んだ。

　後半35分、FW小林悠が敵陣付近でファウルを受け、FKを獲得した。だが、直後に等々力競技場がどよめく。ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)のチェックを経て、主審がモニターで確認。小林へのファウルはPA内で発生しており、判定はFKからPKに変わった。

　キッカーの位置に立ったのは家長だった。PKを外せば1-1で終了し、優勝できなくなる可能性も高い。今季の結果を大きく左右するPKだが「駆け引きはなかった」(家長)。渾身の左足シュートは相手GKに触れられるが、威力は落ちずにゴールに吸い込まれる。値千金の勝ち越しゴールはそのまま決勝点となった。

　ゴールが決まった後には、何度も地面を叩いて喜びを噛みしめた。フラッシュインタビューでは「蹴りたくなかったですけど、入ってよかったです」と淡々と語る。「プレッシャーしかなかった。本当に入ってよかった」。今季12点目のチームトップスコアラーは、安堵の表情を垣間見せた。

　苦境を乗り越え、3連勝を達成した。しかし、それでも厳しい状況は変わらない。横浜FMも他会場で勝利を収め、最終節を残して勝ち点2差は縮まらなかった。得失点差では横浜FMに大きく上回られているため、川崎Fの逆転優勝の条件は最終節で勝利し、横浜FMが負けることだけだ。「最後勝つしかなくなったのでわかりやすい。勝って優勝できることを信じて頑張ります」(家長)。背中で語る百戦錬磨の男は、一週間後の最終決戦を見据えていた。

(取材・文　石川祐介)

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