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日本サッカー界でデータ活用を進めるには…浦和とパートナー契約のStatsBombに聞いてみた

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左からテッド・クヌートソン氏(Ted Knutson)、イスマイル・タリ氏(Ismail Tari)

 今月上旬、浦和レッズとパートナーシップ契約を結び、日本国内でも注目を集めたイギリスのデータ企業『スタッツボム(StatsBomb)』社。今季のJリーグ開幕前には、同社の事業開発責任者を務めるイスマイル・タリ氏がJクラブのキャンプ地を視察するなど、日本サッカー界への参入を本格的にスタートしようとしている。

 ゲキサカでも昨年、同社との共同企画を実施。サービスに搭載されている独自機能『Similar Player』を使い、日本代表の6選手に似た特徴を持つ選手を、欧州5大リーグからピックアップした。今後も同社のデータを活用した企画をさらに進めている最中だが、まずはその開始に先立ち、イスマイル・タリ氏、また同社の設立者テッド・クヌートソン氏とのショートインタビューを行った。

——よろしくお願いします、イスマイルさん。キャンプを視察して、まず日本のサッカーについてどのような印象を持ちましたか。
イスマイル「私の期待を裏切らないものでした。Jリーグの野心、可能性が外からでも感じられました。これから広がっていく可能性がもちろんありますし、ですが、土台をしっかりさせることが何よりも大事です」

——それぞれのチームはいかがでしたか。
「チームは細やかに注意を払い、規律を持って準備段階に取り組んでいました。またチーム内や、他のチームとの雰囲気もとても素晴らしいものだと知りました。ただ、サッカーが社会のミクロな集合体だと捉えた場合、人々の間にある敬意や友好的な交流には驚きを感じません。こうした美徳や調和を持った生活様式は、すでに日本の文化に深く根ざしているからです。そうしたものが広がっていたので、私はそれが大好きです」

——データ活用という点では日本は欧州ほど進んでいないと思います。データを活用する文化を作っていくため、どのように取り組んでいこうと考えていますか。
「日本は革新的でテクノロジー志向の国として、国際社会で大きな威信を持っています。フットボールにおいてもデータを活用した構造改革が起きていますが、国内サッカー界に関してはまだまだだと思います。これには関係者の努力によって進められ、保持されていくという長いプロセスが必要です。われわれは文化について話しているのですから、より成熟させる必要がありますし、育てて推し進める前に、多くの人の現実の中にまずは居場所を確立する必要があります。そのため、StatsBombが考えているのは、アナリストやオピニオンリーダーを継続的に育成することです。これはフットボール関係者たちの力を借ることで、さらに速く進めていくことができるでしょう」

——ここからはテッドさんにお伺いしたいのですが、StatsBombを活用することで各クラブにどのようなメリットがあると思いますか。
テッド「フットボールにおける第一のメリットはリクルート(選手獲得)においてです。チームのスタイルに合った良い選手をいかに見つけますか?それも安い金額で。チームは移籍金と給与で最も多くの金額を費やしているのですから、少しでも効率化することは大きなメリットと言えるでしょう。第二のメリットは所属選手の進歩です。多くのチームはわれわれのデータを活用し、アカデミー選手の長所や短所をプロファイルすることで、その情報を使用しながら個々の育成プログラムを設計し、より良いものにしています。またその情報を使用することで、近い将来にトップチームに昇格するのにふさわしい選手をチェックしたり、最適なローン(期限付き移籍)先を見つけます。またもう一つのメリットとしては、チームが対戦相手を分析する際も、われわれのデータを頼りにしています。クオリティーは確かなもので、試合の全ての局面で他のチームを破る方法を見つけるのに十分な信頼性があります」

——数あるデータツールの中でStatsBombの強みはどこにありますか。
テッド「試合ごとのデータの総量は競合他社のほぼ2倍にあたります。また世界で最も優れた「ゴール期待値」モデルを持っています。われわれは現在、イングランドの最下位リーグからチャンピオンズリーグに出るような最上位まで、世界の200以上のチームに採用され、分析の取り組みを強化しています。われわれが始めた当時、イングランド4部のクラブはデータ活用の予算がないだろうと言われていましたが、昨年そのリーグから昇格した4クラブのうち、3クラブがStatsBombのクライアントでした。これはどの国でも機能するものです」

——日本ではまだデータ活用が欧州ほどは進んでいませんが、イギリスでStatsBombはどのように広まったのでしょうか。
テッド「ブレントフォードがリーグ・ワン(3部相当)から昇格した際、私はブレントフォードでアナリストとしてフットボールに関わり始めました。彼らやブライトンの成功は、リバプールの成功と相まって、よりスマートなアプローチに人々が注目する助けになりました。StatsBombは2013年以来、フットボールにおいてデータを使用することが世界中で助けになる理由を、ブレントフォードやブライトンの選手取引の収益性などのデータを上げながら、啓蒙活動にも取り組み続けてきました」

——日本でも広がると思いますか?
テッド「それはスポーツにおいて自然な進歩です。20年前から10年前にかけて野球界で起きていたことがサッカー界でも同じように進んでいますし、スポーツが一度データに向かって進むと、後戻りできないということが決定的にわかっています。一方、データを使っていない人は取り残される可能性があります。より優れたデータを使用することで、より優れた選手やより優れたプレースタイルを見つけたり、発展させたりすることができます。そのことが代表チームにより才能のある選手層を提供することにつながりますし、より質の高いリーグにしていく可能性があります。われわれはプレミアリーグの70%のクラブと協力しており、それらのチームはわれわれのデータを使用し、世界中からトップ選手たちを見つけてきています。また女子チームにおいても、トップリーグと代表の両方でデータを使用するチームが大幅に増えています。われわれは現在、さまざまなデータとStatsBombIQをヨーロッパとアメリカの5大リーグに無料で提供しています。日本でも同じことができたらうれしいです」

——われわれゲキサカでも今後StatsBombさんと協力し、データ活用を進めていきたいと考えています。メディアのデータ活用に関するアドバイスはありますか?
テッド「メディアにおいて、データ活用は『あの場面でストライカーはゴールを決めているべきだったのか』という観点で始まることがよくあります。これがメディアの議論における『ゴール期待値』の最も一般的な活用法です。イギリスでわれわれが気づいたのは、昔のコメンテーターの見込みは大きく間違っていたということです。大半のケースにおいて、彼らは選手に対して厳しすぎました。ゴールを決めるのは難しく、1試合に2.5〜3点しか入らないのには理由があるのです。そうしてデータを活用することで賢明な議論を行うことはファンの共感を呼びます。また人々はデータを使って快適に過ごせるようになると、そこまでのプロセスも検討し始めるようになりました。そしてさらにビジュアライゼーションを使用し、リーグのトップを走るチームの戦術など、あらゆるものに多くの洞察を提供できるようになります。これらはフットボールにおいてすでに行われている議論を、より客観的な方法で実現させるものです。さらに結果だけでなく未来を予測するのも少しだけ上手です。ですから、ファンタジーチーム(※ファンがチームを編成し、実際の選手の活躍に沿ってスコアを競うゲーム)においてもデータは重要ですね。SNSで見る限り、ファンタジープレイヤーは最も熱心なデータユーザーの一人です」

(インタビュー・文 竹内達也)

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