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大けがの経験も糧に躍動する広島MF満田誠「Jリーグの価値を示すためにも…」再び歩み始めた日本代表への道

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サンフレッチェ広島のMF満田誠

[8.26 J1第25節 柏 0-0 広島 三協F柏]

 右膝前十字靭帯部分損傷という大けがから復帰して3試合目、サンフレッチェ広島のMF満田誠はこの日も90分間をフルに走り抜いた。「自分としてはそれほど慎重に気にしてプレーしているわけではないし、見ている人が思っているよりも不安や怖さはない」。コンディションは万全で、チーム状態も上向き。自身のキャリアのため、そしてクラブの栄光のため、広島のエースは上々の再スタートを切ろうとしている。

 満田は5月7日に行われたJ1第12節・福岡戦で、接触プレーにより右膝を負傷。全治期間は「不明」とされていたが、3か月間のリハビリ期間を経て、今月13日の第23節・浦和戦で復帰を果たした。その一戦ではさっそく先発出場し、45分間のプレータイムながらも驚異の回復ぶりで勝利に貢献。また前節の川崎F戦では復帰後初のフル出場を果たすと、後半終了間際に劇的な決勝ゴールを決め、不在時に2勝2分7敗と停滞していたチームを3か月ぶりの2連勝に導いた。

 そうして迎えたこの日は、出場停止のMF野津田岳人を筆頭に欠場者が複数出ていたため、本職ではないボランチでの先発出場。それでも持ち前のポジショニングセンスで相手に脅威を与え、前半21分にはFWピエロス・ソティリウからの落としを受けて強烈なミドルシュートも放った。「ディフェンスが目の前に立っていたので、正直あそこにしか蹴ることができなかった。あれで止められたらしょうがない」。結果的にはGK松本健太のファインセーブに阻まれはしたものの、中盤でゲームメークを担いながらフィニッシュの局面に顔を出すという“らしい”働きを存分にこなしていた。

 また試合終盤にはスクランブル起用ながらも右ウイングバックに持ち場を移し、攻守に負荷の多いポジションで2試合連続のフル出場。復帰直後のゲーム体力では「キツいのはキツいです(笑)」と本音も明かしたが、「点を取りに行かないといけない時間帯だったのでそういう交代カードを切ることになったのかなと思う。残ったからには走り切らないといけないなと思っていたので走り切ることができた」とサラリと振り返った。

 復帰後3試合の間に自身のゴールで勝利に導いたかと思えば、スクランブル起用も受け入れる大車輪の活躍。そこにはプロ2年目という立場の面影はない。

 本職ではないポジションの起用にも「組み立ては苦労したけど、後ろの選手も前の選手もしっかりポジションを取ってくれたので、自分もサイドに展開したり、前を向いたりできた」と手応え。その上で「ボランチを経験したことで、一つ前のポジションに入った時にどういったポジションを取ればいいのかとか、どういった守備のサポートをしてあげれば助かるかが分かった。この経験を活かして次の試合に活かしていければいい」と普段のプレーの糧にしていく気概も見せた。

 置かれた状況に順応していく姿勢は、無念の長期離脱を強いられていた期間も変わらなかったという。

「自分が出ていれば……と考えることもあったけど、出られない選手がそんなことを考えてもしょうがない。いまいる選手がやるべきことをやれば、ちょっとした変化で勝てるようになると思っていた。似たようなポジションの選手にはできるだけアドバイスをするようにはしていたけど、なかなか勝てない時期が続くのはどのチームもあること。外から見ていた時の感覚を中に入って周りに伝えていければ、この経験も無駄じゃなかったのかなと思える」

 不調に陥ったチーム状態を気に病むのではなく、メディカルスタッフやトレーナーとともに復帰後のレベルアップも見据えた取り組みにも着手。「身体作りに加えて、自分は攻撃の選手なので、常にゴールを目指すためにどういった動き出しをすればいいか、どういったポジショニングを取ればいいか、走りの部分で前に行く時に相手より一歩速く前に入り込むことを意識してやっていた」。そうした努力があったからこそ、復帰直後からブランクを感じさせないプレーが続けられているのだろう。

 そんな満田は復帰後の現状について「サッカーはピッチでプレーしているのが一番だなと改めて感じた」と感慨を語る。その一方で「周りを動かしながらプレーするのが一段階上の選手になるために必要なことだと思っている中で、自分がボールを持った時でも持っていない時でも、周りにポジショニングを伝えること、逆に自分が周りの選手を見ながらポジショニングを取ることというのは怪我をしなかったらここまで分かっていなかった。そこは良かったのかなと思う」と離脱期間への前向きな言葉も口にした。

 自身が不在の間に上位との勝ち点差は大きく開いたが、このまま終わるつもりはない。「1人帰ってきただけでそんなに変わることはないと思うけど、ただチームとして勝てない状況が続いている中、誰か一人がアクセントになれれば、ちょっとした変化でチームは上向きになる。自分が帰ってきてここ2勝できて、ここも勝ち切れたらよかったけど、アウェーで勝ち切るのは難しい。次もアウェーになるので、自分が攻撃のアクセントとして、ゴールが足りていないので、ゴールに直接関与できるプレーができればいいのかなと思う」。まずは着実に結果を積み上げ、チーム全体で浮上していく構えだ。

 その先には自身のキャリアもおのずと開かれるはずだ。広島で現在のパフォーマンスが続けば、昨年夏のEAFF E-1選手権以来となるA代表復帰も現実的。満田自身も「目標は代表に入ることであったり、日本を代表する選手になって海外でも通用するようになりたいというのが目標なので、その目標に向かっても再スタートを切れればと思う」と目標を明言している。

 また満田が負傷離脱していた間には、広島のチームメートでユースでも同期だったMF川村拓夢がA代表に初招集。体調不良で試合出場は果たせなかったが、欧州組も交えた代表活動を一部経験した。「普通に嬉しかったです。悔しさもあったけど、活躍が認められて代表に選出されるというのは誰でもできる経験ではない。チームメートが選ばれるのは嬉しいし、負けていられないなという気持ちも芽生えたので、そういうところを狙っていきたいというのを再認識できた」。身近なライバルの存在は少なからず満田の刺激にもなったようだ。

 日本代表は今年11月に2026年の北中米ワールドカップに向けた2次予選をスタートさせ、来年1月にはアジアカップを控える。満田が現在の立場から北中米W杯出場を狙うためには、まずはJリーグの舞台でアピールを続け、海外組に割って入ることが求められる。それでも満田は地に足をつけ、冷静に自らの進むべき道を見つめている。

「いまは海外組が代表のほとんどを占めている中で、Jリーグの価値を示すためにも、Jリーグから選ばれた選手たちが引っ張っていけるくらいの活躍しないといけない。日本サッカーの価値をもっと上げるためにも、少数かもしれないけど選ばれた選手たちが『Jリーグにもこのレベルの選手がいるんだな』と海外組の選手にも思ってもらえるようなプレーや結果を出していければいいなと思う」。まずはJリーグで絶対的な存在に——。大怪我の経験も力に変える24歳が、再び広島から世界への道のりを歩み始めた。

(取材・文 竹内達也)
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Text by 竹内達也

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