beacon

敗戦濃厚も「ピッチに立つ以上は諦めるわけにはいかない」。一矢報いた福岡ルーキーFW鶴野怜樹、アジア大会を戦った同世代への思い

このエントリーをはてなブックマークに追加

一矢報いたFW鶴野怜樹

[10.8 天皇杯準決勝 川崎F 4-2 福岡 等々力]

 敗戦濃厚の中でも、ルーキーは諦めていなかった。アビスパ福岡の大卒ルーキーFW鶴野怜樹は後半20分から途中出場し、1-4で迎えたアディショナルタイム6分過ぎに一矢報いた。「この1点で次につながったと思ってもらえるように。あまりFWとして点が取れていないので、この1点をきっかけにもっともっと点を取って勝利に導きます」と試合後に悔しさを噛み締めた。

 ピッチを踏んだのは1-2で追いかける展開だった。ベンチスタートの鶴野は後半20分から出場し、相手ゴールを狙う。だが、福岡は立て続けに失点。同25分、36分と川崎フロンターレにゴールを奪われ、1-4と点差が開いてしまった。それでも鶴野は「ピッチに立っている以上は諦めるわけにはいかない」と顔を上げる。

 そして後半終了間際、鶴野が意地を見せた。後方からつながったボールを追いかけ、最前線でDF大南拓磨と競り合う。「体をポンと当ててマイボールにするのが得意」と語るように、自分より15cmも身長が高い大南からボールを奪取。「(ゴールに)後ろ向きだったのでケネ(三國ケネディエブス)か祐也くん(山岸祐也)に落として前に飛び出そうかと思った」。だが、瞬時に頭をよぎったのは「どうせなら思いっきり前を向いて振り抜こう」。ゴールを見ずに感覚で振り抜いたという左足シュートがゴールに突き刺さった。

 福岡大を卒業し、今シーズンにデビューを飾った鶴野がリーグ戦初ゴールを挙げたのは4月29日の第10節・川崎F戦。その試合も途中出場で、0-3の後半40分にゴールを決めていた。

 その印象は強く残っており、「川崎相手に点を取れるという良いイメージが強かった。この準決勝が決まったときから考えていた」。狙い通りの得点は生まれたが、その1点は2-4と点差を縮めたのみ。「相手のレベルの高さも感じ取れたし、まだまだもっと成長してやっていかないと」と静かに敗戦を振り返った。

 試合前日には、別の悔しさを味わっていた。7日にアジア競技大会決勝が行われ、パリオリンピック世代のU-22日本代表がU-24韓国代表と対戦。しかし1-2と接戦を落とし、準優勝に終わっていた。自身もパリ五輪世代である鶴野は今年4月に候補合宿に初選出。今回のアジア大会メンバーはU-22日本代表の常連組ではなく、4月の候補合宿メンバーが大半を占めており、今春ピッチで競り合った同世代たちのプレーを、鶴野は画面越しに見守った。

「これまでの試合は正直観ていなかった。相手のレベルも低くて……でもたぶん悔しいという気持ちがすごく強かった。でも、韓国はレベルが高いと記事でも見ていたし、そういう相手にどういう戦い方をするのか、自分がそこに立っていたらどういうことができるのかと思って、試合を観ていました」

 U-22日本代表はU-24世代とオーバーエイジを含む韓国に1-2と僅差で敗れたが、試合内容では完敗だった。鶴野の脳裏をよぎる「自分がいたら」という思い。「だからこそ本当に悔しい気持ちがとても強かった」。まだ一度だけの招集だが、改めて代表への思いは膨らんでいく。

 クラブの新たな歴史のため、そして自らのためにも「次に呼んでいただけるような活躍をしないといけない」。そのゴールはすでに勝敗が決まった中での得点ではあった。しかし鶴野の思いが結実した、未来につながる価値あるものとなるはずだ。

(取材・文 石川祐介)
★日程や順位表、得点ランキングをチェック!!
●2023シーズンJリーグ特集ページ
●第103回天皇杯特集ページ
石川祐介
Text by 石川祐介

TOP