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世界55か国、10万人から選ばれたナイキ「THE CHANCE」ファイナリスト、滝川二FW木下が6週間の「海外挑戦」

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 日本の高校サッカープレーヤーが世界を体感した。兵庫の名門、滝川二高のストライカー、FW木下稜介は昨年開催された世界規模のスカウトプロジェクト、ナイキ「THE CHANCE」に挑戦。鹿児島実高(鹿児島)MF山之内優貴(現ギラヴァンツ北九州)、桐蔭学園高(神奈川)DF冨澤右京(東京学芸大進学)とともに名門、強豪校の選手たちが参加した国内選考を突破した木下は、“日本代表”として世界55か国から総勢100名がバルセロナ(スペイン)に集って行われたセレクション「グローバルファイナル」に出場した。世界を代表するビッグクラブ、バルセロナの練習場でスペイン代表MFアンドレス・イニエスタ、スペイン代表DFジェラール・ピケらのアドバイスも受けながらエリートコーチングドリルに取り組み、DFを切り裂く鋭いドリブルなど個人技でアピールに成功。木下は1次選考、セミファイナルを勝ち抜くと、26名によって実施されたファイナルマッチでも評価を獲得し、日本人として初めて合格者(16名)に名を連ねた。

 欧州でプロになることを夢見る世界10万人を越える選手の中から選ばれた16人。夢へ向けて一歩前進した木下は今年1月20日から、トップレベルのコーチ陣、栄養士、フィットネストレーナーらがサポートする6週間のグローバル・トレーニング・ツアーにおいて、アメリカ、イタリア、イングランドを回り、ユベントスやマンチェスター・Uなどのスカウトの前でプレーする機会を得た。このトレーニング・ツアーでさらなる評価を勝ち取れば、FAプレミアリーグがサポートするナイキアカデミー入りが実現。ナイキアカデミーは、今年1月にセルティック(スコットランド)と契約しオーストラリア代表にも上り詰めたMFトム・ロジックらを輩出しており、また今回のツアー期間中にスカウトの目に止まれば、海外でプロになる可能性も高まる。それだけに木下にとっては「サッカー人生を懸けた挑戦」となった。

 16人が欧米でエリートトレーニングを受けながら、チームとして対外試合を戦うグローバル・トレーニング・ツアーのスタートはアメリカオレゴン州にあるナイキグローバル本社。そこからトリノ、マンチェスターと続く6週間のツアーだったが、木下にとって壁となったのは言葉の問題だった。16人のうち、アジアから参加した選手は木下だけ。他はスペイン、イタリア、ロシア、セルビア、ベルギーなどの欧州や、コロンビア、エクアドル、南アフリカといった南半球から参加した選手もいた。主に英語かスペイン語を話す選手たち。ツアーには通訳も同行していたが、ピッチでも、宿舎でも自分自身でコミュニケーションを取らなければならない。「サッカーをやっているときは楽しかったけれど、最初は馴染めなくて。コミュニケーションの部分が一番苦労した」という。それでも英単語と、動作で意思を伝える木下に対し、ライバルでもあるチームメートたちは気さくに声を掛けてくれた。「コロンビアのケビン(・サラザール)やエクアドルの選手とか友達になれて、『元気です』とか『私の名前はケビンです』みたいな日本語を教えたりしていました」

 トレーニングは「全くやったことのないトレーニングばかり」。ポゼッション練習が多く、2つのゴールを目指す7対7や、走る速さに強弱をつけてペナルティボックスに切り込む動きの練習などを経験する中、ライバルたちの迫力も肌で感じる毎日だった。「(トレーニングでも)球際で本気で削りに来る。オフの時はフザけているけれど、サッカーではトレーニング一本一本を凄く真剣にやっていく。見ていて彼らには『サッカーしかないんだな』と思いました。ボクもですけど」。それでも木下は臆することなく、ピッチ上で猛アピールする。

 トレーニング・ツアースタートから約1週間、最初の対外試合となったチーバスUSAの下部組織との一戦では、左サイドハーフとして先発。右サイドからのパスをPA外側で受けると、コントロールから右足で先制ゴールを叩きこむ。ライバルたちの中で真っ先にゴールを記録し、4-2の勝利に貢献。続くU-17アメリカ代表戦でも後半からの出場で4-3の勝利へつなげた。欧州移動後のユベントスU-19戦は体調不良で欠場したものの、マンチェスター・Uユースとの試合では後半から出場し、GKと1対1のシーンへ持ち込むなど見せ場もつくる。そしてナイキアカデミーとのファイナルマッチは、後半5分から右サイドハーフで途中出場すると、得意のドリブルや、PA付近でボールを受けてから右へ持ち出してシュートを放つなど存在感を放った。

 イングランドのナショナル・フットボール・センター、セント・ジョージズ・パークでトレーニングを行い、イングランド代表監督のロイ・ホジソン氏やU-21イングランド代表監督のスチュアート・ピアース氏からの指導を受け、マンチェスター・UのMFトム・クレバリー、DFクリス・スモーリング、FWダニー・ウェルべックと交流する機会もあった。「日本では体験することができない経験ばかり。環境もそうだし、レベルの高い中でやらせてもらった」と振り返る。

 ただ、最終的に合格し、ナイキアカデミー入りを勝ち取ったのはコーチ陣が「チームをまとめ、期間中に凄く成長した」と評価したマルコ・ディ・ラウロ(イタリア)と「何よりも回りをみるまれな才能がある。左右の足を使いトリックもうまく色々なところで注目された。イギリスではなくても他の国でトップで活躍できるだろう」というケビン・サラザール(コロンビア)、そして「一貫したパフォーマンスをみせたし、練習にいつも一番先に顔を見せたり最後の片付けも率先してやる人間性も評価」というゴンサロ・バルビ(スペイン)の3人。木下は「ボールを持っていない時の動きについて指摘されました。あと『いい選手だと思うが、もっと積極的にやろう』と。そして『分からなくてもいいからもっと声を出せ』。気持ちの部分は今まで言われたことがなかった」と課題を突きつけられた。

 11年の「グローバルファイナル」で4人が参加した日本人選手は最高でベスト32まで進出したものの、その上へ進むことはできなかった。木下はその壁を突破したが、さらなる「海外挑戦」を成功させ、次のステップへ進むことはできなかった。ただ、この6週間を経て、サッカー選手としての視野が広くなった。この「日本では絶対に経験することができない」という日々を経験したからこそ、海外を目指す同世代の選手たちに伝えたいことがある。「技術はもちろんですし、メンタル的な部分も、どんな環境でも自分のプレーができることが大切。どんなスタイルのサッカーにも合わせながら、自分のプレーを出すことが必要」。

 今回、グローバル・トレーニング・ツアーを経験することはできなかったものの、木下とともに「THE CHANCE」国内選考を突破した山之内がギラヴァンツ北九州からプロ入りし、冨澤も関東の強豪、東京学芸大へ進学する。木下の進路は現時点ではまだ決まっていないが、日本人でひとりだけ得た経験を次につなげる意欲だ。「今からですね。最終的な目標はプレミアリーグ。香川選手のようにゴールを決めたい」。木下を筆頭に「THE CHANCE」で世界を知り、自らの成長につなげた彼らの今後の活躍に期待が高まる。

[写真]“ワールドツアー”で6週間の「海外挑戦」を行った木下(中央)。今後の飛躍が期待される

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