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[全国自衛隊大会MOM]陸自習志野DF藤井光明3曹_「レンジャー藤井」広範カバーで王者の追撃阻止

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[自衛隊サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[4.26 全国自衛隊大会準決勝 陸自習志野2-1空自3補]

 広範囲にわたるカバーリングが、金星をもたらした。陸自習志野が前回優勝の空自3補を堅守速攻で打ち破った影には、CB藤井光明(3曹・第一経済大出身)の広範囲に渡るカバーリングの貢献があった。DFラインの背後を突いてくる相手のフィードをことごとく、クリア。相手のキックのタイミングを見極め、瞬時にラインの裏をケアするプレーにはスピード感があった。GK藤田龍太(士長・那須拓陽高出身)も「あそこまでカバーしてもらえると、本当に助かる」と感謝する働きが、王者の追撃を食い止めていた。藤井は「センターバックを組んだ大林竜馬(1士・秀岳館高校出身)が空中戦を制してくれた。だから、自分はとにかくカバーをするように徹底していた」と相方を称えつつ、与えられた役割をまっとうした手ごたえを話した。小学校4年生でサッカーを始めたという藤井は、当初GKでプレーしていた。フィールドプレーヤーになったのは、中学2年生。その後は、CB、SB、ボランチ、SHと様々なポジションを経験して、第一経済大でボランチに落ち着いた。マルチプレーヤーとしての経験が、チームのリスクマネジメントに役立っているようだ。

 藤井は、落下傘降下部隊の第1空挺団に所属するレンジャー有資格者。レンジャー訓練は、食糧補給を絶たれた中での任務遂行などを推定し、食事や睡眠に厳しい制限をかけた中で行われる。「愚痴と悲鳴をあげるな、理屈を言うな実行せよ、弱音を吐くなやり通せ」と三訓とする過酷な訓練だ。しかも「レンジャー訓練では、苦しいですとか、頑張りますとかであっても、基本的に言葉を発してはいけない。自分はレンジャーなんだという暗示のようなものになるのだけど『レンジャー』という返事だけが認められる」(藤井)という言い訳無用の世界だ。訓練を合格して資格を得た隊員は、自衛隊の中でも精鋭部隊の一員。「自分たちにとっては、必須(※空挺団では陸曹以上になるとレンジャー資格が必須となる)。厳しい訓練でも、その状況、環境を楽しむしかない」と話す藤井は、常人の忍耐や勇気のリミッターを超えた世界を経験している。もちろん、訓練の成果を生かすのは任務だが、訓練で鍛え抜いた肉体と精神は、サッカーの世界でも大きな影響を持つ。藤井は「レンジャーで培ったチームワークと、最後まで諦めない敢闘精神は、サッカーでも特徴として出ていると思う。レンジャーでなくても、空挺団は一人ひとりが個々の能力を大事にして、いかなる状況でも一人で打開する力を持っている。そういう部分が、このチームカラーになっていると思う。信じられる仲間がいるから、チームワークがある」と胸を張った。

 所属する第1空挺団ではラグビーが盛んだが、サッカー活動に関わる盛り上がりは、いまひとつだという。しかし、初の決勝トーナメント進出から続く快進撃は、いまや栄冠の一歩手前まで迫っている。「年齢も重ねてきているし、一戦一戦を噛みしめる思い。全自は常に最初で最後のつもりで臨んでいる。OBのバックアップもあるし、これを機にラグビーと同じようにサッカーも盛り上げていきたい」という藤井の願いを実現するには、優勝しかない。「うちらは、かませ犬のような存在だったと思うけど、ここまで来たのだから王者並みの風格で決勝は臨みたい」と藤井。決勝戦で、最多16度の優勝を誇る最強軍団、海自厚木マーカスを完封できるか。その出来が、19年ぶりの陸自勢優勝の成否を左右する。

(取材・文 平野貴也=フリーライター)

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