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米子北は“25人”で勝利。チームに欠かせない「サポートメンバー」城定瑛太

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米子北高DF城定瑛太(右)はサポートメンバーとして勝利に貢献することを目指している

[8.14 インターハイ1回戦 帝京高 2-2(PK5-6)米子北高 日東シンコースタジアム丸岡サッカー場]

 中村真吾監督が試合後に「いやあ、疲れましたね」と苦笑いした通り、米子北高(鳥取)は帝京高(東京2)に2度のビハインドを許しながらも追いつき、PK戦の末1回戦を突破した。苦しい試合展開をチーム一丸となって戦う姿が印象に残ったが、中村監督が「サポートメンバーを含めた25人での勝利」と評したように登録の17名から漏れた8名の貢献も見逃せない。

 今大会は新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、最小限の人数で開催されている。各チームが登録の17名に加え、8名を選出。8名は出場メンバーのサポートと試合のボールパーソンに分かれて、チームのサポートを行っているが、仕事は決して楽ではない。初戦は大雨の影響で気温が低く暑さ対策の仕事は減ったが、中村監督が「夏の米子北」と評するように暑さと連戦の疲労対策を万全に行うのがチームの特色で、サポートメンバーが行う作業は多い。特に今年は新型コロナウイルスの感染対策を行うため、細部にまで気を遣わなければいけず、気が利く選手でなければできない仕事と言える。

 サポートメンバーに選ぶか決める際、中村監督の頭に真っ先に顔が浮かんだのはDF城定瑛太(3年)。城市徳之総監督が「社会人として即戦力」と太鼓判を押すパーソナリティーの持ち主だが、指導者からの絶大な信頼によって選ばれたものの、サポートメンバーとしての選出は試合登録から漏れたことも意味する。

 城定は「プレイヤーとしてチームに貢献できないと宣告されるわけなので、最初は葛藤というか悔しさはあった」と振り返りつつ、このような言葉を続ける。「冷静に考えて今の自分の実力を他の17人と照らし合わせたら、自分がチームに貢献できるのはサポートだと思った。今はこの役割を与えてもらって嬉しい気持ちもありますし、チームとして勝てたと感じられるのでやり甲斐を感じられる」。

 インターハイを迎えるにあたり、事前の練習試合からAチームに帯同し、サポートの動きを学んできた。本番とは異なり、サブ組の一員として練習試合にも出場。選手に専念していたこれまでとは違い、普段よりも大変なのは間違いない。

 大会初戦となったこの日も試合前にサブグラウンドでウォーミングアップする登録メンバーの動きを先回りして、「全部の行動において、先のことを考えている」と話す城定は、試合を行うピッチで準備を進めた。試合が始まってからは飲みまわしを防ぐため、選手ごとに分けたバケツに冷えた水とタオルを用意。他のサポートメンバーが各選手に配る中、「コンディションのため、なるべく優先して飲ませたい」と城定は紙コップに入れたポカリスエットを真っ先に選手に元へと届けた。

 試合を終えて、宿に戻ってからも中1日で2回戦を迎える登録メンバーの回復を支えるため補食やストレッチの準備をする。気が休まる間もなく動き続けるが、「大変だと思うことはたくさんあるけど、他のサポートメンバーや先生方、トレーナーが協力してくださっているので助かっている」と周囲への感謝を口にする彼からは、人の好さが伝わってくる。

 米子北に欠かせない戦力として活躍する城定は浦和レッズで活躍し、1997年のFIFA U-20ワールドカップで8強入りに貢献した城定信次氏(現・浦和ジュニアユースコーチ)を父に持つ。兄の幹大(現・産業能率大)は父がプレーした市立船橋高へと進んだが、城定は「小さい頃から見ていた市立船橋を倒してみたい」と思い、県外への進学を志望。「ピリッとした練習の感じや、しっかりした雰囲気が良いなと思った」米子北への入学を決めた。

 きつい練習も多いが、遠く離れた鳥取の地を選び、「人間的に強くなれたと思う。部訓の一つ“気付く”を特に意識しているので、中学生の頃から周りを意識するようになった」。小さい頃は、父と同じくJリーガーになることを夢見ていたが、サッカー選手としてのキャリアを積むうちに自分の実力では難しいと気付いた。それでも、サッカーに関わっていくために「部活動でサッカーを教えるのも一つの手なのかなと思った」と教員の道を志願。今回のサポートメンバーも、今後目指すキャリアの勉強のためと前向きに励んでいる。

 プロへと進む選手、試合で活躍した選手に目が行きがちだが、城定のような縁の下を支える選手の存在抜きでは全国大会は成り立たない。目立たない作業を実直にできる選手がいるチームは、強い。25人が一丸となって戦う米子北なら、2回戦以降も力強く勝ち上がっていけるはずだ。

(取材・文 森田将義)
【特設】高校総体2021

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