beacon

伝統校のプライド、大一番で勝ち切る強さを表現。星稜が雨中の決勝を1-0で制し、石川10連覇

このエントリーをはてなブックマークに追加

星稜高が10連覇達成

[6.6 インターハイ石川県予選決勝 星稜高 1-0 鵬学園高 金沢市民サッカー場]

 名門・星稜が石川10連覇――。令和4年度全国高校総体(インターハイ)「躍動の青い力 四国総体 2022」男子サッカー競技石川県予選は6日に決勝を行い、昨夏全国3位の星稜高鵬学園高が対戦。星稜がMF宮前匠真(3年)の決勝点によって1-0で勝ち、10大会連続30回目の全国大会出場を決めた。

 75年にインターハイ予選で初優勝して以降、星稜の同大会決勝での成績はこれで30勝2敗。前評判は鵬学園も高かった。だが、河合伸幸監督も伝統の力、勝負どころで1本を決め切る力を口にしていたように、大一番で強い星稜が夏の王座を守った。

 いずれも交代出場が多かったものの、新主将のFW山下陸(3年)、MF福島元基(3年)、GK加藤夕暉(3年)と昨夏の経験者3名を残す星稜は4-2-3-1システム。GKが加藤で右SB塩川晴也(2年)、CB高橋大空(3年)、CB奥名星太(3年)、左SB井田佳佑(2年)、ダブルボランチが平良大研(3年)と中山裕紀(3年)、右SH山本陽大(3年)、左SH宮前、トップ下が福島、1トップを山下が務めた。

 一方、インターハイ初出場を狙う鵬学園は前日の準決勝で10番FW坂本陽斗(3年)が骨折するアクシデント。同じく4-2-3-1のGKが岡本陸(3年)、右SB安井航大(3年)、186cmCB八十島陸翔主将(3年)、CB鈴木樟(2年)、左SB平山海(3年)、ダブルボランチが安井陸斗(3年)と今野汰一(3年)、右SH荒磯快生(3年)、左SH吉澤英琉(3年)、トップ下が丸山哉太(2年)、そして1トップに加納里玖也(3年)が構えた。

 試合を通して降り続けた雨が王者の戦い方をより徹底させ、挑戦者を迷わせた。河合監督が「厳しいとは思っていたんですけれども、雨も降ってくれたんでやることは徹底しやすかったかなと思います」と語ったように、星稜は1タッチなどでシンプルに前線へ配球。この日誰よりもハードワークと味方への声がけをしていたCF山下が、胸トラップ含めてボールを収め、前への推進力を見せる。

 そして、山下とともに攻撃の中心になっていた福島が雨中で抜群のテクニックを発揮。ドリブルでライン突破し、ゴールへ迫る。また、展開によっては平良がボールを落ち着かせ、ロングスローなどのセットプレーも活かして先制点を目指した。

 山下は「昨日はベースの部分、球際とか、戦うとか、走るとか全然できていないと言われていて、今日はそれだけ意識して全員で戦ってきました。応援もいっぱいあったので、気分も上がって、でも頭の中は冷静にできていたと思います」。前日は意識面、プレー面にもバラつきがあり、選手同士で文句の言い合いもあったという。だが、この日は河合監督も「切り替えはできていたのかなと思います」と頷いたように、各選手がチームのために戦い、序盤から出足や強度で鵬学園を上回っていた。

 一方の鵬学園は、本来トップ下で攻撃の中心となる坂本の不在と雨が影響。打倒・星稜のために、ボールを保持する戦い方を志向してきたが、相手の鋭いプレスと雨の中、勇気を持ってボールを受けられる選手が少なく、エースストライカーの加納や高速MF荒磯を頼る形のロングボールが増えてしまっていた。

 赤地信彦監督は「本人たちも動かしづらそうでした。(メンタル面の弱さが出てロングボール中心に)なってしまった」。それでも、八十島と鈴木を中心とした守りは堅い。攻撃面でも前半12分、右サイドで段違いのスピードを見せていた荒磯が縦パスに追いついて仕掛ける。そして、こぼれ球を拾い直して放った左足シュートがゴールを強襲。また、幾度か今野を起点に繋いでボールを動かし、高い位置から攻撃した際は素早い奪い返しを見せるなど敵陣で戦う時間も増やしていた。

 後半は星稜がサイド攻撃でチャンス。福島が右から仕掛けてラストパスを入れ、またワンツーから宮前が上げた左クロスでゴール前のシーンを作り出す。一方の鵬学園も10分、安井航とのコンビネーションで右サイドを打開した荒磯が右足を振り抜き、直後にも相手DFラインの背後へ抜け出した吉澤が決定機を迎える。

 勢いづく鵬学園は、セットプレーも含めて右サイドから連続攻撃。そして16分、攻め上がった安井航がラストパスを狙う。だが、星稜はこれをCB奥名が跳ね返したところからロングカウンター。中盤でボールを運んだ福島が左前方の山下へ預けて、大きく空いた左のスペースへ駆け上がる。そして、リターンを受けるとDFとの1対1を攻略してラストパス。最後は中央の宮前が右足シュートを決めて先制した。

 アシストした福島が「宮前はゴール獲れていなくて、ここで獲ってくれたので嬉しかったです」と微笑み、主将の山下も「(宮前は)プリンスでもずっと外し続けていたんで、こういう形になって自分も嬉しいです」と喜んだ宮前の先制点。背番号12はシュートを打った地点で咆哮して仲間の祝福を受けると、ベンチ方向へ駆け寄り、控え選手たちと喜び合っていた。 

 鵬学園は失点直後にMF飛田虎太郎(3年)、20分にはFW中山蓮大(3年)を投入。星稜もCB宮村広(3年)をピッチへ送り出す。鵬学園は22分、3連続CKで相手にプレッシャー。さらに30分に投入した左SB松田徠生(2年)の左ロングスローから、最後はゴール前のこぼれに中山が身体を投げ出して触るが、枠上へ外れてしまう。

 八十島を前線に上げた鵬学園に対し、星稜はロングボールを受ける回数が増えていたが、GK加藤がミスなくプレーし続け、DF陣も崩れない。逆に前がかりになった相手から決定機を作り出していた。鵬学園は33分、加納に代えてMF加森智宏(3年)投入。勝負に出たが、王者・星稜は敵陣で残り時間を使い切って試合終了を迎えた。

 星稜の福島は「自分たち新人戦を落としているので、この試合に入る時も王者じゃなくてチャレンジャーと思ってそういう気持ちで入りました。(準決勝は)雰囲気も悪くなって苦しい時間も多かった。でも、決勝なのでやるしかいないと確認して、『決勝来たんやから楽しんで』というところもプラスになったと思います」と挑戦心、決勝の舞台を楽しんだことも勝因に挙げた。

 河合監督は今年のチームについて、「一人ひとりの能力はそんなに低くもないですし、割りと個性が強いので、スピードがあるとか、テクニックがあるとか、運動量があるとかそういう子が多い」という。一方で指揮官が「自信がないですよね」と指摘するチームは、全国大会で一試合一試合に集中し、成長、自信を重ねながら準決勝まで勝ち上がった昨年の再現、それ以上を目指す。

(取材・文 吉田太郎)
●【特設】高校総体2022

TOP