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高体連最高峰の「スタイルウォーズ」。矢板中央の貫く覚悟に苦しみながらも前橋育英が執念の逆転勝利!

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前橋育英高は矢板中央高との「スタイルウォーズ」に逆転勝利!

[7.28 インターハイ準々決勝 前橋育英高 2-1 矢板中央高 鳴門・大塚スポーツパーク球技場]

 ピッチで打ち出されるそれは、千差万別。長年の経験から導き出された戦い方で、勝利という唯一無二のものを求め続ける。そのスタイルの違いに、良し悪しなんてない。そこにあるのは、自分たちが信じたものを、どれだけ貫けるか、貫けないか。それだけだ。

「これが俺たちのスタイルで、『これが今後、絶対オマエたちのサッカー人生の中でプラスになるから、絶対譲れないし、これをやるぞ』と。そういうふうには言っています」(前橋育英高・山田耕介監督)「我々は高校サッカーの選手らしいサッカースタイルでやっているチームなので、そこは崩さないで、一生懸命努力して、頑張ることを大切にしたいですね」(矢板中央高・高橋健二監督)。

 高体連最高峰の『スタイルウォーズ』は、上州のタイガー軍団が執念の逆転勝ち。令和4年度全国高校総体(インターハイ)「躍動の青い力 四国総体 2022」男子サッカー競技(徳島)準々決勝が28日に行われ、鳴門・大塚スポーツパーク球技場の第2試合で前橋育英高(群馬)と矢板中央高(栃木)の“北関東対決”が実現。前半4分に矢板中央が得意のロングスローからFW若松優大(3年)のゴールで先制したものの、前橋育英は後半2分と16分にMF山田皓生(3年)が続けてゴールを陥れ、逆転に成功すると、追いすがる相手の攻撃を振り切り、2-1で勝利。2017年の宮城インターハイ以来となる準決勝進出を手繰り寄せた。

 試合は開始早々に動く。前半4分。矢板中央が左サイドで獲得したスローイン。3回戦の東山高(京都)戦でも猛威を振るった、DF木村匠汰(3年)のロングスローがこの日も炸裂すると、凄まじい軌道に若松が合わせたヘディングが、ゴールネットへ到達する。「チームとしてもこの形は狙い続けているので、完璧な入りでした」と振り返るのはキャプテンのMF田邉海斗(3年)。矢板中央がいきなり“スタイル”全開で先制点を奪ってみせる。

「ロングスローは物凄く警戒していて、映像でも何回か見せたのに、それでもやられちゃって。スピードが凄いですよね。アレはどうしようもないです」と山田耕介監督も苦笑いを浮かべた前橋育英は、早くも1点を追い掛ける展開に。だが、チームに焦る素振りはほとんど感じられない。

「『自分たちが蹴ったら、絶対に相手のペースになる』とは話していたことなので、ボールホルダーに周りが『繋げ』という一声を掛けてあげることで、10分過ぎあたりからはちゃんと繋げていたかなと思います」と話すキャプテンのMF徳永涼(3年)とMF青柳龍次郎(3年)で組むドイスボランチを軸にボールを動かし、そこにMF大久保帆人(3年)やFW高足善(3年)が得意のドリブルでペースチェンジ。前半はゴールこそ挙げられず、1点のビハインドでハーフタイムへ折り返したものの、間違いなく積み上げてきた“スタイル”は貫かれていた。

 同点ゴールが生まれたのは後半2分。左サイドのDF山内恭輔(3年)を起点に、青柳が中央へ送ったボールを、一旦はボールを失った山田が奪い返すと、躊躇なく右足一閃。わずかにDFに当たってコースの変わった軌道は、右スミのゴールネットへ吸い込まれる。「自分は普段から『切り替えが遅い』とか、そういうことを言われがちなので(笑)、そういうところが課題だなと思っています」という17番が、『早い切り替え』から大仕事。1-1。スコアは振り出しに引き戻された。

 折れない矢板中央の反撃も、らしいプレーから。9分、GK上野豊季(3年)が自陣から蹴り込んだFKに、若松が合わせたヘディングは枠内へ。前橋育英のGK雨野颯真(2年)が懸命に触ったボールは左ポストにヒットするも、あわやというシーンにどよめくスタンド。直後の左CKをDF畑岡知樹(3年)がショートで始めると、木村のクロスからDF勝田大晴(3年)のヘディングは雨野がファインキャッチで凌ぐも、一発の脅威を相手の喉元に突き付ける。

 逆転ゴールが飛び出したのは後半16分。左サイドで獲得したFKを青柳が蹴り込み、クリアされたボールをFW小池直矢(3年)が残し、DF井上駿也真(3年)、DF齋藤駿(3年)と右へ繋ぐと、「中に味方がいっぱいいたので、クロスとシュートの間ぐらいの感じで、誰かが触ってくれればと」山田が放った“シュータリング”は、またも寄せたDFに当たってコースが変わり、そのままゴールネットを揺らす。「今日は皓生の日だったんですね」と笑ったのは山田監督。2-1。前橋育英がスコアを引っ繰り返した。

 一気に突き放しに掛かったタイガー軍団。13分には井上とのワンツーから大久保が、直後にも高足の右クロスに飛び込んだ小池が、14分には右サイドから3人をぶちぬいてエリア内へ侵入した井上が、相次いで決定的なシュートを放つも、いずれもゴールポストに阻まれ、3点目を引き寄せられない。

「技術がスバ抜けた選手はいないけど、最後まで身体を張って、本当に泥臭く頑張れる選手たちがたくさんいる」(高橋監督)矢板中央は、諦めない。高い位置までボールを蹴り入れ、さらにロングスローとコーナーキックでゴール前に殺到。同点に追い付きたい姿勢を前面に打ち出し続ける。

 だが、「矢板中央さんはやることは徹底しているので、ロングスロー、FK、CKはもう全身全霊で向かってくるから、そこは我々もアラートな状態で集中してやれと話しました」と指揮官も口にした前橋育英は高い集中力を保ち、180センチのFW山本颯太(3年)と186センチのDF斉藤航汰(3年)も投入する執念の采配で、聞いたタイムアップのホイッスル。

「チームの雰囲気的に『これは行くな』という確信がありました。ベンチからの声掛けも凄く良かったですし、自分はみんなのことを凄く信頼していて、先に1点は獲られましたけど、まだ時間は長かったので、絶対に逆転できるという気持ちはありました」と徳永も言い切った前橋育英が、力強い逆転勝ちで準決勝へと駒を進める結果となった。

「今年は去年のメンバーがそっくり抜けて、厳しい世代だって言われていたんですよ」と明かすのは高橋監督だが、「1年生の時から結構『この代はヤバい』とみんなで話していて、たぶんそのおかげで3年間危機感を持ちながらやってきたことで、それが今年の色というか、チーム力として出ているので、そこは逆に言われる方がありがたいです」とは若松。反骨心を武器に、厳しい練習にも耐え、矢板中央の選手たちは地道な努力を続けてきた。

 その成果が、同校のインターハイ最高成績となるベスト8進出。それでも田邉は「ベスト8まで行けたのは自分たちが成長していく上で良い経験になったし、このインターハイでだいぶ成長できたかなとは思うんですけど、もちろん課題も見つかったし、チームとして通用しなかった部分もあったので、選手権に向けてチーム一丸となって戦っていきたいです」と、もうこの先へと視線を向ける。

「やっぱりできることを大切にしていきたいなと。そんなにたくさんのことをやるよりも、しっかりプレーする、守備する、真面目にやれるように、ひたむきに、シンプルに、サッカースタイルを作っていきたいと思っています」と口にした指揮官が、「あと一歩というところまで行ったんだけどね。悔しいね。悔しい。次に切り替えて、また頑張ります」と続けた言葉に、このチームのさらなる成長の余地が垣間見えた。

 前橋育英のこの大会に懸ける想いも、ピッチのあらゆるところから立ち上っていた。「選手権はベスト8で負けて、自分も『もっと上に行けたのに』という悔しい想いをしたので、『今年は絶対にそこを超えたい』という想いはありましたし、この瞬間が終わってしまうと、もうそれは戻ってくるわけではないので、この試合に懸ける想いは去年の選手権での負けから繋がっているかなと思います」と話した徳永が、ハーフタイムに「ここが人生を変える試合だぞ!」とチームメイトに飛ばしていた檄も印象深い。

 長崎総合科学大附高。聖和学園高。矢板中央高。三者三様のスタイルを持つ難敵を撃破してのベスト4進出。「こういうチームはプレミアにはいないので、本当に勉強になっています。次の米子北も“ザ・高体連”ですよね。ガンガン来ますよ」と山田監督は準決勝の相手に言及。ただ、もちろん自分たちのスタイルを曲げるつもりなんて毛頭ない。

 勝利した試合直後。「監督をてっぺんまで連れて行って、胴上げしたいというのは全員で話していますし、もちろん今年で日本一にならなくていつなるんだという気持ちではいるので、もうみんなが次の準備に切り替えようというモチベーションでいると思います」と徳永はきっぱり。このスタイルで、日本一に。前橋育英が抱えるその想いは、覚悟は、矢板中央のそれと同様に、決して揺らぐことはない。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

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