[MOM4332]浦和南GK金悠聖(3年)_”学校の先輩”の朴一圭に憧れる守護神が苦手だったPKストップで決勝進出の主役に!
[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.14 インターハイ埼玉県予選準決勝 昌平高 2-2 PK2-4 浦和南高 NACK5スタジアム大宮]
2年生ながら守護神を任されてきた去年から、ずっと悔しい経験ばかりを繰り返してきた。もうそんな想いをするのはたくさんだ。チームメイトのためにも、先輩たちのためにも、そして自分のためにも、このPK戦だけは絶対に負けられない。
「去年も本当に悔しい想いしかしてこなかったので、それを忘れずに、その味わった悔しさを同い年のヤツらに伝えて、『自分がやってやる』という気持ちで、ここまで来ました。でも、まだこの次もあるので切り替えたいですね」。
2018年以来、5年ぶりとなる夏の全国出場にあと1勝と迫った浦和南高。そのファイナル進出をGK金悠聖(3年=埼玉朝鮮初中級学校出身)の果敢なPKストップが、力強く引き寄せた
前半はとにかく攻められ続けた。準決勝の相手はプレミアリーグEASTを主戦場に置く、昨年度のインターハイ全国4強の昌平高。優勝候補筆頭の強豪を相手に、浦和南は防戦一方の展開を強いられる。
金は前半6分と8分に続けて訪れたピンチを、ファインセーブで辛うじて凌いだものの、16分には相手との1対1を防いだボールを押し込まれ、先制点を献上。その後もゴールポストとクロスバーに1度ずつ決定機を救われ、さらに39分にも相手の決定的なチャンスをビッグセーブで阻止したが、1点のビハインドを背負って前半は終了した。
「前半は結構押し込まれる時間が多かった中で、1失点に抑えられたのは大きかったかなと思います。この大会は今までゼロで抑えていたので、失点した時はみんな『ヤバイ、ヤバイ』となったと思うんですけど、自分も声を出して落ち着かせました」。金は冷静に劣勢の40分間を振り返る。
ハーフタイムに野崎正治監督の喝も入ったという後半は、セットプレーから2ゴールを奪って浦和南が鮮やかに逆転したものの、相手もそう簡単に終わるようなチームではない。最終盤の後半40分にクロスからヘディングを叩き込まれ、2-2の同点に。「入った瞬間は『うわ!ヤバイ』とみんなも自分も思ったんですけど、すぐに切り替えましたし、PK戦も視野に入れて練習してきたので、まずはみんなで失点しない気持ちを合わせて挑みました」と金も言及した延長でも決着は付かず、勝敗の行方はPK戦へともつれ込む。
実はPK戦は、苦手だったという。「これまでは金も全然PKを止められていなかったので……」と明かしたのはキャプテンのDF橋本優吾(3年)。本人も「練習でも普段からPKはやっていたんですけど、自分はあまり止められていなかったんです」と口にしたが、そんなことは言っていられない。覚悟を決めて、11メートルの勝負へ胸を張って向かう。
先攻の浦和南は1人目が失敗。後攻の昌平1人目のキックは、金が飛んだ方向の逆を突いて成功する。いきなり背負ったビハインド。だが、浦和南の守護神は相手の2人目と対峙する前に、いったん落ち着いて周囲を見渡すと、あることに気付く。
「試合前にも言われてはいたんですけど、ちょっとアガってしまって(笑)、1回落ち着いて周りを見てみたら、ベンチで濱田(駿)先生が『こっちだ』と指示してくれていたんです」。
2人目にもゴールを許したが、指示通りに飛んだ方向は合っていた。迎えた3人目。ベンチを見る。「今度は右だ!」。ストップしたボールを、大事に抱えながら咆哮する。「1本目を止められた時に、自分でも自信になりました」。もう、迷いはなくなった。
4人目。ベンチを見る。「今度も右だ!」。左手1本で弾き出したボールは、クロスバーに当たって自分の目の前で弾む。「2本目も自信を持って止めました。もう左手に当たった感触が良かったので『大丈夫だ』と思いました」。圧巻のPK2本ストップ。浦和南の5人目が冷静にキックを沈めると、チームメイトたちが金の元へと駆け寄ってくる。「本番で止められたので結果オーライだと思います」と笑った背番号1の躍動が、チームを決勝へと導いた。
もともと浦和南へと進学してきたのは、指揮官の存在が大きかったという。「野崎先生が川島永嗣選手を教えていたというのもありましたし、環境も県内の公立では唯一人工芝だったので、『ここでやりたいな』と思って選びました。ハイボールに関しての技術的な部分は監督に結構言われていて、最初の頃は全然前に出られなかったんですけど、今は自信を持って出られるようになりました」。自身の確かな成長も実感している。
参考にしているのは、Jリーグ制覇も経験している“学校の先輩”だ。「サガン鳥栖の朴一圭選手は、小学校も中学校も一緒なので憧れています。身長はそんなに高くないんですけど、1対1のシュートストップもそうですし、ポゼッションも本当に上手いと思います」。
昨年からレギュラーを掴んだものの、インターハイと高校選手権はどちらもベスト16で敗退。関東大会予選こそベスト8まで勝ち上がったが、最後は正智深谷高にPK戦で敗退し、「その時は自分は1本も止められなくて、相手のGKが2本止めて負けたので、自分の中でも『あの経験を乗り越えよう』とは思っていました」と人知れず想いを抱えてきたが、この日は2本を止めて勝ったことで、PK戦に対する嫌なイメージも払拭されつつある。
3年目にしてようやく手が届きかけている、全国の晴れ舞台。あと1勝を手繰り寄せるために、自分が為すべきことは明確だ。「自分が後ろでゼロで抑えて、ゴールは仲間が獲ってくれるので、その仲間が獲った1点を自分が守り切って勝ちたいです」。
泣いても、笑っても、県予選は次が最後の1試合。今まで味わった悔しさをすべてぶつけ、仲間と奪い取った勝利の先には、夏の北海道を舞台に“南高”が暴れ回るための、最高の景色が広がっている。
(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023
[6.14 インターハイ埼玉県予選準決勝 昌平高 2-2 PK2-4 浦和南高 NACK5スタジアム大宮]
2年生ながら守護神を任されてきた去年から、ずっと悔しい経験ばかりを繰り返してきた。もうそんな想いをするのはたくさんだ。チームメイトのためにも、先輩たちのためにも、そして自分のためにも、このPK戦だけは絶対に負けられない。
「去年も本当に悔しい想いしかしてこなかったので、それを忘れずに、その味わった悔しさを同い年のヤツらに伝えて、『自分がやってやる』という気持ちで、ここまで来ました。でも、まだこの次もあるので切り替えたいですね」。
2018年以来、5年ぶりとなる夏の全国出場にあと1勝と迫った浦和南高。そのファイナル進出をGK金悠聖(3年=埼玉朝鮮初中級学校出身)の果敢なPKストップが、力強く引き寄せた
前半はとにかく攻められ続けた。準決勝の相手はプレミアリーグEASTを主戦場に置く、昨年度のインターハイ全国4強の昌平高。優勝候補筆頭の強豪を相手に、浦和南は防戦一方の展開を強いられる。
金は前半6分と8分に続けて訪れたピンチを、ファインセーブで辛うじて凌いだものの、16分には相手との1対1を防いだボールを押し込まれ、先制点を献上。その後もゴールポストとクロスバーに1度ずつ決定機を救われ、さらに39分にも相手の決定的なチャンスをビッグセーブで阻止したが、1点のビハインドを背負って前半は終了した。
「前半は結構押し込まれる時間が多かった中で、1失点に抑えられたのは大きかったかなと思います。この大会は今までゼロで抑えていたので、失点した時はみんな『ヤバイ、ヤバイ』となったと思うんですけど、自分も声を出して落ち着かせました」。金は冷静に劣勢の40分間を振り返る。
ハーフタイムに野崎正治監督の喝も入ったという後半は、セットプレーから2ゴールを奪って浦和南が鮮やかに逆転したものの、相手もそう簡単に終わるようなチームではない。最終盤の後半40分にクロスからヘディングを叩き込まれ、2-2の同点に。「入った瞬間は『うわ!ヤバイ』とみんなも自分も思ったんですけど、すぐに切り替えましたし、PK戦も視野に入れて練習してきたので、まずはみんなで失点しない気持ちを合わせて挑みました」と金も言及した延長でも決着は付かず、勝敗の行方はPK戦へともつれ込む。
実はPK戦は、苦手だったという。「これまでは金も全然PKを止められていなかったので……」と明かしたのはキャプテンのDF橋本優吾(3年)。本人も「練習でも普段からPKはやっていたんですけど、自分はあまり止められていなかったんです」と口にしたが、そんなことは言っていられない。覚悟を決めて、11メートルの勝負へ胸を張って向かう。
先攻の浦和南は1人目が失敗。後攻の昌平1人目のキックは、金が飛んだ方向の逆を突いて成功する。いきなり背負ったビハインド。だが、浦和南の守護神は相手の2人目と対峙する前に、いったん落ち着いて周囲を見渡すと、あることに気付く。
「試合前にも言われてはいたんですけど、ちょっとアガってしまって(笑)、1回落ち着いて周りを見てみたら、ベンチで濱田(駿)先生が『こっちだ』と指示してくれていたんです」。
2人目にもゴールを許したが、指示通りに飛んだ方向は合っていた。迎えた3人目。ベンチを見る。「今度は右だ!」。ストップしたボールを、大事に抱えながら咆哮する。「1本目を止められた時に、自分でも自信になりました」。もう、迷いはなくなった。
4人目。ベンチを見る。「今度も右だ!」。左手1本で弾き出したボールは、クロスバーに当たって自分の目の前で弾む。「2本目も自信を持って止めました。もう左手に当たった感触が良かったので『大丈夫だ』と思いました」。圧巻のPK2本ストップ。浦和南の5人目が冷静にキックを沈めると、チームメイトたちが金の元へと駆け寄ってくる。「本番で止められたので結果オーライだと思います」と笑った背番号1の躍動が、チームを決勝へと導いた。
もともと浦和南へと進学してきたのは、指揮官の存在が大きかったという。「野崎先生が川島永嗣選手を教えていたというのもありましたし、環境も県内の公立では唯一人工芝だったので、『ここでやりたいな』と思って選びました。ハイボールに関しての技術的な部分は監督に結構言われていて、最初の頃は全然前に出られなかったんですけど、今は自信を持って出られるようになりました」。自身の確かな成長も実感している。
参考にしているのは、Jリーグ制覇も経験している“学校の先輩”だ。「サガン鳥栖の朴一圭選手は、小学校も中学校も一緒なので憧れています。身長はそんなに高くないんですけど、1対1のシュートストップもそうですし、ポゼッションも本当に上手いと思います」。
昨年からレギュラーを掴んだものの、インターハイと高校選手権はどちらもベスト16で敗退。関東大会予選こそベスト8まで勝ち上がったが、最後は正智深谷高にPK戦で敗退し、「その時は自分は1本も止められなくて、相手のGKが2本止めて負けたので、自分の中でも『あの経験を乗り越えよう』とは思っていました」と人知れず想いを抱えてきたが、この日は2本を止めて勝ったことで、PK戦に対する嫌なイメージも払拭されつつある。
3年目にしてようやく手が届きかけている、全国の晴れ舞台。あと1勝を手繰り寄せるために、自分が為すべきことは明確だ。「自分が後ろでゼロで抑えて、ゴールは仲間が獲ってくれるので、その仲間が獲った1点を自分が守り切って勝ちたいです」。
泣いても、笑っても、県予選は次が最後の1試合。今まで味わった悔しさをすべてぶつけ、仲間と奪い取った勝利の先には、夏の北海道を舞台に“南高”が暴れ回るための、最高の景色が広がっている。
(取材・文 土屋雅史)
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