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確たる基準は「“南高”がやるべきことをやっているか」。昨夏全国4強の昌平を浦和南がPK戦で逞しく撃破!

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浦和南高はPK戦で優勝候補の昌平高を撃破!

[6.14 インターハイ埼玉県予選準決勝 昌平高 2-2 PK2-4 浦和南高 NACK5スタジアム大宮]

 その基準はハッキリしている。相手がどこであっても、ステージがどこであっても、そんなことは関係ない。『“南高”がやるべきことをやっているか』。それこそが彼らが携えている唯一無二のベースだ。

「『自分たちがやってきたことをやろう』と、この大会を通じてずっと言われてきましたし、この結果はそのやってきたことができたからで、自分たちがそこを徹底できたのが良かったなと思います」(浦和南高・橋本優吾)。

 徹底することを徹底した結果の、粘り勝ち。令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技埼玉県予選準決勝が14日、NACK5スタジアム大宮で開催され、連覇を狙う昌平高と5年ぶりの全国を目指す浦和南高が激突。お互いに2点ずつを獲り合ったゲームは、PK戦でGK金悠聖(3年)が相手のキックを2本ストップした浦和南が、昨年度のインターハイで全国4強へと進出した昌平を退け、決勝へと勝ち上がっている。

「前半は硬くなっていて、全然自分たちが思っているようなプレーができなかったです」と浦和南のキャプテンを務めるDF橋本優吾(3年)が話したように、昌平が立ち上がりから牙を剥く。前半6分にはMF大谷湊斗(2年)が力強いドリブルから右へ流し、MF前田大樹(3年)が放ったシュートは金にファインセーブで弾かれるも、いきなりの決定機。8分にもやはり大谷が中央で仕掛けながら左へ振り分け、突破したMF長準喜(3年)の枠内シュートはここも金がファインセーブで回避。水際で踏みとどまる。

 だが、スコアが動いたのは16分。ここも大谷からスルーパスが出ると、3列目から飛び出したMF土谷飛雅(3年)が迎えたGKとの1対1は金がファインセーブで凌いだが、こぼれをFW小田晄平(3年)が頭でプッシュ。ゴールカバーに入ったDFも必死に掻き出したものの、副審はフラッグを上げて得点とジャッジ。昌平がまずは1点のリードを奪う。

 以降も攻勢は昌平。19分に前田が叩いたシュートは右のポストに跳ね返り、21分にも右から前田が打ち切ったシュートは、ここもクロスバーにヒット。28分には右から前田が上げたクロスに、ダイレクトで合わせた長のボレーは枠の右へ。39分にも右からDF田中瞭生(3年)がグラウンダーで打ち込んだシュートは、金がビッグセーブで応酬。「何点獲られていてもおかしくなかったですから」とは浦和南を率いる野崎正治監督だが、前半は1-0のままで40分間が推移した。

「ハーフタイムに監督から『何しに来たんだ』と喝を入れられました」(橋本)「ハーフタイムに監督に結構喝を入れられて、気を引き締めて後半に入りました」(金)。その時のことを、彼らの“監督”はこう振り返る。「『前半は何やってるの?』って。前半で4,5点獲られていたら終わりでしたから、ハーフタイムにどやしましたよ。要は『戦ってないよ』ということですよね」(野崎監督)。

 後半8分。浦和南が右サイドで獲得したFK。10番を背負うMF伊田朋樹(3年)が蹴り入れたボールを、ファーで橋本が懸命に折り返すと、混戦の中からFW掛谷羽空(2年)が身体でボールをゴールネットへ押し込む。「やっぱり得点ですよね。得点を獲ると、みんなに目に見えない力が働くというかね。あのFKが大きかったと思います」(野崎監督)。1-1。同点。

 26分。浦和南がここも右サイドで手にしたCK。伊田が丁寧に蹴ったキックは、いったんDFに弾かれたものの、いち早く落下地点に入ったMF牛田晴人(3年)がエリア外からダイレクトで叩いたボレーは、凄まじい軌道を描いてゴールネットへ突き刺さる。「いつも『ゴール前では絶対にボールを止めないでダイレクトで打て』と言われているので、牛田がいつも言われていることをやった結果だと思います。でも、凄かったですね(笑)」(橋本)。2-1。逆転。浦和南が一歩前に出る。

「点を獲るべきところで獲れないという弱さが出たかなと思います」(藤島崇之監督)。追い込まれた昌平は、それでも諦めない。終了間際の40分。相手陣内深くに押し込み、長のパスを受けたDF田尻優海(3年)が丁寧にクロスを上げると、ファーへ潜った大谷が執念で頭に当てたボールは、左スミのゴールネットへ弾み込む。2-2。再び同点。もつれ込んだ前後半10分ずつの延長戦で得点は生まれず、決勝へと進出する権利はPK戦へ委ねられる。

 先に輝いたのは昌平の2年生守護神だ。先攻の浦和南1人目。自身の右に飛んできたボールを、昌平のGK佐々木智太郎(2年)は完璧なセーブで弾き出す。

 そうなれば浦和南の3年生守護神も黙っていない。以降のキッカーは全員が成功して迎えた、後攻の昌平3人目。自身の右に蹴り込まれたボールを、金は完璧な反応で大事に抱えるようにキャッチする。浦和南4人目のキックは、佐々木も弾いたものの、バウンドしたボールはゴールネットへ。昌平の背番号1は天を仰いで悔しがる。

「1本目を止められた時に、自分でも自信になりました」。浦和南の背番号1は、ゾーンに入っていた。昌平4人目。金の伸ばす左手に当たった球体は、クロスバーにぶつかって、ピッチの中に戻っていく。

 浦和南5人目。延長から投入されたDF木村孔亮(3年)が左足で蹴ったボールがゴール右スミへ収まり、勝負あり。「子どもたちには言わなかったですけど、今の時点では『どこかしらでやられるんだろうな』とは思っていましたから、子どもたちがよく頑張ったと思います。それしか表現はないです」とは野崎監督。浦和南が激闘を制して、全国大会に王手を懸ける結果となった。

 印象的なシーンがあった。手に汗握る緊張感のあふれたPK戦。浦和南の3人目として登場したキャプテンの橋本は、スポットに到着すると、斜め前にいた主審の方を向いて一礼する。さらにGKの逆を突いてキックを成功させると、ゴールマウスに戻る金を激励したのち、再び主審の方へ向き直って、一礼してからチームメイトの待つ列へと戻っていった。

 そのシーンについて尋ねられた橋本は、「“南高”は礼儀も大事にしているので、高校に入ってからそれはいつも心掛けています」ときっぱり。この一連は野崎監督を筆頭に、スタッフと選手で築き上げてきた“南高らしさ”が現れた、象徴的な光景だったのではないだろうか。

 PK戦で相手のキックを2本ストップし、勝利の立役者となった金について、指揮官が言及した言葉も趣深い。「それは彼の“南高”のゴールを守る役割ですから、普段通りにやれということです」。勝利の直後は大喜びしていた金が、試合後に「まだこの次もあるので、切り替えたいです」と冷静に語っていた姿も何とも頼もしい。

 チームの一体感は、応援席を見ていてもよくわかる。バックスタンドに陣取った赤い応援団は、失点しても、得点しても、途切れることなく大声で歌い、飛び跳ね、勝利の瞬間は歓喜を爆発させていた。



「初戦からずっとああいう形で応援してきてくれて、本当にみんなには感謝しかないですし、応援の人たちは練習が終わった後もみんなで集まって応援の練習をやってくれたりしていて、自分もそれを見てきたので、やっぱり本当に感謝しかないですね」。橋本の言葉は、間違いなくピッチに立っている選手たちの共通認識だろう。

「ここで勝っても何も手に入れていないんだから、次だよと。浮かれているんじゃないよ、ということですよね」とは野崎監督だが、もちろん選手たちもそのことは十分に理解している。「まだ次もあるので、これで勝っても満足せずに、次に勝たないと意味がないので、次ももう1回勝って、北海道に行けるように頑張りたいと思います」(橋本)。

 その基準は『“南高”がやるべきことをやっているか』。大勢の観衆が詰めかけるであろう日曜のNACK5スタジアム大宮でも、全国出場の懸かった大事なファイナルでも、浦和南のやるべきことは、いつだって何1つ変わらない。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

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