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「お互いのストロングを尊重する」というストロングの価値。流経大柏は千葉明徳に3発快勝で“クラシコ”決勝へ!

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総力を結集した流通経済大柏高が決勝進出!

[6.15 インターハイ千葉県予選準決勝 流通経済大柏高 3-0 千葉明徳高 柏の葉公園総合競技場]

 みんなで一歩ずつ、一歩ずつ、マジメに努力して、ここまでグループとしての力を引き上げてきた。お互いがお互いを知り、わかり合い、生かし合ってきたからこそ、自信を深めてきたこのチームで、絶対に全国大会へ出場したい。

「飛び抜けた選手もいないけど、一生懸命ひたむきにやる代で、やらされるんじゃなくて、自分たちでやっているので、こちらから言うことはあまりないですよね。自分の方がパーフェクトじゃないなって思う時がありますよ。彼らを何とか全国に連れて行ってあげたい、じゃなくて、どっちかというと僕らが連れて行ってもらう感じですよね。『頼むよ』って(笑)」(流通経済大柏高・榎本雅大監督)。

 地道に積み重ねた信頼の力で3発快勝。令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技千葉県予選準決勝が15日、柏の葉公園総合競技場で開催され、2年ぶりの全国を狙う流通経済大柏高と、初の千葉制覇を目指す千葉明徳高が激突した一戦は、後半に3ゴールを奪った流経大柏が3-0で勝利。市立船橋高が待つファイナルへと勝ち上がった。

「悪かったわけではないですけど、攻撃で自分たちの時間も少なくて、なかなかゴールまで行けなかったですね」とDF塩川桜道(3年)が振り返ったように、前半の流経大柏はなかなか攻撃の形を作れない。前半2分にはキャプテンのMF中田旭(3年)がわずかに枠を外れる際どいFKを放ち、11分にはDF田中ショーン涼太(3年)のクロスから、長身FW柳裕晋(3年)が合わせたヘディングは千葉明徳のGK山下大輝(2年)のファインセーブに阻まれたが、40分間で記録したシュートはこの2本のみ。攻撃をフィニッシュに結び付け切れない時間が続く

 一方の千葉明徳は中盤でMF元木拓海(2年)とMF伊藤進之将(3年)が攻守を繋ぎつつ、MF菅野文太(3年)が自在なポジショニングでボールを引き出せば、右のMF櫃本泰輝(2年)と左のDF藤沼海(3年)、両ウイングバックも機を見て積極的に攻撃参加。13分には元木の右クロスから、FW岡本流星(3年)が狙ったボレーはゴール右へ逸れたものの、好トライを見せると、40分には決定機。左サイドを巧みなターンで抜け出したFW白天翔(3年)がそのままシュート。軌道はクロスバーを越えたが、あわや先制というシーンにどよめくスタンド。ただ、前半はスコアレスのままで推移する。

 ハーフタイム。流経大柏の選手たちは冷静だった。「みんなでちゃんと『どこが悪かったか』と言い合えるのは今年の良さでもあるので、そこでちゃんと話し合えました」(塩川)「『最後に勝っていればいいので、焦れないでやろう』ということと、個人のところもチーム全体のところも、メンタル面も含めていろいろな話をしました」(中田)「ちょっと交代を入れて少しバランスは変えましたけど、そんなに大きな指示もなく、やっていることは悪くないので、続けようという感じでしたね。むしろ『僕が焦れないように』と思うぐらいでした」(榎本監督)。

 後半3分。流経大柏はDF渡邊和之(2年)との連携でMF柚木創(2年)が左サイドを抜け出すと、そのまま思い切りよく右足一閃。ボールは鮮やかにゴールネットへ突き刺さる。「サイドに入った時に孤立させないように、周りの関わりをもっと出そうとはハーフタイムに言っていました」という塩川の言葉通り、厚みのあるサイドアタックから見事な先制点。流経大柏が1点のリードを奪う。

 追い掛ける展開となった千葉明徳は、10分に1枚目の交代カードとしてMF工藤陸豊(3年)を送り込み、攻撃の活性化に着手。14分には菅野のパスから、駆け上がった櫃本のクロスにニアで白が合わせるも、ここは流経大柏GK土佐昂清(3年)ががっちりキャッチ。ディフェンス陣もDF岡本悠都(2年)、MF小関快(3年)、DF徳永塁(3年)で構成した3バックを中心に、安定した守備で攻撃を下支えするものの、同点には至らない。

 すると、追加点が生まれたのは16分。右サイドで獲得したCKをレフティの渡邊が蹴り込み、塩川のヘディングは山下に弾き出されたものの、田中が頭で残したボールを「ボールが動いている時に、身体の向きでゴールを獲る準備はしていました」という中田がゴールネットへ流し込む。2-0。次の1点も流経大柏が記録する。

 とどめの一撃は37分。後半開始から投入されたMF道白優斗(3年)は左サイドを単騎で運ぶと、躊躇なく右足で打ち切ったシュートは、右のポストを叩いてゴールネットへ転がり込む。この3点目で勝負あり。「3試合連続で失点ゼロなので、凄く守備が安定していますし、それが一番大きいですね。安心して見ていられます」と榎本監督が守備陣も称えたように、守っては相手の攻撃を無失点に抑え、攻めては複数のバリエーションで3得点を挙げ切った流経大柏が、力強く決勝へと駒を進める結果となった。

 この大会の流経大柏は、最前線に190センチを超える長身FWの柳を起用している。プレミアリーグでのスタメン出場はここまで1試合だけ。決して器用なタイプではないが、その圧倒的な高さは間違いなく相手の脅威になっており、1回戦と準々決勝ではゴールも記録した。

「結構効いているんですよ。1点目のゴールも柳がずっと身体を張って、その周囲で細かくやったゴールじゃないですか。周りもちょっとアイツを使うのが上手くなってきたので、やれないことも多いですけど、そういうストロングを生かせばいいんじゃないかなって」とは榎本監督。塩川も「裕晋は単純な高さで絶対に負けないので、そういうところもみんな理解していますし、『絶対に勝てる』という信頼があるからこそ、裕晋をおとりにして、周りが連動できているので、『お互いを知る』ということがしっかりできていると思います」ときっぱり。柳は周囲の理解と自身の努力で、今大会のキーマンになりつつあるようだ。

 だが、それは柳に限ったことではない。「自分と力也もヘディングは強いので、そういう自分たちの持ち味は出せていると思います」と話した塩川とDF高橋力也(3年)は空中戦と対人の強さに威力を発揮。「普段のリーグ戦では90分やっていたので、今日はそこまで体力面で気になるところはなかったですね」と言い切る中田は底なしの運動量とリーダーシップ。田中の推進力や、渡邊の左足も、試合の中では効果的に機能している。

 榎本監督の語った言葉が興味深い。「この準決勝と決勝なんてわかりやすく人生の分岐点になるようなゲームなんだから、『とにかく自分のストロングを出せ』と。そうするとやっぱり周りの選手たちも、その良さを使ってあげようと思いますし、それがまさにチーム力であるし、チームワークだと言って送り出したんです」。

 その指揮官のメッセージについて問われた塩川は、こう話している。「エノさんも試合前からずっと言っているんですけど、『どんな選手かをみんなが知る』というか、みんなが選手1人1人の長所を生かすために、どうプレーするかは意識していると思いますし、それぞれのストロングを出せるようにみんなが支え合ってやっているので、よくみんなのストロングが出ていますし、チームとしてお互いの選手の特徴をちゃんと理解していると思います」。

 決勝の相手は最大のライバルとも言うべき、市立船橋に決まった。「なかなか流経史上でも、これだけ自分たちで準備して、自分たちで声を掛け合ってという代はないので、だからこそ、成功してほしいなって。それこそ後輩たちにも3年生のこういう姿勢が結果に繋がると思ってほしいですよね」(榎本監督)。

 決して順調に歩んできた代ではないからこそ、個々のできることを結集させてチーム力を高めてきた。みんなで育んできた『お互いのストロングを尊重する』というストロング。どんな状況を突き付けられても、2023年の流経大柏は、そう簡単に崩れない。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

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