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ユース取材ライター陣が推薦する「インターハイ注目の11傑」vol.2

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土屋記者が注目するDF田辺幸久(大津高、3年)

 令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技が29日に開幕。ゲキサカでは「インターハイ注目の11傑」と題し、ユース年代を主に取材するライター陣にインターハイ予選注目の11選手を紹介してもらいます。第2回は(株)ジェイ・スポーツで『Foot!』ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任し、現在はフリーランスとして東京都中心にユース年代のチーム、選手を取材、そしてゲキサカコラム『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』も連載中の土屋雅史記者による11名です。

土屋記者「今年は北の大地、旭川で開催されるインターハイ!真夏の北海道を彩るこの大会で、是非注目してほしい11人をピックアップしました。今回も設けている選考基準は 「1チーム1名」と「過去に11傑ではご紹介したことのない選手」です。ようやくコロナ禍も収束しつつあり、応援の声も帰ってきたタイミングでの今大会。出場する選手たちは多くの人の声援をパワーに変えて、是非一生の思い出を作ってほしいと思います!」

以下、土屋記者が推薦する11名

GK新渕七輝(成立学園高、3年)
チームの誰もがそのムードメーカーぶりを称える、圧倒的なエネルギーを携えた守護神だ。本人も「自分は気合で乗り切ろうとか、ガッツで何とかしてやろうという性格なので、そういう元気や気合はみんなに伝えている部分もあります」と言い切る明るさが心地良い。もちろんプレーもクオリティは十分で、とりわけ目を惹くのは守備範囲の広さ。「一度決めたら思い切って出ようというのが自分のスタイル」と、それこそペナルティエリア外でも判断良く飛び出して、ピンチを回避する大事なタスクも担っている。ちなみに憧れの選手を尋ねると、「ブッフォンです。ユヴェントスの時から『ああいうふうになりたい』と思って、部屋にも『ブッフォンのような守護神になる』みたいな字を、習字みたいな感じで勝手に書いて貼っています(笑)」との答えが。“成立学園のブッフォン”が全国での躍進を真剣に狙う。

DF庄子羽琉(旭川実高、3年)
2年時からレギュラーを務め、昨年のインターハイも初戦突破をピッチで味わった右サイドバックは、今シーズンに入ってキャプテンに就任。「逆の立場になって考え、相手の性格や状況を見て伝え方や言葉選びを工夫すること」を心の中に携え、11年ぶりにプレミアリーグを戦うチームを、力強く束ねている。ここまでのプレミアで唯一の白星を挙げた開幕戦の横浜F・マリノスユース戦では、CKからアシストを記録しており、「偶然ではなくて積み重ねたもので、セットプレーは自分たちの武器」と口にする庄子の右足が攻撃の重要な武器であることは間違いない。今回のインターハイは地元の旭川開催ということもあり、周囲からの注目が集まることは避けられないが、世代最高峰のステージで真剣勝負を重ねてきた経験値は、確実に個人とグループの成長を促しているはず。その中でもこの攻撃型サイドバックの躍動が、旭実の上位進出の必須条件だ。

DF山本虎(青森山田高、3年)
「高校に入ってからはケガが多くて、去年まで結果を出せなかった分、今年はキャプテンでもあるので、チームとしても結果を出さないといけない1年間だと思っています」。並々ならぬ決意を口にしたのは春先のこと。有言実行。ここまでのプレミアリーグEASTではリーグ最少失点タイを誇る守備陣を逞しくまとめ、首位を快走するチームもしなやかに牽引してきた。「試合や練習でも自分がミスしたら失点するぐらいの気持ちでやっています」と自身に対しても高いハードルを課している中で、際立つのは左右両足で繰り出せる正確なロングフィード。突破力のある両サイドハーフへ一発で付けられるそれは、今季の青森山田の攻撃の武器になりつつある。印象的な名前は「父に聞いたんですけど、『虎のように強くなれ』みたいな意味で付けてくれました。なかなかいない名前なので気に入っています」とのこと。“青森の虎”が日本一奪還に堂々と挑む。

DF高萩優太(帝京長岡高、3年)
極めて気が利いている。「スピードはあまりない方なんですけど、そこはうまく予測と判断で補うようなプレーが特徴だと思います」との自己分析通り、最終ラインの中央でコンビを組むDF坪田悠一郎(3年)が積極的に相手を潰しに行けば、自身は絶妙のポジショニングでセカンドボールの回収も含めたピンチの芽を摘み続ける。その上、「自分はヘディングと1対1の対人は自信を持ってやっていて、そこもストロングだと思います」と言うのだから、つまりは何でもできるということだ。「そこまで身長はないのに、センターバックで世界と戦っているので、チアゴ・シウバは参考にしていますし、ずっと好きなのはセルヒオ・ラモスで、強い気持ちを持って土壇場で点を決めたりするようなところは、自分にもっと必要かなと思っています」。目指すはチアゴ・シウバとセルヒオ・ラモスのハイブリッド。帝京長岡の現代型センターバックから目が離せない。

DF田辺幸久(大津高、3年)
この世代でも指折りの左サイドバックであることに異論はないだろう。高校1年の秋まではフォワードだっただけあって、サイドを駆け上がってクロスを上げるだけではなく、常に自らゴールを陥れようと隙あらばシュートを打ちに行くような攻撃姿勢は、爽快感すら覚えるほどだ。本人は「とりあえず守備は『負けたくない』という気持ちだけでやっています。“間合い”とかよくわからないので(笑)」と笑うが、「身体能力というか、スピードとジャンプ力は他の人より自分の方が上だと思います」とも口にするように、もともとの能力の高さに加え、プレミアの舞台で継続的にハイレベルなアタッカーたちと対峙することで蓄えてきた経験値をプラスして、その守備力も着々と向上させてきた。同じ九州、同じポジションではU-17日本代表でも活躍している神村学園のDF吉永夢希(3年)が注目されているが、中体連出身の熊本産左サイドバックも夏の主役候補として挙げておきたい。

MF斎藤陽太(前橋育英高、3年)
思考するドリブラーは、発する言葉も興味深い。「もともと小学校の頃から『ドリブルが上手い』と言われてきたんですけど、どっちかと言うと簡単にワンツーで預けて入っていく方が好きですし、それで敵が来るならちょっと剥がしてという選手なので、自分はドリブルが得意とはあまり感じないです」。ならばと自身のストロングを尋ねると、「小さい時から足の振りは速いと言われていて、切り返してから速いクロスを上げることで、ドリブルよりも相手を剥がせているのは、少し位置をずらしたあとのキックの速さが生きているんだと思います」と冷静に分析。常にサッカーを考えている様子が窺える。中学時代はアルビレックス新潟U-15でプレーしていたが、「選手権で優勝した代を見て『ああ、ここに行きたいな』と思いました。直感的に『ここだ』と」前橋育英の門を叩いたという経緯も。深慮と直感を兼ね備えるアタッカーは、全国連覇の重要なキーマンだ。

MF太田隼剛(市立船橋高、3年)
2年生だった昨シーズンからキャプテンを任されてきた、稀有なリーダーシップの持ち主だ。「去年は自分がやらなきゃという気持ちが強すぎて、仲間を信じる部分をあまり出せなかったので、今年は自分も先頭に立ちますけど、苦しい選手を後ろから押してあげるイメージでやっています」と自身の在り方もブラッシュアップ。チームの中心に太い軸を通している。プレー面の進化も著しく、ジュニア時代のチームメイトと対峙したプレミアリーグEASTの柏レイソルU-18戦で、ゴールまで60メートル近い位置から、GKの頭上を正確に射貫く超ロングシュートで得点を記録したシーンは、見る者すべての度肝を抜いた。「先輩方が築いてきた伝統も守りつつ、自分たちで新たな歴史を作っていく意味でも、しっかりといろいろな新しいことにチャレンジしながら、強い市船をもう一度取り戻したいと思います」。真夏の旭川で目指すのは、6年ぶりとなる日本一の一択である。

MF高田優(静岡学園高、3年)
「自分でも10番を付けることになった時は凄くビックリしましたし、気にしないようにと思いながら、最初の方は気負ってしまいましたね。今ももちろん重圧もあるんですけど、自分のプレーをしようと思いながらやっています」。ここ2年は古川陽介(磐田)、高橋隆太(奈良)と世代屈指のドリブラーが付けてきた“ガクエンの10番”を、今年はゲームメイクに優れたレフティが背負う。「ボールの持ち方もパスの出し方も上手いなと思っているので、ディ・マリアの動画はよく見ています」と口にするのも頷けるようなプレースタイルで、自ら仕掛けることも、周囲を使うことも、その時々で使い分けながら、チームの攻撃を活性化していく。自身としては初の全国にも「もちろん目指すところは全国優勝ですけど、それを狙いつつもチームがもうひと回り、ふた回り成長できるような大会にできたらいいなと思います」ときっぱり。才気あふれる王国の10番でレフティ、要注目。

MF松原史季(武南高、3年)
1年生から10番を託されてきた埼玉屈指のタレントが、とうとう全国のステージへ初めて登場する。小中と浦和レッズのアカデミーで身に着けてきたパスアンドコントロールに加え、年代別代表でその重要性を痛感させられたトラップの正確性を向上させ、名門の攻撃を力強く引っ張ってきた。今年に入ってとりわけ刺激を受けたのは、浦和アカデミー時代のチームメイトでもある早川隼平と、代表でともにプレーした貴田遼河(名古屋)がプロのピッチで躍動する姿。「代表で一緒にやった選手や、小学校からの仲間が素敵なスタジアムで大観衆に見守られながら活躍しているというのをテレビで見ていて、『本当に同い年なのかな』って(笑)。でも、まだまだこれからなので、彼らを追い抜かすぐらい頑張っていきたいです」。その決意を現実のものにするために、ようやく辿り着いた晴れ舞台で、その持てるポテンシャルを存分に解き放つ準備は万端だ。

FW小山真尋(近江高、3年)
「小学校低学年の時に、地震の時に活躍している消防士さんをテレビで見て『カッコいいな』と思って、そこからずっと消防士になりたいという夢があるので、高校でサッカーを最後にする予定です。だから、インターハイも選手権も全国に出て、全国でベスト4というチームの目標を達成できるように、ラスト1年を全力でやるだけです」。180センチの体躯を誇るストライカーは、とにかく前線で身体を張って、チームメイトのためにボールを収め、プレスに奔走する。今シーズンはAチームとBチームを行き来するなど、その定位置は必ずしも約束されているわけではないが、こういう選手の好パフォーマンスがトーナメントでは何よりもチームを勢いに乗せるはず。「泥臭く戦うことは前提で、しっかり繋ぐサッカーが見ていて面白くて、『ここでやりたいな』と思って」入学した“近江愛”も携える小山のゴールが、みんなで掲げた全国4強には絶対に欠かせない。

FW西丸道人(神村学園高、3年)
神村学園としても初参戦となったプレミアリーグで、開幕から7試合連続ゴールを達成し、積み上げた得点数は12。「『オレが点を獲らないと勝てないな』という強い気持ちはあったので、チーム内で点を獲る努力は一番していたと思うんですけど、いつも見ていたプレミアという舞台でこれだけ点が獲れていることは、自分でも驚いていますし、間違いなく自信になっています」と話していたが、中断前のリーグ戦では4戦不発。それゆえに今大会に向けて、ゴールへの渇望感は極限まで高まっているに違いない。昨年度はインターハイも、選手権も、敗退の瞬間をピッチで突き付けられた。キャプテンとして迎える高校ラストイヤー。「失点しても点を獲れば勝てるので、『3失点してもオレが4点獲るしかない』という気持ちで試合に入るようにしています」という年代トップクラスのストライカーは、果たして真夏の全国で得点を奪い続け、チームに勝利を引き寄せ続けられるか。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。Jリーグ中継担当プロディーサーを経て、『デイリーサッカーニュース Foot!』を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。ゲキサカでコラム、『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』を連載中。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。『蹴球ヒストリア~「サッカーに魅入られた同志たち」の幸せな来歴~』(株式会社ソル・メディア)」


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