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重要な一戦は警告累積で出場停止に。ピッチサイドからチームの敗退を見つめた尚志DF渡邉優空は精神的な成長を心に誓う

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準々決勝は無念の出場停止となった尚志高DF渡邉優空(3年)はピッチサイドから試合を見つめる

[8.2 インハイ準々決勝 尚志高 0-1 桐光学園高 カムイの杜公園多目的運動広場A]

 準々決勝に臨むこの日のチームのメンバーリストには、1行だけ空欄があった。

「今日はみんな精一杯頑張ってくれたと思うんですけど、やっぱり自分がいれば最後のフォワード起用で基点にもなれましたし、試合以前のところで自分がくだらないことをして、結局累積で試合に出られずに、チームを負けさせてしまったなと。尚志は福島だけではなくて、徳島市立も丸岡も前橋育英も、自分たちが勝ってきた相手の想いも背負ってきたので、行き場のない悔しさがあります」。

 “空欄”を埋めなくてはいけなかった男は、ユニフォームではなく、チームのポロシャツを着用しながら、そう言って唇を噛み締める。尚志高(福島)を束ねるキャプテン、DF渡邉優空(3年=湘南ベルマーレU-15出身)は警告累積により、桐光学園高(神奈川1)との一戦にはベンチに入ることも叶わなかったのだ。

 激しい一戦だった。プレミアリーグ勢対決となった3回戦の前橋育英高(群馬)戦。前半にFW桜松駿(3年)のPKで先制したチームは、ボールこそ動かされながらも、1点のリードを保ったままで終盤までこぎつけると、後半27分に仲村浩二監督は3枚替えを決断。システムも4-4-2から3-6-1に変更し、3バックの中央に190センチの渡邉が送り込まれる。

「3バックはプレミアリーグでも結構やっていて、前回のプレミアリーグの前橋育英戦も3バックで閉めて勝ったゲームだったので、成功体験があったことは大きかったです。監督からも声を掛けてもらって準備はしていました」(渡邉)。

 着々と時間を潰していく中で、33分にその一連は起きる。セットプレーの流れで前線に上がっていた渡邉は、右サイドをドリブルしていたものの、タッチを割ったという判定で相手ボールのスローインになった瞬間、ボールを大きく蹴り出してしまう。

「テンションの高い試合だということは試合前からわかっていて、そのテンションがちょっと裏目に出てしまいました……」。主審はイエローカードを提示。1回戦でもやはり同じ色のカードをもらっていた渡邉は、これで警告累積となり、準々決勝の出場停止が決まったが、それに気付いたのは試合が終わった後だったという。

「1日空いたので、自分の中で気持ちは切り替えていました」(渡邉)。休養日を挟み、迎えた桐光学園との準々決勝。試合前の集合写真で、尚志の選手たちはケガで旭川に来ることができなかったMF出来伯琉(3年)の6番と渡邉の20番、2つのユニフォームを掲げ、この日の勝利を誓う。

 だが、前半の早い段階で先制されたチームは、なかなか決定的なチャンスを作れないまま、時間ばかりが経過していく。「負けている時のパターンで、パワープレーで10分ぐらい優空のフォワードというのも練習していたんですけどね」とは仲村監督。結局、スコアは0-1。1点のビハインドを跳ね返せずに、尚志はこのラウンドでの敗退を余儀なくされた。

 ピッチサイドからチームの敗戦を見つめていた渡邉は、「今日は正直全然内容が良くないことは感じていて、自分にできるのはもう声を出すことだけだったので、外から声を出していたんですけど、技術的に細かいミスも多かったですし、桐光学園の方がアグレッシブに、ガツガツと強度高く来ていたので、ウチが前育戦でやっていたようなことを相手にやられてしまいました」と悔しげに声を絞り出す。

「自分の特徴は試合に出ていない時でも声を出したり、チームを鼓舞する、雰囲気を上げるという役割もあると思っているので、そこを今日は一番近くでできなかった悔しさはあります。みんなもその想いを背負ってプレーしてくれたと思うんですけどね」。そう続けた言葉に、チームの力になれなかった無力感も滲む。

 指揮官は厳しくも優しい言葉で、キャプテンの今後の奮起を促す。「(渡邉がいないことで)チームのオプションも減ってしまったわけで、そういうこともいらないイエローカードから生まれているというか、そういうところが『まだ成長段階なんだろうな』と思うので、頑張って人間的に成長してほしいなと思います」。

「精神面の甘さというのはインターハイが始まる前から言われていましたし、それを直し切れずにここまで来てしまったというのが今回の敗因だと思います。プレミアでも今は3位ですけど、優勝するためには勝ち点を積んでいかないといけないので、この夏からチームとして変わらなきゃいけないと感じています」とチームのここからについて言及したキャプテンは、この日の欠場を経験し、シーズンの後半戦に向けての決意をこう語っている。

「個人としては“累積”はもってのほかなんですけど、ベンチから声を出すだけではなく、自分が試合に出てディフェンス面で跳ね返したり、フォワードで出たら点を獲ったり、基点になったりと、もっとピッチで活躍したいです」。

 もうこんな砂を噛むような想いはしたくない。渡邉は改めてベクトルを自分に向け続け、冬の全国でのリベンジを成し遂げるため、頼れるキャプテンとして、このチームを逞しく束ねていく。

この日の尚志の集合写真では「6番」と「20番」のユニフォームが掲げられた


(取材・文 土屋雅史)
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