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“スーパー”を持って、“スーパー”を制す。「冷静な圧倒的熱量」で尚志を飲み込んだ桐光学園が全国4強!

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激闘の準々決勝を逞しく制したのは桐光学園高!

[8.2 インハイ準々決勝 尚志高 0-1 桐光学園高 カムイの杜公園多目的運動広場A]

 彼らはわかっていた。多くの人は自分たちより相手の方が勝つと思っているであろうことを。だからこそ負けられない。予想は覆すためにある。パワフルな熱量で、球際の執念で、育んできた一体感で、絶対に相手を上回ってやる。

「僕たちのサッカーは戦って、戦って、相手を倒すというサッカーなので、世の中は尚志が勝つと思っていた人が多いと思うんですけど、それを引っ繰り返すことができてとても嬉しいです」(桐光学園高・渡辺勇樹)。

 “スーパー”を持って、“スーパー”を制した、熱き魂の勝利。2日、夏の高校サッカー日本一を争う令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技準々決勝が行われ、尚志高(福島)と桐光学園高(神奈川1)が激突。強烈な圧力で相手を飲み込んだ桐光学園が、前半11分にMF齋藤俊輔(3年)が叩き込んだゴラッソで、1-0と勝利。逞しく準決勝へと勝ち上がっている。

 最初の決定機は前半6分の尚志。仲村浩二監督が「相手の2センターがちょっと引くというイメージを持っていたので、真ん中からだと1枚でセンターバックとの勝負になるかなと思って」と起用法を明かしたように、いつもの左サイドハーフではなく、2トップの一角に入ったMF安齋悠人(3年)が左サイドを単騎で運び切り、そのままフィニッシュ。枠を捉えたボールは桐光学園のGK渡辺勇樹(3年)が弾き出したものの、まずはスピードスターがその威力を発揮してみせる。

 先制点は唐突に。11分。スローインの流れから、右に開いたFW宮下拓弥(3年)が中央へ付けたボールをFW丸茂晴翔(2年)が丁寧に落とすと、「ファーストタッチで良いところに置けたので、迷わず振りました」という齋藤は右足一閃。凄まじい軌道を描いたシュートは、右スミのゴールネットへあっという間に突き刺さる。「『とにかく凄いな』って。『あんなの入るんだ』って思いました」と自ら話すのも納得のスーペルゴラッソ。桐光学園が1点のリードを奪う。優介

 以降は桐光学園のエネルギーがピッチを包み込む。「尚志は4試合目で、この前もかなりタフなゲームをしていたと思うので、そのアドバンテージは少し考えながら、最初から飛ばしていこうと話しました」と鈴木勝大監督が話せば、「自分たちはもう最初からフルパワーでやるというサッカーなので、今日も入りは素晴らしかったと思います」と渡辺。DF川村優介(3年)とDF平田翔之介(3年)のセンターバックコンビはとにかくボールを跳ね返し、MF小西碧波(3年)とMF羽田野紘矢(3年)のドイスボランチは、抜群のボールアプローチでセカンド回収に、ボール奪取に奮闘。相手の攻撃の芽を力強く摘み続ける。

 それでも、35分には尚志に決定的なシーンが。左サイドからDF白石蓮(3年)が上げ切ったクロスに、FW網代陽勇(3年)は完璧なヘディングで落とすと、飛び込んだMF若林来希(3年)がボレーを枠へ収めるも、「焦ることなくボールを見て反応できたので、日頃の練習の成果かなと思います」と振り返る渡辺がビッグセーブで回避。1-0で最初の35分間は終了する。

 後半スタートから動いたのは尚志。「安齋をもともとのサイドのポジションに持っていって、前を得点力の高い駿と網代にしてみました」とは仲村監督。今大会はここまで4得点を挙げているFW桜松駿(3年)を網代と組む2トップへと送り込み、安齋を左サイドハーフへスライドさせる勝負の一手を講じる。

 桐光学園は、動じない。「強い気持ちを持って継続して、笛が鳴るまで戦うということを、ミーティングから、試合前から、ハーフタイムから、徹底して伝え続けました」(鈴木監督)。右サイドバックのDF杉野太一(2年)も、左サイドバックのDF加藤竣(3年)も、強力アタッカーへ果敢に対峙。「センターバックとサイドバックの1人1人が、『1対1には負けない』という強い気持ちを持ってやっていたと思います」とは渡辺。丁寧な守備からMF松田悠世(3年)と齋藤の両翼を生かしたアタックをちらつかせ、尚志のパワーを削いでいく。

 尚志だって、負けられない。35分。DF冨岡和真(3年)、FW笹生悠太(3年)と慎重に繋ぎ、ラインを割りそうなボールを桜松が粘って中へ折り返すも、ここは川村がきっちりクリア。35+3分は左FKのチャンス。MF藤川壮史(3年)が蹴り入れたキックに、DF市川和弥(3年)が合わせたヘディングは、しかしゴール右へ逸れていく。

「自分たちのサッカーができなかったですね。相手の強度に屈したかなと」(仲村監督)「熱い試合に持ち込むことがこの一戦の意味があるというか、桐光学園が成長する貴重な70分にしたいということで戦いました」(鈴木監督)。水色の咆哮が夏空へ轟く。1-0。桐光学園がプレミアリーグ勢の尚志を撃破し、準決勝進出を手繰り寄せる結果となった。



 桐光学園を束ねるキャプテンの渡辺は、この試合へ臨んだチームのメンタルと、チームメイトのパフォーマンスについて、こう話している。「相手が尚志に決まったことで、自分たちよりリーグは上ですけど、同じ高校生なので、ビビらずに、全員で『何が何でも倒してやろう』という話はずっとしていました。ウチの選手も力のある選手ですし、いつも通りの力を出した結果がああなったので、僕からしたらいつも通りやってくれて、頼もしいチームメイトだと思います」。

 鈴木監督の言葉も興味深い。「相手がやっぱり“スーパー”ですから、ウチもやっぱり“スーパー”にならないと対応し切れませんので、そこに対しては恐れることなく対峙したと思いますし、この試合でチームの成長と個の成長は明らかに見られたんじゃないかなと思っています」。

 いわば『“スーパー”を持って、“スーパー”を制す』。年代別代表選手も、プロからの注目を集める選手も揃う“スーパー”な相手に対し、怖じずにぶつかり続け、果敢に走り続け、ポジティブな声を出し続ける。1人1人の持てる力を結集して、生み出した“スーパー”なうねりは、この日の70分間を間違いなく支配し、勝利を引き寄せたのだ。

 難敵を退け、4年ぶりの日本一をその視界に捉えつつあるが、指揮官はユーモアを交えながら、その雰囲気を引き締める。「彼らと言っているのは、誰にも何も恐れることなく、1つ1つの試合を戦っていこうと。すぐに皆さんは優勝とかそういうことを言って、選手を浮わつかせてくれますけど(笑)、僕らはその皆さんが言うことをコントロールするのが仕事なので、まず次に国見を倒す最善の努力を24時間したいと思います」。

 チームのあるべき姿を冷静に口にする、渡辺の言葉が頼もしい。「この大会が始まる前から、勝さん(鈴木監督)も『1つ1つ勝ち上がろう』という話はしていて、こういう試合が終わった後というのは優勝というところを見がちですけど、しっかり自分たちは明日の試合に向けて準備して、それで1つ1つ勝った結果として頂点に立つのが目標ですし、明日の国見相手にも今日と同じように後ろがゼロに抑えれば、前が点を獲ってくれるので、そういう桐光学園らしいサッカーをしたいと思います」。

 次の準決勝も『熱い試合』は約束されている。圧倒的な熱量を放ちながら、それが向かう先を冷静にコントロールできる桐光学園は、スーパーなチームへの階段を一歩ずつ、着実に、上り続けている。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

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