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[関東]追撃のゴラッソは昨季の2部得点王が奪った意地の一撃。大宮内定の東海大FW藤井一志がここから魅せる大学ラストダンス

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1ゴール1アシストの活躍を披露した東海大FW藤井一志(4年=東海大高輪台高/大宮内定)

[10.14 関東大学L1部第17節 東洋大 2-2 東海大 東洋大朝霞G]

 10番を背負う意味は、高校時代から誰よりも強く意識してきた。向けられてきた期待にきっちり応えてきたからこそ、今の立ち位置で戦えていることも、自分が一番よく理解している。ゆえに、目指す。目の前のゴールを、目の前の勝利を。それが望んだ未来に繋がる唯一の方法だから。

「やっぱり『10番を付けている以上は、自分がチームを勝たせなきゃいけない』ということは高校の時から思っているので、ここからチームと自分に流れを持ってくる意味でも、今日は1ゴール1アシストできて、勝ち点1を獲れたことは凄く大きかったと思います」。

 東海大の10番を託されている万能アタッカー。FW藤井一志(4年=東海大高輪台高/大宮内定)の2得点に絡む躍動が、チームに貴重な勝ち点1を力強くもたらした。

「前半は相手のやりたいことをやらせてしまいましたね」と藤井が話した通り、最初の45分間は完全に東洋大のゲームだった。前半7分に先制されると、その後も守勢が続き、43分には追加点も献上。東海大は2点のビハインドを背負って、ハーフタイムを迎えることとなる。

 後半のピッチへ向かう藤井は、覚悟を決める。「あのまま0‐2で終わっていては、『10番を付けている身としては失格だな』と思っていました」。12分にはカウンターからFW桑山侃士(3年=東海大高輪台高)のパスを受け、右サイドでマーカーを外して枠内シュート。ここは相手GKにキャッチされたものの、身体のキレは決して悪くなかった。

 衝撃のゴラッソは26分。MF松橋啓太(1年=東山高)がボールを持った時から、“逆算”が始まっていた。「松橋が持ったら縦パスを狙って来るのは共通認識で、自分の持ち味はあそこで前を向いてゴールに行くことですから」。縦パスを受けたトラップでまずは1人目を外すと、「最初は『カットインしようかな』と思ったんですけど、相手がちょっと中を切ったのが見えたので」寄せてきた2人目の股下を抜き去る。

 フィニッシュのイメージは、世界有数のドリブラーだ。「今日ここに来るバスの中でたまたまアザールの縦に行って、ファーにズドンと決めた動画を見ていて、『今日はこのアザールみたいに一発決めたいな』と思っていたんです」。身体が動く。縦に行って、ファーにズドン。藤井が打ち込んだ軌道はゴールネットへ一直線に突き刺さる。

「反射的に股を抜いて、ストライカーの嗅覚みたいな感じであの角度からコースに打ち込むだけだったので、シュートまでの流れで決まった点かなと。いつもだったら力んでいたと思うんですけど、今日はあの動画を見ていたからか、良い感じに振り抜いてゴールを決めることができましたね」。10番が披露した、まさに“アザール級”の強烈な一撃。たちまちスコアは1点差に。

 完璧なアシストは後半アディショナルタイムの45+2分。左サイドでボールを受けた藤井には明確な狙いがあった。「中に桑山とか高い選手が揃っていて、逆に東洋はそこまで大きな選手は多くなかったので、あそこに速いボールを蹴れば誰かしら飛び込んできてくれるなと」。右足で蹴り込んだインスイングのクロスに、その桑山が頭から突っ込んでいく。

「侃士とはよく2トップを組んでいて“高輪コンビ”とは言われる中で、お互いに良い部分を引き出しながらプレーできていますけど、侃士も僕も『負けたくない』というライバル意識もあるので、それが去年から良い相乗効果として、チームに結果をもたらせていると思います」(藤井)。“高輪コンビ”で執念の同点弾を奪い、2点のビハインドを追い付いてのドロー決着。1ゴール1アシストの結果を叩き出した10番の存在感が、眩く輝いた。

同点ゴールを決めた桑山と抱き合う藤井


 昨シーズンの藤井はリーグ戦で13得点を記録。2部の得点王を獲得し、チームの1部昇格に大きく貢献した。1年時の神奈川県リーグから駆け上がり、ようやく辿り着いたトップディビジョンへの期待に胸を躍らせていたが、そんなタイミングで予期せぬ事態に見舞われる。

「3月に入ったばかりの頃の試合が終わった時に、左のヒザが急に凄く腫れてきて、普段から通っている病院に行ったら『これは完全に半月板が剝がれてしまっているから手術しかない』と。それを言われた時は頭が真っ白になりましたね」。手術に踏み切った藤井は、そこから4か月の戦線離脱を余儀なくされることになった。

 ただ、そのメンタルが必要以上に落ちることはなかったという。「最初はチームが勝っても負けても、そのピッチに自分がいないということが悔しかったですし、心が折れそうになったんですけど、そんな時にチームのみんなが『早く帰って来いよ』と言ってくれたので、『より強くなって戻ってこよう』という意識を持てましたし、本当に周りのおかげで『早く戻ろう』と常に思いながらリハビリできました」。

 その時期を経験したからこそ、この日のゴールにも小さくない意味がある。「復帰してからまだ1ゴールしか挙げられていなくて、監督にも『オマエが決めればチームは勝つから』と言われていて、それはプレッシャーというよりも期待されているなと前向きに考えていましたけど、やっぱりどこか心の中に焦りもありました。でも、去年あれだけ点を獲れたことで、『流れを掴めば点を獲れるかな』という想いはあったので、メチャメチャホッとしました」。それでも、まだ足りない。ここからはもう獲れるだけのゴールを獲り続けるだけだ。



 8月。1つのリリースが大宮アルディージャから発表される。『藤井一志選手(東海大) 2024シーズン加入内定』。それは藤井が“あの日”に誓った「プロサッカー選手になる」という目標が叶ったことを意味していた。

「正直ホッとしたのが一番でした。高校3年の選手権予選の決勝で負けた時に、『オマエはプロになるんだぞ』とチームメイトもみんな言ってくれて、もちろん期待は感じていましたけど、同時にプレッシャーもないわけではなかったんです。それに大学1,2年の頃は思うような結果も出なかったので、高校の川島(純一)先生にも『プロ、難しいかもしれないです……』と相談したこともあったんですけど、それでも川島先生は自分を信じてアドバイスしてくれましたし、もちろんここからが勝負ですけど、プロになったという意味では、まずは“あの日”の敗戦の恩を1つはみんなに返せたのかなと思います」。

 来季からはプロサッカー選手としてのキャリアが幕を開けるが、希望に満ちた藤井のフレッシュな意気込みが頼もしく響く。「自分がJリーグを見始めた時からアルディージャはJ1のイメージが強いので、アルディージャはJ1にいなくてはいけないクラブだと思いますし、自分はアルディージャの歴史に名前を刻んでいけるような選手になりたいなと思っています。内定が出た時もファン・サポーターの方からSNSを通じてだったり、練習に行った時も凄く声を掛けてもらったので、『期待されているな』ということは感じていますし、そういうファン・サポーターの方々の想いも背負って頑張りたいので、アルディージャがJ1へ帰れるように自分の力を使いたいなと思います」。

 残された大学サッカーはもう2か月あまり。この仲間たちと、新たな景色を目にするために、できることは何でもやる。「自分たちの代でインカレに出るというのは、入学時からの目標でもありますし、自分はケガで離脱した分も取り返さないといけないと思っているので、今日の1ゴール1アシストが自分の分岐点だったと思えるように、残り5試合を戦っていきたいですし、自分がチームを勝たせて、1つでも上の順位に上げられるように頑張っていきたいと思います」。

 その両肩には多くの想いが乗せられているが、そんな状況も嫌いじゃない。自身への期待と周囲への感謝を携えた東海大の10番。きっと意志の宿る所に希望は灯る。4年間の集大成へ向かう、藤井のラストダンスから目が離せない。



(取材・文 土屋雅史)
●第97回関東大学L特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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