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【インタビュー】「日本人でも球際やフィジカルで上回れる」ブンデスの“デュエル王”遠藤航が語った適応力の秘訣

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 初挑戦のブンデスリーガ1部でデュエル(1対1の競り合い)勝利数トップ——。日本代表に欠かせない存在となりつつあるMF遠藤航(シュツットガルト)の働きは、欧州トップレベルの舞台でも明確に際立っている。

 ベルギーでの欧州挑戦スタートから2年半、いかにしてこの境地までたどり着いたのか。育成年代で積み重ねた経験も振り返りつつ、その「適応力」の秘訣をオンラインインタビューで聞いた。

―ここまでブンデスリーガ16試合、ほぼフル出場という状況です。率直に現状をどのように捉えていますか。
「個人的にもチーム的にも調子は良いです。もちろんまだまだ満足はしていないし、個人のプレーもチームとしてもまだまだ結果を残せたらと思いますが、試合に出続けていることが僕にとってポジティブですし、初めてのブンデスリーガ1部の戦いで自分の良さを出しながら監督やチームメートの信頼を獲得できているのかなと思っています」

―そうした中、デュエル勝利数249はリーグ最多です。シーズン序盤から日本でも注目を集めている数字ですが、最近は2位以下との差がますます広がっています。この立ち位置はもはや譲れないという気持ちでしょうか。
「そうですね。このデータがあると知ってから、ここで一番を目指そうと思ってやっています。もちろんチームの戦い方によって、デュエル勝利数は変わってきますし、実際にバイエルンの選手が上位にいなかったりもします。なので、デュエルで勝っているからすべていいとは思っていません。ただシュツットガルトがやっているサッカーは攻守にアグレッシブで、自分たちから戦いを挑みに行くので、1対1のデュエル回数はすごく多くなります。その中で勝利数を伸ばしていけるのは個人にとってもチームにとっても良いことだと思っています。中盤でプレーさせてもらっている以上は球際で勝つことで、チームが勢いづいたり、チャンスにつなげることができたり、ピンチを防ぐことができます。ここはこだわってやっていきたいです」
(※第16節終了時点、2位のアウクスブルクDFダニエル・カリジウリとは28回差。バイエルンの最多は13位のFWトーマス・ミュラー)

―Jリーグ時代から球際に強いイメージはありましたが、1対1を重んじるとされるブンデスリーガでここまでの数字を残すと想像していた人はそういなかったと思います。自身の想定はどのようなものでしたか。
「ブンデス2部でも強い選手は多かったので、ブンデス1部の選手はもっと強いと思っていたし、さらに上手さとスピードも上がると思っていました。なので、勝利数1位になっているのは僕も驚いています。ただその一方で、日本人でも、ブンデスの選手相手に球際やフィジカルで上回れるというのを証明したいと思っていました。これまで日本はチームとして闘うとか、俊敏性を活かすとか、『日本人の良さを活かす』と言われる戦いを目指していましたけど、サッカーでは1対1の局面は避けられません。日本人がそういうところで上回っていけば、日本はさらに強くなると思っているので、そこは自分をきっかけにフィジカル的なものの考え方が変わればいいなと思っています」

―ここからは過去も振り返りつつ、さらに掘り下げていければと思います。遠藤選手は南戸塚中での部活動から湘南ユースに進む際、高校3年生の川崎F戦でJリーグデビューをした際、飛び級での世代別日本代表選出など、常に上のレベルに組み込まれながら、そのたびに適応してきたという印象があります。自身の認識はどうですか。
「どちらかというと『ここ』というところで結果を残せるタイプなのかなとは思っています。ただ川崎F戦のリーグデビュー戦はボランチで出ましたが、相手のボランチが中村憲剛さんと稲本潤一選手で、全然何もできずに交代させられたので……。でも、そういう経験をどう活かすかは自分の中で考えられる選手だと思っているし、フィジカル的なところでも自分に必要なものは何かを考えながらやっていました。それと自分は環境が選手を成長させると思っています。最初にユースからトップチームに行った時もそうだし、こうして海外に出てきたこともそうだし、ベルギーからドイツに来て新しい環境に身を置くことも。レベルの高いところに身を置くことが大事だと思っています。その積み重ねで成長していけると思ってやってきました」
(※J1リーグデビューは2010年9月18日の第23節川崎F戦。前半のうちにFWジュニーニョにハットトリックを決められ、チームは1-6の大敗。遠藤はハーフタイムに交代した)

―ただ、そうした高いレベルで壁に当たる選手も多くいます。上のレベルに適応し、抜きん出ることができた秘訣はどこにあると思いますか。
「秘訣ですか……。そこはメンタルと言うのか分からないですけど、いかに自分を客観視できるかというところは一つ大事だと思います。特に僕がシュツットガルトに移籍した時は、最初はレンタルだったので、監督は僕のことを知らないし、他の選手たちも自分のことを知らない。ある意味では一番下からのスタートでした。そこで普段の練習から、自分がポジションを取るために何をしたらいいのかを考えながらやっていました。あとは立場的になかなか試合に出られる状況ではなかったので、ある意味失うものはないからと割り切ってやっていて、そういう時にこそ意外と良いプレーをできることもあります。まずは自分を客観視しながら、どこに目標を置いて、そこに向かって何をしたらいいのかを考えていくことが大事なのかなと思っています」

―いまの飛躍を踏まえると、以前から口にしていた「ボランチで勝負したい」という意識も、そうした客観視の賜物だと思います。Jリーグデビューをボランチで迎えて、最終ラインでのプレーを経て、欧州に出てボランチで活躍していますが、どのようにそう確信するに至ったのでしょうか。
「デビューした当時、監督がソリさん(反町康治氏/現JFA技術委員長)で、チョウさん(チョウ・キジェ氏/現京都監督)がコーチで、あとから聞いたのですが、僕をボランチで使うかセンターバックで使うかの議論はあったみたいです。僕は当時センターバックのほうがやりやすいと思っていたので、最終的にはソリさんがセンターバックで使ってくれて、フィットしてそのまま使われるようになりました。身長はそんなに高くないけど、最初はセンターバックで海外に行けるだろうと思っていたんです。そこはプライドじゃないけど、『こういう選手でも海外に移籍できるんだぞ』と思っていて。ただ、五輪代表でテグさん(手倉森誠氏/現仙台監督)からボランチで使われるようになって、自分の考えが変わるようになりました。チームではセンターバックをやっていましたが、その辺から『海外のスカウトは外国人枠を使ってまで僕のことをセンターバックで取るのかな』とか考えるようになって、ある意味自分を客観視できるようになったというか、『海外に行くならボランチかな』と思うようになりました。なので、リオ五輪でテグさんがボランチで使ってくれたというのが僕にとって大きかったし、考え方が変わるきっかけになったなと思っています」

―ポジションが変わることにイメージはあったんですか。
「僕は良い意味で自分にプライドがないというか、中学生の頃はもともとフォワードをやっていて、トップ下もやったり、ボランチもやったりして、最後にセンターバックになりました。基本的にサッカーが好きでやっていたので、ポジションを変えられることには抵抗がなかったです。そのポジションで自分がどうプレーすればチームがよく機能するのかとか、そこで自分が活躍するにはどうしたらいいのかは、中学校3年間でいろいろ考えながらやっていたかもしれないですね。中学生の頃は全部やっていたので(笑)」

―中心選手だからこそ、チーム内でより重要なポジションを任されていたのだと想像します。そうした重責を任されるという経験は大きかったですか。
「中心的な選手としてやらせてもらっていましたけど、だからこそポジションを変えたという感じでしたね。当時は僕の年代にセンターバックがいなかったから、当時の監督が僕をセンターバックに置いたんです。その前から僕もそうなるのかなと若干予想はしていたし、センターバックをやらせると言われた時にもネガティブにならず、自分がどうやったらうまくやれるのかを考えてやっていました。そして結局、センターバックをやるようになってからトレセンに入れて、湘南ユースに入れたと思っているので、そこで何かが変わった時の対応力や、いかにポジティブに考えられるかはすごく大事なことだったと思います」

―そうした適応力についてはいまも活きているように感じます。近年の遠藤選手のパフォーマンスには“化けた”と称する声もあると思います。自身ではどのように捉えていますか。
「僕からしたらそんなに急成長はするものではないと思っているので、今まで自分が積み上げてきたものをカテゴリが変わってもシンプルに出せているだけだと思っています。今までの経験がすべて活きていて、いまこのシュツットガルトでやれているなと。ただ、ボランチでシーズン通してやり始めたのはベルギーに移籍してからなので、そういう意味ではまだ3年目です。なので、中盤でやること自体に慣れてきたという部分もあると思います。それにプラスして、フィジカル的なものも含め、今までやってきたことをブンデスリーガ1部でも出せているのが大きいと思っています」

―選手の実力は一歩一歩成長していくものだと思いますが、周囲の評価はあるタイミングで大きく変化したりと、そこにギャップもあると思います。遠藤選手自身にとっては、現在に至るまでに「高いレベルでやれる」という認識を得られる大きな転機があったのか、それともそういった手応えを日々高めていったのか、どちらが近いんでしょうか。
「シュツットガルトでも転機は二つあったと思っています。一つは試合に出られなかった中で、最初にスタメンで出た試合ですね。(19年11月24日の)ブンデス2部・カールスルーエ戦。なかなか試合に出られない時にも腐らずやり続けて、チャンスをもらった時に結果を残せるかというのがサッカー選手は大事なんです、特にプロの世界は。そこで結果を残せたのが大きかったです。ただ、自分自身は試合に出させてもらえればやれるという自信もあったし、練習の中で、チームメートと一緒にやっていて、こういうところはやれるなと客観視していました。あとブンデス1部に昇格してからの開幕戦(20年9月19日のフライブルク戦)ですね。1部の舞台で自分はどれだけやれるのかという物差しになりました」

―遠藤選手のようにいわゆる“エリートコース”ではなくても、ゆくゆくは世界に羽ばたきたい選手が多くいると思います。そうした選手たちに伝えられることはありますか。
「サッカーだけじゃないけど、自分がどうなりたいのかという夢を持つことが大事だと思います。そこから逆算して自分がやらなきゃいけないことや、自分が頑張れば届きそうな目標を設定できるかどうか、そこの目標設定の絶妙なラインが自分の中でしっかりできるかが一番大事だと思います。夢を持って、そこから逆算して、目標を立てて…とよく言われますが、それを何となくやるんじゃなく、本当に自分が達成できそうな目標を置くことが大事です。目標が高すぎてもダメだし、低すぎてもダメだと思います。あと僕は純粋にサッカーが好きで、ずっとそのままでやり続けて、いまここにいられています。どういうきっかけで上に行けるかは誰にも分からないので、チャンスが来た時に掴めるかどうか。それは自分が努力してきた過程がすべてです。とにかく純粋にサッカーを楽しむこと、そして諦めないこと、その上で夢と目標に向かってひたむきに周りの雑音を気にせずやることが大事だと思っています」

―いまの質問にも少し関連するのですが、昨年11月の日本代表活動でマウスピースの話になった際、色付きのものを着用するようになった理由について「守備的MFは注目されづらいから」と語っていました。プロの選手として「注目される」「魅せる」ということについてはどう考えていますか。
「もともとはそんなに目立つようなタイプではないし、目立つような必要もないし、とくに自分からアクションを起こすことはありませんでした。ただブンデスリーガでのデュエルが1位ということで注目されるようになり、日本サッカーの考え方が変わるタイミングになるんじゃないかと勝手に思っているんです。別に僕じゃなくても良かったのですが、こういうタイミングなので少し転機だなと思い、守備的MFでもどういう選手が海外で活躍できるのかと、考えられるきっかけになればいいなと思っています。もちろん基本的には歯を守るためですけどね。でもそれなら色は透明でいいのですが、あえて日本代表カラーの青にしたり、チームカラーの赤にしてみたり、色付きのマウスピースをつけてやってみています。」

―「日本サッカーの考え方が変わる」という意味では、日本でもフィジカルフィットネスという指導者ライセンスが新設されました。まさにいま話していただいたような狙いがあるようなのですが、反町技術委員長は遠藤選手のデビュー戦からの成長を例に出して、フィジカルの重要性を語っていましたね。
「デビュー戦の当時は僕もボランチではプロではやっていけないなと思っていたくらいでしたからね。挫折まではいかないですが、苦い経験だったなと思っています。あの最初の川崎F戦と、その前のナビスコカップの山形戦(10年6月5日)、その時は自分がボランチでやっていけるイメージはまったく持てなくて、センターバックのほうが自分の中でしっくりきていたんです。なので、いまボランチでやれているのは自分でも不思議に思う部分もありますが、そういうふうに言われるような良い例になれているならうれしいですね。そこからさらに他の若い選手が自分を参考にして、成長してくれるきっかけになればと思っています」

―今後の目標を教えてください。
「いまの調子をキープしながらさらに成長していくことです。もっともっとブンデスリーガで存在感のあるチームになって、個人的にもそうなっていきたいなと思います。夏にシーズンが一回終わりますが、そこで自分たちがどこにいるのかというのが一つの目標かなと思っています。チームは1部残留を目標にしていますが、個人的にはそれをまず決めてから、EL、CL圏内に入っていけるようなチームにしたいというところが一番の目標かなと思っています。EL、CL圏内に入れば翌年はさらにタフなシーズンになってくるので、その中で結果を残し続けられるかが大事になると思います。あとは代表ですね。これからどのように活動をしていくかというところですが、まずはチームで試合に出続けていれば代表にも入れると思いますし、W杯予選も始まるので、そのためにも結果を残し続けていきたいと思っています」

―最後に後半戦の着用スパイクについてです。『フューチャー6.1』から『フューチャー Z』に向けて、大きくアップデートされましたね。
「全体的に変わりましたね。トップのところは普通のスパイク生地なんですが、真ん中のところに加工があって、結構柔らかい素材のバンドになっています」

―真ん中部分の締め付けはどのような感触ですか。
「意外と締め付けは強くないですね。むしろ他のスパイクよりもフィット感を得やすくて、締めつけすぎず、ゆるすぎないのでちょうど良いと思います」

―デザインはいかがですか。
「格好いいなと思っています。いまのが黒とオレンジで、そのスパイクも気に入ってはいるんですが、スパイクくらいは派手なものを履きたいなというのもあるので(笑)。僕はユニフォームに合うスパイクを履きたいなと思っているんですが、黄色はどの色にも合うと思っていて、赤でも青でも目立って格好良く見えるので僕は好きですね。」

(インタビュー・文 竹内達也)

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