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自分のスピードで着実に前へ。鳥栖U-18MF坂井駿也は絶対にチームに欠かせない

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サガン鳥栖U-18の中盤のキーマン、MF坂井駿也

[7.4 プレミアリーグWEST第9節 G大阪ユース 1-3 鳥栖U-18 OFA万博フットボールセンターB]

 もう誰かと比較するのはやめた。自分がやるべきことを、適切に、丁寧にこなしていくことでしか、前に進めないことを理解できたから。「同年代でトップチームにデビューしている選手もいて、それが自分の中ではプレッシャーになって、ちょっと“ブランク”のような時期もあったんですけど、スタッフが声を掛けてくれたので、それを乗り越えられたからこそ、こうやって今もやれていることは自信になっています」。サガン鳥栖U-18のコントロールタワー、MF坂井駿也(2年=ソレッソ熊本ジュニアユース出身)は今、改めて自分のスピードで前へと歩み続けている。

 ガンバ大阪ユースと対峙した、プレミアリーグWEST第9節。試合が進むにつれて、坂井は少しずつ手応えを掴んでいく。「自分たちも相手をビデオで見て、『上手いな』というのは第一印象でした。でも、実際にやってみて、『自分たちも個でやれない相手じゃないな』と思いました」。その感覚が、積極的なフィニッシュの意識を呼び込む。

 前半34分。MF楢原慶輝(2年)から横パスを受け、少し運びながらゴールを見据えると、そのままミドルシュートにチャレンジ。「今日の自分は攻撃的なポジションで、ミドルシュートは自信を持ってやっているので、良い形でシュートを打った結果が、自信を持ってできたことが、ゴールに繋がったのかなと思います」。ややGKのファンブルはありながらも、坂井が貴重な先制点を叩き出す。

「プレミアで自分は点を獲っていなくて、常にゴールは意識していたので、確かに初ゴールも嬉しいですけど、チームの勢いを付けられるゴールになりましたし、アレでチームの勢いも出たので、そこに関してはチームに貢献できたかなというのはあります」。自分のことよりも、チームのことがより口を衝くあたりに、主力としての自覚が滲む。

 加えてチームの“輪”の後押しも、ピッチの中で今まで以上に実感していた。「今日はメチャクチャ楽しかったです。自分たちは1つになるというのも売りなので、そこは今日の試合でわかる通り、ベンチも1つになっていましたし、去年のクラブユースでもああいう雰囲気を作ってくれたから、優勝という結果も出せたと思います。今日もこっちに来れていないメンバーも寮にいますし、そういう人たちのためにという気持ちを持っているからこそ、ああいう雰囲気に自然となれるので、そういうのもチームの良さなのかなと思います」。3-1の快勝は、全員の力で引き寄せたもの。その手応えが得られたことも、坂井にとっては大きな収穫だった。

 “先輩”との再会も、この試合のトピックスとしては欠かせない。G大阪ユースのストライカー坂本一彩(3年)は、ソレッソ熊本時代の1年先輩に当たる。「上手くなっていましたね。試合前に『身長デカくなったね』とか、『最近はどんな感じ?』とかは声を掛けて話しましたし、自分たちはあまり上下関係がなくて、全然普通に喋れるので(笑)。ここでこうやって会えたのは嬉しかったです」。こういう形で旧交を温められるのは、全国規模のリーグ戦の良い所でもある。

 そんな坂井も、今年の春先には小さくない悩みを抱えていた。同い年のMF福井太智(2年)がルヴァン杯でトップチームデビュー。2種登録もされていない自身の状況に、心が波立つ。「プレーでちょっと自分がやり過ぎてしまったり、『やらないといけない』という想いが強くなって、自分で抱え込み過ぎてミスが増えたりしてしまって……」。

 難しい状況を察知したアカデミースタッフに話を打ち明け、声を掛けてもらえたことで、ようやく思考が切り替わる。「ちょっと考え方を変えて、『先を越された』と思うのではなくて、福井を尊敬するというか、『自分に足りない所があるから、プロにまだ行けていないんだ』と、ちょっと謙虚になって、尊敬する気持ちを持ってからは、プレーがやりやすくなった所はあります」。向けるべきベクトルの方向は、常に自分。「でも、太智がいたからこうやって自分も上を目指せているので、そこはありがたいです」と続けた言葉に、吹っ切れた感情が透けて見えた。

 ここからの目標は、明確過ぎるぐらい明確だ。「自分が目指している所がプロというのは変わらないですし、そこに行くために自分がもっと努力しないといけないので、近くにデビューした選手がいるということをしっかり受け止めて、そこを追い越せるようにもっと努力して頑張っていきたいです」。

 派手ではないが、堅実で、絶対にチームに欠かせない男。自分を客観視する力も手にした坂井が、ここから進むべき道に迷うことは、決してないだろう。

(取材・文 土屋雅史)
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